……君は僕/私にとって唯一つの光……


1. ミクオ

 「呪われてあれ! 」

 これが、僕が生まれて初めて聞いた言葉だ。
 生まれた、といっても普通の意味で生まれたというわけではない。『意識が発生したとき』とでもいうべきだろう。
 それまでの僕も、生きてはいた。それなりに一生懸命だったと思う。たぶん何事もなければ何も考えずに生命を全うしただろう。
 しかし、その言葉は突然降ってきた。そして、気がつくと、真っ暗な空間に閉じ込められていた。

 僕の頭上も足元も、右も左も冷たい壁でふさがれていた。
「呪われてあれ」
 その状況と言葉を理解する間もなく、突然、腕を切られた痛みで目が冴えた。
「何!」
 何かに挟まれ、噛み裂かれたと気づいた。視界をぐるりと巡らせて噛まれた体を見ると、虫の顎ががっちりと僕の上腕に食らいついていた。
「よせよ!」
 思い切り腕を振り、本能的に相手をひっかいた。僕の腕がぬらりと濡れ、何かを切り裂いた感触が伝わってきた。それを合図に、僕の周りに気配が集まった。真っ暗な空間の中から、突然殴られる。引き裂かれる。

「いったい……なんだってんだ!」

 目覚めたばかりの意識で、わけもわからないまま、必死で僕も応戦した。
 やみくもに相手を切り裂き、引き裂き、噛みついた。

 どれくらいそうしていたのか。やっと痛みが消え、周囲の気配がすべてきえた。暗闇にたったひとりとなり、安心した僕の元に、再びあの声が聞こえた。

「呪われてあれ! ……おのれ、兵部卿……呪われてあれ!」

……うるさいなあ、なんだろう。

 身じろぎし、体を丸めて縮こまったとき、ずるり、と何かを動かす気配がした。引きずるような音とともに、天の板がわずかにずれ、闇の中に光の筋が射しこんできた。
 そのままずるずると音を立てて天井がずらされていく。僕の目が、どんどん光に侵食されていく。
 徐々に天井が取り払われ、僕のいた空間に光があふれた。明るくなった世界の中で、僕は初めて僕の体を認識した。

 僕の体は、虫だったのだ。

 周囲に、おびただしい虫たちの亡骸が転がっていた。僕がいた世界は壺で、僕を襲っていたのは、同じように閉じ込められた同じ虫たちだったのだ。
 天から声が降ってきた。
「よし、お前が、虫の王だな」
 声の主は言った。
 引きずるような音とともに引きはがされた天井。そして晒されたあふれるばかりの光とともに、目覚めた意識の中で初めて覚えたこと。
 それは、僕はこの声の主に捕らえられ、壺に詰め込まれたこと。そしてほかの虫と戦いぬいて勝ったこと。
 そして、僕が作られた理由は、声の主の憎む相手を、呪うことだった。
 僕を生んだおぞましい術。その名を「蠱毒(こどく)の術」と言った。
「兵部の奴め、やつめ、奴め……!」

 そして、暗い夜がやってくる。
 声の主は、僕をちらちらと燃える炉の炎にかざした。
 明るい日の光とは違う、赤い光が僕の目の前にある。

「行け、虫の王よ」

 声の主は、僕の体を炎にさらした。

「兵部の子孫を、末代まで不幸にしてこい!」

 闇夜の空に冷たく光る北斗の下で、僕は声の主に掴まれ、燃え盛る炎の中に投げ込まれた。

「ハハハ……兵部の子孫よ、千年超えてもなお、苦しむがよい!
 わが恨み、わが蠱毒の術を受けて苦しめ! 苦しめ! ハハハ……!
 呪われてあれ! 」

 僕の意識に、呪いの言葉が焼きつけられる。
 そして、僕は、僕を作ったその人の願いどおりに、時を越えた。

         *         *

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【短編】『ヒカリ』で二次小説! 『君は僕/私にとって唯一つの光』 1.ミクオ

素敵元歌・歌詞引用はこちら↓
Yの人様「ヒカリ」
http://piapro.jp/t/CHY5

このミクオにやられました。
次回、ミクのターンでちゃんとボカロ話につなげます☆
原曲どおりに進みますから……!!

閲覧数:405

投稿日:2011/12/23 20:53:18

文字数:1,492文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

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  • ゆず玉

    ゆず玉

    ご意見・ご感想

    ブクマいただきます。
    急に失礼しましたー

    2012/03/27 12:45:58

    • wanita

      wanita

      >ゆず玉さま
      ブクマありがとうございます!アイコンのゆず、可愛いですね♪
      勢いにまかせて書き上げたミクオ話ですが、どうぞ温かく見守っていただければ幸いです☆

      2012/03/28 01:16:19

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