とある雪国の―――
とある街の―――
小さなカフェを営むメイコの
とある日常です。


【メイコちゃんカフェ】『雪ウサギ』


「ほんとに――、この街は――、雪が……、多いっつうの!」

入り組んだ住宅街の古くて小さな平屋の一軒家が
彼女の経営するカフェだ。

この冬、例年以上の大雪でメイコは毎日
店の除雪に大忙しなのであった。

スコップで、わっせわっせと雪を捨てるのだが
気がつくと店自体が雪に覆われ
まるでカマクラのようになっている始末。
辛うじて窓と玄関は綺麗に雪を除けていたが
こうも毎日、除雪ばかりだと筋肉痛で
仕事がつらくなってくる。

「うがっ☆」

腰にピキンと痛みが走る。

これは、無理しちゃいけないと
きりの無い除雪を諦めてメイコは店内に入り
ケトルに火を入れ湯を沸かす間にハンドドリップに
1杯分だけ挽いた豆を入れた。
ケトルの火を沸騰寸前で止め、豆に湯を湿らせ
一時蒸らした後に円を描くように湯を落とす。
余ったお湯で自分専用のマグカップを暖めて
コーヒーポッドに落したコーヒーをマグに
ゆっくりと注ぐと
香ばしくツンとする酸味が室内に広がる。

メイコはカウンターの内側から未だゆっくりと
降りしきる雪の粒を窓から眺めながらコーヒーを
すすった。

この雪だとお客さん達も外には出たがらない。

今日も閑古鳥が泣くのかと
メイコは「はぁ~~……」と溜息を溢す。

仕込みで作ったオレンジパウンドケーキも
オーブンに入ってるシナモンアップルパイも

この調子だと、それらも自分の胃袋に入れなければならないのかと
思うとダイエット検討中のわが身の危機に
再び「はぁ~~~……」と2杯目の溜息をおかわりした。

店内はメイコのこわだりで一杯だった。
古い足コギミシンの台で作られたテーブル。
壁に簡素に作られた棚には、今どき珍しい群青や琥珀色のガラスビンや
いかにも古そうなカメラ。
色のはげてるがしっかり手入れされた家具たち。
カウンターの後で出番を待つ海外製の年代物のカップ。
全てがメイコが一つ一つ探し出した雑貨たちである。

ぼんやりとそれらの雑貨を眺めていたそんな時
窓際に気配を感じ、窓に目をやると
なんと、外でウサギの耳がピコピコと動いている。

「なんと?」

メイコは目を擦りもう一度窓を見た。

耳はゆさゆさと揺れ、すすっと上に上ると
女の子と男の子が顔が窓枠に現れた。

女の子と男の子はメイコと目が合いぎょっとしたのか
すっと下に隠れるのだが、ウサギの耳だけはちゃんと
窓に見えている。

どうやら、ウサギの耳の正体は女の子の方の
白いリボンらしい。

まだ中学生くらいの年齢なのだろう。
お客さんとしては、ちょっと若すぎるなと、メイコは思った

「まあ、気になる年齢だよね、こういう店」

自分も同じ年齢の頃、ちょっと憧れたものねと
感慨深くうなずく。
しかし、お客さんとしてはちょっと頼りない。
中学生のお小遣いでは、カフェの値段はハードルが高い。

そこでメイコは妙案を思いつく。

「働かざるもの、なんとやらってね」

メイコはこっそり店内を移動した。


女の子と男の子は再び外から店内を覗き込もうと
ゆっくりと窓に顔を出すと、今度は中の人がいない。
キョロキョロと見回すが、やはり見当たらない。

「おっす」

メイコは入り口のドアを開け声をかけた。
突然の声に、あわあわと驚く女の子と男の子。

「ねえ、あんた達……、アルバイトしないかい?」

メイコはくいっと、外に立てかけている除雪用スコップを
くいっと親指で指した。

「なんと報酬は―――、暖かいお茶と、ケーキです」

「おお~~」
女の子と男の子は目を合わせ歓声を上げた。


まあ、若いだけあってよく動く動く。
二人組みは片っ端から雪を片つけて行く。

メイコは再びケトルに火を入れた。

「……さて、あの年齢の子はコーヒーとか飲むのかな?」

まあ、いいさ、好きなものを飲ませて上げよう。
カフェラテ、キャラメルマキアート、ダージリン……。

オレンジパウンドケーキを切り、四角い白い皿に乗せ
真っ白なホイップクリームを添えた。
偶然にもホイップはウサギの形になりメイコは
遊び心でミントの葉を千切り、ウサギの耳のように飾った。

外でせっせと雪はねをしている二人を見ながら

「あはは、まるで、雪ウサギだよね」

なんて呟き、このケーキを気に入ってくれるかなと

笑みを溢す、メイコであった。


―おしまい―

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

メイコちゃんカフェ『雪ウサギ』

メイコちゃんカフェシリーズの第一話。
北の街の小さなカフェが舞台のちょっとした物語。

コーヒーを飲むかのように、是非お立ち寄りを。

今回は鏡音さんたちが登場。

これまでのメイコちゃんカフェシリーズ。

メイコちゃんカフェ『ベルサを持った悪魔』
https://piapro.jp/t/nXP0

メイコちゃんカフェ 『優しい苦さ』
https://piapro.jp/t/tMnR


悠樹さんによるスピンオフ作品
こちらも是非お読みください。

メイコちゃんカフェ・別館『カイトくんバー』
https://piapro.jp/t/dpsU

メイコちゃんカフェ・別館『カイトくんバー』②
https://piapro.jp/t/nGcu

閲覧数:499

投稿日:2024/02/20 09:29:40

文字数:1,870文字

カテゴリ:小説

  • コメント3

  • 関連動画0

  • あみっこ

    あみっこ

    ご意見・ご感想

    かんぴょさんの手がけた小説、初めてしっかり読みました。
    この小説にも自作の音楽の時と同じような温かい空気感がありました。
    雪国のお話だけど気持ちが温かくなったので体も暖まった気が。
    店主こだわりの雑貨・家具が並ぶ、こんなカフェがあったら行ってみたいなぁ。

    2023/06/21 22:01:39

  • 悠樹P

    悠樹P

    ご意見・ご感想

    ゆったりと進む暖か味を感じる世界観と、リン・レンを雪ウサギと表現するセンスがとても可愛らしかったです。短い物語なのに、ほど良い余韻のおかげで、物語の続きを想像させるのがまたいいですね。
    私もメイコさんのカフェに行きたい。絶対に美味しい!

    2018/05/12 13:34:34

  • ya-mu

    ya-mu

    ご意見・ご感想

    ほっこりしますー><すごく可愛いです!!
    雑貨も好きですー!!

    2012/02/18 19:24:49

    • kanpyo

      kanpyo

      やったー!褒められた!
      定期的に続きを書きますー。
      雑貨もいっぱい登場です。

      2012/02/18 20:16:17

ブクマつながり

もっと見る

クリップボードにコピーしました