始めに:
死に損ないが一匹。
今日も、人の手を借りながら、
死んだように生きている。
本文:
二十歳の時に、遺書を書いた。
後悔の念や、誰にも理解されなかった思いを短く端的に綴った。
「死にたい、消えたい」と何度も思った。
自分の不幸を他人のせいにしてきた。
歳をとっても弱いままだった。
結局、死ねずに数十年が過ぎた。
自分の年齢すらも忘れてしまったが、
周りからは、おじいさんと呼ばれるようになった。
今まで書いた物語を読み返すが、
あの頃の気持ちが分からなくなっていた。
私は今まで何を成し遂げたのだろう?
多分、何も無い。
名誉も勲章も、財産もない。
残ったものは、
今まで書いた自己満足の言葉と、この体だけ。
このちっぽけな命を悲しむ者はいない。
叱る者も笑う者もいない。
誰かを憎むのも、自分の正しさを振り回すのも、
過去に執着するのも、
理想を追い求めるのも飽きてしまった。
数え切れない程の罪を犯した。
贖罪しようにも、しきれない程に、
愚かな人生だった。
騙し騙されながら、多くのものを失った。
後悔や失敗ばかりしてきた。
馬鹿をやって、恥もかいた。
出来損ないだと馬鹿にされたし、否定もされた。
嫌われ者である事を自覚しながら生きてきた。
裏切りもあった、大切な人も傷つけた。
ずっと、不安な気持ちに支配されていた。
愛が足りなかった。
誰かの特別な存在になりたかった。
差し伸べられた手を拒んだ。
自分が出来ないことを、
当たり前に出来る周りを見て妬んで、
言い訳ばかりを探す日々。
とにかく、劣等感の塊だった。
自制心がなかった。
自分の弱さを認めず、努力から逃げ、
成長を諦めた。
自分が自分じゃなくなる気がして怖かった。
そう、過去の自分が言っていた。
占いや陰謀論に騙されながら、
自分は特別なんだと思い上がっていた。
そんな自分も嫌いだった。
差別もされた。
傷つけてきた分だけ傷ついた。
対人関係が苦手だった。
人の目を見て話せなかったり、
頭が真っ白になって何も言えなかった。
そのせいで、
何度も無視されたり、誤解されてきた。
寂しがり屋の癖に、赤の他人が怖かった。
もちろん、楽しい事もあった。
嫌われ者であっても、
自分に優しさを向けてくれる人がいた。
誰かの救いがなければ、自分は何も出来ない存在という事も改めて実感した。
成功と言える程の立派な偉業を成し遂げたわけでも、
誰もが思う当たり前を生きてきた訳でもない。
今まで自分が嫌いだったが、
今になって思えば、悪くは無い。
誇れるものは何一つないが、
自分の中でそう思えた。
結局、この世界はなんなのか、
自分は何者なのか、
自分が納得出来る答えは得られなかったが、
今更、何を考えようと手遅れだ。
泣きたいが、涙は枯れてしまった。
隣にいるのは、
愛する者ではなく、幼い頃の私。
静かな空間、木漏れ日を浴びながら、
晴天の空を見上げる。
孤独な男は、自分自身に別れを告げ、
ゆっくりと目を閉じた。
終わりに:
この物語は、彼の死後に必ず消去される。
黒いノートは、
生前の彼が書き記した言葉と共に、
政府機関又は彼の関係者によって保管される。
燃やすのも良し、捨てるのも良し、
これらをどうするかは、管理者の自由である。
また、彼が再び世に現れ、
様々な証言や事実を基にして、
本人である事が証明された場合、
これらは、残っていた場合のみ、
その者に所有権利が与えられ、
返却されるべきである。
以上をもって、終わりとする。
END
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