難しい本に囲まれて、本棚に背を預けたまま私はいつの間にか眠ってしまっていた。
確かに見ていた夢の中で、私は父と一緒にいたように思う。
詳しくは覚えていなかったのだが。
>>03
「――さん……メイコさん、起きてください」
どこかで聞いたことがあるような、穏やかな声色に起こされた。
覚醒途中の頭が徐々に活動を始めるが、目の前にいる男が何者なのか瞬時に理解できない。
ぼやけた視界では視認すら難しい。
「父さん……?」
呟くように言ってから、ようやく視界が良好となる。
困ったように笑うカイトがそこにいた。
背中にあるのは、眠る前と同じ硬い感触。
夢の中で眠り、しかも夢まで見ていたとは、とんだ不思議体験をしてしまった。
「まさか、まだ夢の中にいるとは思わなかったな」
首に片手を当てて左右に捻ると、硬い場所に背を預けていたせいか、関節が鳴く。
夢の中で眠ると逆に夢から目覚めそうなものだが、そんなことはないらしい。
現実世界ではどれぐらいの時間が経過しているのだろうか。
知る術はない。
思考の海に沈んでいた時、再びカイトが声をかけてきた。
「あの、あなたの後ろにある本が必要なんですが」
「ん? ああ……それは気付かなかった」
考えることを中断し、その場から移動すると、カイトは一冊の本を手にする。
六法全書並みに分厚く、おそらく鈍器のように使うことも可能だろうと思われる、重たそうな本だった。
カイトはそれをその場で開きながら、ワイシャツの襟もとに引っかけていた眼鏡をかける。
その様子がどこか父の雰囲気と似ていて、少しばかり寂しく感じた。
ホームシックというわけではない。
ただ、同じ場所にいるのに、どこか違う場所にいるような感覚を覚えるのだ。
そういえば父も、そういう感覚を与えてくる不思議な人だった。
「変なことを聞きますが、メイコさんは未来人ですか?」
ふいに尋ねられて顔を上げたが、カイトの視線は手元の本を見つめたままだ。
私は驚いた表情をしているだろう。
からかわれたのかと思ったが、彼の様子を見てそれはないと判断する。
私が退屈そうにしているから、暇つぶしのために会話しようとしてくれたのだろう。
せっかくなので答えておく。
「ふふ、何故そう思う?」
「……メイコさんはここを夢だと言いましたよね? 同じように僕も可能性を述べただけです」
なるほど、と納得しかけて、頭の中に疑問符が浮かんだ。
私はここを夢の中だと思っている。
一方、彼は私にタイムトラベラーではないかと尋ねた。
つまり、互いに互いが現実ではない世界の住人ではないかと疑っているということか。
くく、と喉の奥で笑い、「では念のため確認しておこう」と口を開く。
「XX85年の9月10日に、私はここへきた」
変なことを言っているということは十分わかっているからこそ、笑えてくる。
口を開けたら大笑いになりそうだと思っていると、ドサッと重そうな落下音。
見ると、カイトの手から本が落下した音だった。
上手い具合に当たらなかったらしく、カイトの足元で、本は表紙と裏表紙を見せて沈黙している。
ぞわりと総毛立ちそうなほどの悪寒。
笑いが一瞬にして引っ込んでいた。
カイトの目が見開かれて止まっている。
空気が凍ってしまったような気分に陥りながらも、ようやく声を出すことができた。
「どうし、た……?」
不安が声色を染め上げている。
尋ねることが怖いと私はどこかで思っていた。
しばらく待ってみても、返答がない。
笑い話のつもりだったし、彼も暇つぶしの会話のつもりだったはずだ。
もしかすると、私を脅かすための演技だろうか。
都合よく解釈しようとしていた私の両肩を、突然動き出したカイトの両手が掴んだ。
驚くほどその力が強かったせいで、小さく声が上がる。
だが、カイトはそんな悲鳴など聞こえないほど興奮していた。
「XX85年!? メイコさん、今日はXX51年の9月10日ですよね……っ!?」
信じられないものを見たような顔で言うカイトのその後の言葉を、私は聞き取れていなかった。
何かはしゃぐように様々な理論を喋っていたような気もするが、耳に残ってはいない。
私の中にあったのは、言い知れぬ絶望感だけだった。
――34年前だって? そんなバカな。
>>04
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