自己紹介をしよう。俺の名前はレン。今年で14。所謂、中学二年生を患ってる最中だ。
 大人達は夢を見ろだの目標を持てだの言うが、建設的な将来なんて、まだ思いつかない。
 なんで自分がガッコーに通って、気の合わない連中と話を合わせて、金髪が生意気だと言う理由で叱り飛ばしてくる変人達から、役に立つかどうかも分からない知識を教えられなきゃならないのかの理由も。
 実の親は居ない。俺達が2歳の頃に行方をくらました。俺達って言ったけど、俺には姉がいる。リンって名前で、スクールカーストの中では上位のほうの女。
 成績優秀、品行方正って言うのを売りにしている。その「完璧」な態度は、養父母の前でも同じだ。
 双子として生まれたにしては、俺とリンはだいぶ正反対の人生を送ってると思う。
 養父母は、俺達を引き取って、のちの人生を楽に…なんて考える人達じゃない。
 リンの瞳の色が、亡くなった娘さんと同じだと言って、気に入ってくれたんだ。だけど、俺達が双子だって事で、俺もおまけで養ってもらうことになった。
 その辺から、俺のリンに対するコンプレックスは始まったんだと思う。リンは常に「選ばれる」対象だった。だから、俺はあえて「選ばれない」方向に進んでた。
 だけど、そんな俺を、いつもリンは「肝心な時」に助けてくれた。
 何にせよ、よくできる姉だ。授業中ボーっとしてるタイプの俺に対しても、ちゃんとアフターケアとして、学校から帰ってきてからその日の授業の要点を教えてくれる。
 傲慢な教師達の、長い長い説教混じりの弁論を聞くより、リンから勉強を教えてもらった方がはかどるのは確かだ。
 養父母は、そんな俺達の様子を見て「仲が良い証拠」だと思っている。
 だけど、俺は気づいていた。リンが、そろそろ限界を感じ始めていることに。
 朝起きて、養父母に挨拶をする前から、リンは「戦闘準備」を始める。誰かに言われる前から、決まった時間に起きて、顔を洗い歯を磨き、服を着替え、髪を整える。
 制服姿になってから、ようやく養父母の前に姿を現す。リンにとっては、学校も家も、同じ「公的な場」なんだ。
 常に教師か親と言う監視員が居て、自分はその中で「優等生」でなければならないって分かってる。俺が「劣等生」であることをフォローしてるつもりなんだ。大した女だよ。
 物心ついてから、俺も、リンが「優等生」じゃなかったところを見たことが無い。だけど、最近リンは「疲れた顔」をするようになった。
 俺に文句を言うわけでも、愚痴をこぼすわけでもない。でも、表情が暗い。「戦闘準備」をした後でも、少し顔が腫れてる日があった。たぶん、眠る前に泣いて居るんだ。
 人間は、辛さを自覚してなくても、ある程度の許容値を超えると脳が勝手に涙を放出するものらしい。
 相当、あいつもまいってる。もしかしたら、心が壊れそうなくらいに。
 そんな雑学だけある俺は、リンに聞いてみた。養父母が留守にしていた土曜日のリビングで。
「リン。お前にとって、『家』って、なんなんだ?」
「は?」と、自分のことに疎い姉は聞き返してくる。「『家』って…家でしょ?」
「そうじゃなくてだな」
 俺は頭を掻きながら述べた。
「俺が口だす事じゃないかも知れないけど、家ってのは、休憩して、ガッコーや外でのことをリセットして、羽伸ばして、また明日も出かけてやるかって気合い入れなおす場所だろ?」
「そんなこと言われても、私とレンとは感覚違うよ。別人なんだし」と、リンは明るく言う。
「この家に来てからも、俺は一回もお前が『リラックス』してる所を見たことが無い」と、俺が言うと、
「そりゃー、忙しいからね。弟に勉強教えたり」と、リンは言い返してくる。
「じゃぁ、俺が真面目に勉強するようになったら、少しは『リラックス』出来るって事か?」って聞いてやったら、
「そしたら、家事の手伝いが出来るようになるね」と、リンは答える。
 俺はもう、頭を抱えたね。
「お前、いつまでもそんな大人じみた子供だとな、大人になってから、子供の頃もっと遊んでおけばよかったとか思うようになるぞ?」と、俺が説教すると、
「レンって、そんな哲学を持って、授業サボってんの?」と、リンはからかってくる。
「俺だって、考える所は考えてんだよ」
 俺は説教を続けた。
「お前だって、籠の中の鳥ってわけじゃないんだから、クラスメイトの女子とか見て、『自分ももっと自由になりたい』とか思わないのか?」
「今だって十分自由だよ?」と、小遣いを参考書の購入以外に使わない女は言う。「レンは不自由感じてるの?」
「俺のことは置いておけ。お前、日曜日には何してる?」と、問いただすと、「本屋によく行くよ。そろそろ受験の準備しなきゃならないし」と答える。
 俺は、一瞬自分が宇宙に浮いてるような気がした。この女は、14歳の身で、何処まで「忠実な人生を歩む優等生」であろうとしているのだろうか。と言う疑問が俺の中に発生する。
「クレープ屋に行ったり、ファンシーショップでシール集めたりしないのか?」と、俺は女子共がキャッキャと騒いでいるとき聞きかじった「中学二年生の娯楽」を例に出した。
「太りたくないし、無駄なもの買ってお小遣い減らしたくない」と、リン。「レンは、私にどうあってほしいわけ?」
「俺のリクエストを聞いてどうする!」と、俺はついに声を荒げた。「少しは、『望まれる自分』ってもの以外の可能性を…!」
「うるさいなぁ。声大きいよ」リンは呆れたように溜め息をついた。「つまり君は、私が『良い子ぶってる』って言いたいの?」
「そうじゃない」俺は否定した。「でも、お前が眠る前に泣いてることくらい知ってんだよ。少しは気を張る癖も止めたらどうだ? そりゃ、俺も頼りにならない弟だとは思うが…」
 俺がそこまで言いかけると、リンの目から、「自動的に」涙が出てきた。
 リンはなんでもない風に目をぬぐって、「こんなのが泣いてることになるんだったら、私はしょっちゅう泣いてなきゃならない」と答えた。
「レン。もし、私があんたの気に食わない姉なんだったら謝る。その事については、少し考えさせて」
 そう言って、リンは自分の部屋に向かった。
 俺はリビングに残ったまま、リンの言った言葉を頭の中で繰り返していた。
「私はしょっちゅう泣いてなきゃならない」
 予感は的中してたわけだ。

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Home Planet/第一話

相変わらず、歌の方とはあまりシンクロしていませんが、

Home Planet小説版です。

リンレンの話。

この物語はフィクションです。

閲覧数:2,358

投稿日:2020/05/29 20:02:35

文字数:2,627文字

カテゴリ:小説

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