この物語は、カップリング要素が含まれます。
ぽルカ、ところによりカイメイです。
苦手な方はご注意ください。
大丈夫な方はどうぞ。
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カイトとメイコに相談をした日から暫く経ち、その後何度かルカとの活動の日はあったが関係上の進展は全く無かった。練習は逆に充実し、がくぽは少しずつ以前の感覚を取り戻しつつあった。
上達していくごとに彼女は純粋に喜んでくれる。基礎だけでなく楽曲の演奏を一緒にするようになり、がくぽはたまにこのままでもいいかと思うこともあった。ただし活動の時間は二週間に一度。それ以外の時で店に彼女が居る間は他の客が彼女に話し掛ける度に落ち着かず、結局同じことの繰り返しで途方に暮れる。
カイトとメイコが店に来る日にルカが居れば、がくぽを交え四人で話す事は少し増えた。ただしメイコがたまに昔の余計な事、例えば笑い話程度だががくぽの失敗話などを持ち出すことだけは有難くなかったが。
きっかけさえあれば、と思い悩みながら過ごしたある活動の日。店は休みでもルカは仕事があり活動はその後の時間、営業日なら開いている時間に活動をしていたためか、「Closed」の札を掛けていた店の扉を叩く音がした。
丁度練習中だったが、がくぽはルカに許可を取り、ギターを置いて扉を開けに行った。
「こんばんは。」
立っていたのはカイトとメイコだった。
「……何で」
「近くに来たら楽器の音がしたから、覗いてみたくなったのよ。」
微笑むメイコの斜め後ろで、カイトが済まなそうな顔で小さく片手を顔の前に詫びる様に立てた。……恐らくメイコが店の扉を叩くのを止めようとしてくれたのだろう。メイコ相手では無理な試みだったことはよく分かる。メイコは微笑んでいても、内心ではがくぽが黙っていた事に対して水臭いと憤っただろう。
「……ちょっと待って。」
店のステージ辺りへ視線を向けると、ルカがこちらに向かって来るところだった。
メイコが手を振るとルカは微笑んでこんばんわと返した。がくぽは観念した。
「寄って行ってよ。」
適当に椅子を出して二人のために用意をすると、そこに座り込んだメイコが微笑んで言った。
「黙ってるなんて水臭いじゃないの……話してくれるわよね?」
微笑んでいても怒っていることは明白だった。
先日二人に相談をしたときに、メイコの言葉に対して音楽を止めたのは昔のことだと切り捨て弁解もしなかったことが、余計にメイコを怒らせているのだろうと何となく見当がついた。
その後結局、何時から始めたのか、どうして二人でやっているのか、何故今まで黙っていたのかを順を追って話す羽目になった。
さすがにルカが居ることと、何時から始めたかを話した時点で気付いてくれた様で彼女との仲を詮索するような質問は一切来なかった。
がくぽの方も自分の音楽以外の意図に関することは話せなかったが、二人の表情を見れば二人とも想像がついているだろうことが分かった。ルカがたまにフォローをしてくれるが、がくぽは一層情けない気分になった。
「……ごめんなさい。」
黙っていた理由まで話し、二人に頭を下げた。
「僕はがくぽがまた音楽をやってくれて嬉しいよ。それに今ちゃんと話してくれたし。」
カイトは穏やかに微笑んでがくぽとルカを見、そしてメイコをちらりと横目で見た。
言葉の後半は明らかにがくぽへのフォローだ。
「そうね……でも私はこれだけじゃ済まさないわよ。」
メイコは怒りを内に湛えた微笑みから一転、真剣な顔で真直ぐに二人を見据えた。
「聴かせて。あなたたちが今まで積み重ねた成果をね。」
ステージで、ルカがピアノの前に、がくぽがその横にギターを抱えて立った。ステージ前ではカイトとメイコが椅子に座ってこちらを見ている。
視線を向けるとカイトが励ますように微笑んで頷いた。ルカに顔を向け、小声で準備はいいか訊ねると小さく頷いた。
ピアノが音色を奏で始めた。その旋律にがくぽのギターが、ルカの、がくぽの歌声がそれぞれ重なっていく。
