目の前に設置されたギロチンに括りつけられる寸前、ようやく初めて世界をそのままの形で見た気がした。それと同時に今まで生きてきた十四年間の己の小ささを、本当に自覚できた気がした。
 自分に悪態をつき樹の枝や石ころを投げつけてくる国民達、彼らからは惜しみなく傲慢な為政者に対しての憎しみが伝わってきた。
 それらの感情はむしろ馴染みのあるもので、特別だと思い込んできた自分の境遇が情けない程に平凡であることが理解できた。
 なんて愚かだったのだろう。
 あのちっぽけな王宮が世界の全てだと思い込んできた、己が誰よりも物事の全てを見通していると信じて疑がっていなかった。
 今なら、その全てがあまりにもくだらない思い込みだと断言できる。
 なぜなら世界はこんなにも美しい。己の愚かな選択が、これほどまでに壊してしまったこの国を一目見て尚、そう思えたからだ。
 禍々しい処刑道具によって必然的に下を向かされ、もう無理に周りを眺めようとはしなかった。
「リンネア=リヴェ=アリアンロード、貴女はもはやこの国の君主ではない。貴女の我儘によって、一体いくつの命が消費され、民草が苦しんできたか解っているだろう」
 紅く美しい髪を持った青年の、静かな糾弾が心に沁み渡った。その言葉そのものではない。声の節々から滲み出る感情に、感謝の念を抱かずには居られなかったのだ。
 何の前触れもなく、教会の鐘が最期の時を告げた。
「そろそろ時間だ。最後に一つだけ問おう。何か言うことはないのか?」
 もしも今、ギロチンに括りつけられたこの愚か者が助けを乞うたなら、彼はどうするだろうか?
 答えはあまりにも明白だから、彼に対しても解りやすく、こう答えた。
「あら、おやつの時間だわ」
 目を合わせることもしなかった。彼の歯が噛みしめられる音が聞こえた。
 国民達はもとより、彼すら己の卑小さの犠牲者だ。
 十四年前、あの時定められた役割がほんの少しでもずれていたならば、彼とは別の形で出会えただろうか?
 その自問の答えが見つかる前に、大きな鋼の刃が首を切り落とした。
 首が跳ねあがったおかげで、最期に彼の顔を見ることができた。
 彼は、泣いている。
 力を振り絞って伝えたい言葉も、音とならずに国民達の罵声に飲み込まれた。
 けれど、彼が唇の動きを見てくれることを知っていたから、口だけは最期まで動かした。
「           」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

(歌から勝手に書いた)悪ノ娘 プロローグ

タイトルの通りです。
悪ノP様の『悪ノ娘』『悪ノ召使』の歌を聴いて書いてみました。
しかし、横書きは見づらい、ですね……。
読んでくださる方が一人でもいることを願って。

※注意
この作品は原曲から少々離れた設定で書かれております。
キャライメージ崩壊の危険性がございますので、それをご了承頂ける方のみお読みくださるようお願いいたします。

こちらの投稿ミスで、18-1が抜けております。
投稿日時が最後になってしまっているので、投稿作品から見つけてくださるようお願いいたします。


最後に、悪ノP様。素晴らしい歌をありがとうございました。

閲覧数:632

投稿日:2011/02/24 10:59:22

文字数:1,006文字

カテゴリ:小説

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