ブルーローズ・レジデンスの庭を抜けて正門を潜った4人のパーティー。屋敷の外へ出ると、あの依頼者が屋敷の前で待っていた。
ヒラヒラと蛾が舞う街灯明かりの下で、彼女は口もとに不適な笑みを浮かべているのだ。まるで、クエストを受けた者たちがブルーローズ・レジデンスから出てくるのを待ち焦がれているかのようにじっとしている。
「お帰りなさい、旅人さんたち……」
依頼者こと、レイヴァン・ヘルシングはパーティーの先頭を歩く者へ語り掛けてきた。その口調は相手に自分の考えが悟られぬよう、冷淡かつ妖しさを込めた意味深な話し方であった。
「あの……クエストの結果は、貴女の望むものになりませんでした…ごめんなさい……」
「そう…まあ、見ての通り残念な結果ですね……」
失望したかのように喋る、レイヴァン・ヘルシングの視線は、青年の立つ方向へ冷ややかに向けられている。青年のほうも相手とは視線を合わせず、複雑な心境で切なげな表情をするのだった。
「約束どおり、報酬は必要ありません。だから、私たちの仲間になったこのヒトを見逃してあげてください。お願いします」
ミクはレイヴァンに頭を下げた。なぜなら、自分たちの仲間を護るためである。なぜなら、先人たちから繋がれた絆を護ると自分たちは決意したからだ。
「そのマモノの行く末は、貴女の好きになさい……。最後に私から、言い残すことがあるから聞いてちょうだい」
「…………」
「その昔ね…ブラムの帝王と言われた女ヴァンパイアは、血の掟を破ったあと自分に繋がる家族を捨てたの。理由は、自分のせいで妹を迫害されて欲しくないって言う“風変わり”なヴァンパイアからの愛よ……」
「レイヴァンさん……」
「これ以上、私の口から話すことは何も無いわ。一応、報酬として40Gだけ、渡しておきましょう……」
ミクは依頼者から40Gを渡された
おこづかいが40Gになる
「さあ、お行きなさい。貴女たちの使命は、まだ始まったばかり……それに私は一応、今は悪女ですから……」
「ありがとうございます」
依頼者からの真意を受け取ったミクは、その不器用なまでの愛情表現に感謝していた。すべてはお守りが持つ繋がりが切っ掛けで、自分たちが導かれたのだと把握したからだ。
「あっ! あと、小さいほうのお嬢さん」
レイヴァンが自分たちの前から消えようとした瞬間だ。彼女は微笑んだ状態でリンに対し、顔を向けている。
「えっ? あたしになにかあるの?」
「これからは自分の年齢を考えて、♡マークを使いますね♡」
レイヴァンはそう告げたあと、微笑みから一瞬だけ目つきを鋭くし、ふたたび表情が作り笑いへと変わるのだ。
「ヒイィッ!?」
この時、リンは心の中でこう思う。
──マジヤバいよっ!。むかしお母さんが遊んでたゼルダの伝説にでてくる、お面屋さんみたいな顔になってるし〜っ!。って言うか、あたしの言ったこと聞こえてるって、どんだけ耳いいのよ!。
リンはダンジョン内でも、ヒトの悪口はうかつに言うべきではないと思うのだった。こうして、ミクたちのパーティーは初めてのクエストを終えた。
ブラム通りから去る4人を自宅の屋上から見つめるレイヴァンは、紅茶を嗜みながら独り言を発していた。
「姉さん……。姉さんが12年前に私へ届けた手紙、やっと叶うことできたわよ。手紙に書いてあった通り、姉さんの仲間だったヒトの子たちがフーガを迎えに来てくれたから……」
今宵も、ブラム通りに紅茶の薫りと瑞々しい薔薇の薫りが漂っていく。
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