曲はバラード、切なげな恋の歌だ。
彼女と一緒の曲を演奏するのに、がくぽはあまりジャズには向かないためそれ以外で可能な曲を探した。二人の声の高さが丁度いい、がくぽが彼女に伝えたいメッセージが含まれた歌を。この曲を共に演奏しても彼女は自分の気持ちに気付かないかもしれない。それでも彼女と歌えるならと探した曲だった。
ピアノの音、ギターの音が徐々に大きくなっていく。ルカの歌声に、それを支えるように歌うがくぽの声。次はルカが歌う旋律にがくぽの歌声が掛け合うように重なり、二つの旋律が調和となってステージに響いた。その余韻を帯びながらピアノとギターがメロディを奏で、空気に溶けるように最後の音が流れた。
僅かな間を置いて、拍手の音が響いた。その方向を見ると、カイトが立ち上がり笑顔を輝かせて手を叩いている。その傍らではメイコが椅子に座ったまま目尻を手で押さえていた。
がくぽはルカを見た。彼女も嬉しそうに微笑んだ。
「すごく良かったよ。絶対次は店が開いている日に聴かせてよ。」
ステージから降りてきたがくぽにカイトは興奮冷めやらぬ様子で肩を叩いた。がくぽはそれに微笑んで、メイコの前に立った。
「……どうだった?」
「見りゃ分かるでしょ! ……良かったわ、負けられないって本気で思うくらいにね。」
悪戯っぽく笑ってメイコは目尻の涙を拭った。
「ルカに感謝しなくっちゃね。あんたをもう一度音楽の世界に引き戻してここまで鍛え直してくれたんだもの。」
そう言ってメイコはがくぽの背後に微笑み立ち上がった。がくぽが振り返るとそこにはルカが立っていた。
「ルカ、ありがとう。がくぽが音楽を止めたときは本当に勿体ないと思ってたのよ。それをあなたがここまで引っ張ってくれた。すごく嬉しいの。」
ルカは首を振った。
「がくぽさんが本当に頑張ったからですよ。私は少しお手伝いしただけで。」
「それがなきゃここまでこれなかったのよ、この子は。」
メイコは笑った。がくぽはこの子呼ばわりされた上真実を言われて少々複雑だったが、とりあえず黙って見守っていた。
「私たちも負けてられないわね。」
メイコから視線を向けられたカイトは笑顔でそうだねと答え、二人は椅子を元の場所に戻した。
「今日は本当にあなたたちの歌を聴けて良かったわ。油断してられなくなっちゃったけど。」
帰り支度をしながらメイコが言う。
「もう帰ってしまうんですか?」
ルカが残念そうに言ったが、二人は笑って答えた。
「折角の練習の時間をお邪魔しちゃったからね。僕らも帰ってがんばるよ。」
「またお店が開いてる時にね。」
二人は扉へ向かって歩き出した。がくぽもそれを追う様に歩き、ルカはその少し後ろを付いてきた。
店の扉の前で、メイコが声を上げた。
「あ、そうだ。」
振り返ってがくぽの目の前に来ると、おもむろにがくぽの首に右腕を回し問答無用の力技で引き寄せた。油断していたがくぽはメイコの右胸の辺りに頭を抱えられる形になった。突然手加減無しで不自然な体勢を取らされ首から身体の筋へと痛みが走る。
「いたたたた!!」
「がくぽさん!」
「めーちゃん!」
「今度はこんな水臭い真似すんじゃないわよ? 分かった?」
「分かった! 分かりました!!」
「……よし。」
そう言うとメイコは力を緩めながら小さく囁いた。
「彼女のこと、頑張りなさいよ。」
首をさすって体勢を戻しながらメイコを見ると、暖かい笑顔を浮かべていた。まるで弟を励ますような。
「自信持ちなさい。あんたなら大丈夫。」
がくぽは言うべき言葉を見つけられないままメイコとカイトを見た。二人は扉を潜り、閉じ様に手を振った。
「じゃあね。」
「おやすみなさい。」
扉が閉まろうとする間に滑り込んで二人の仲の良さが滲む会話が聴こえた。がくぽはそれに思わず微笑みながら、静かに扉を閉まるのを見ていた。
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