しばらく歩き回って、レンは城下町を抜けた辺りにある物音、声も聞こえないような荒地に来て、やっと振り向いた。
「…どこまでついてくるんだよ。全く、鬱陶しい!」
「そんなこと言わないで、帰ろう。おなかも空いたしさ」
「じゃあ一人で帰れよ…。兎に角、俺は帰らないよ」
「おーこーらーれーるー」
「しるかっ!」
 軽くしがみつくようなカイトの手を振り払い、レンはまたゆっくりと歩き出す。それを、カイトは文句も言わずに追いかけた。
「ねぇ、レンってば」
「うるさっ!子供じゃないんだからさぁ!」
「子供だったら担いで帰るよ~」
「…」
 たしかにそうかもしれないな、と思いながら、レンはできるだけカイトに言おうとはせず、ただ歩いた。
 荒地に風が吹いて、大量の砂埃が舞った。無意識に顔を腕で覆って、目も瞑って腕の隙間を抜けて入ってきた砂埃が顔やら手やらに当たって、ちょっとした刺激を与えた。
 目を開けて、風が来ないのを確認してから、足元を見た。
「どうしたの、レン?空がひろいですよ」
 最後、わざとらしく敬語になって空を見上げると、ヴァンパイアの国では決して見られなかったであろう、広く透き通った水色の空が広がっていた。
 暗い夜ばかりが続く世界の一角にあるヴァンパイアの国は、さして大きな国でもなく、中の中程度の大きさ。これといって映えるものもなく、これといって汚点もなく。しかしそれでも、ヴァンパイアは高等な種族して知られ、多くの種族を相手に美しい立ち振る舞い、教養とセンス、そしてなおかつその外見からして、種族全体を通して美しいといわれていた。そんなこともあってか、ヴァンパイアたちに結婚願望の理想の中に外見についての理想論はそう多くなく、計略結婚が非常に多い。生まれながらにして結婚相手が決められるものも多い。実はレンもそんな計略結婚の『被害者』である。
「ああ、綺麗だ」

「どこまでいっちゃったんだろ?」
「あの二人のこと?別に大丈夫じゃないの。勝手に帰るでしょ」
 窓の外を眺めながら、リンとメイコはそんなことを話していた。
 そろそろ日は暮れ始め、次第に辺りが暗くなってきて、夕日が綺麗である。城下町にもぽつぽつと明かりが灯り始めたかと思うと、あっという間に夕日と混じってしまう。
 橙色に染まる街並みの中、何人の人が行きかうのだろう。
「…友達」
「え?」
「友達に、なったんだけどなぁ…」
「…」
 頬杖をついてたそがれるように少しだけ首を傾けた後ろ姿は、姉妹らしく似ているようにみえた。

 また、歩いていた。
 今度は、レン一人で。
『――そんなにこっちにいたいなら、こっちにいてもいい。…けど、ヴァンパイアは人間じゃない。人間界に適応していけるかどうかはわからないよ?どうにかなっちゃう前に、戻ってくることをお勧めする』
『――どうにか、ってどう?』
『――無意識に人間を襲って血を吸うとか、急に熱を出して倒れるとか、幻覚を見るとか』
『――なんだ、それ?』
『――じゃ、ボクは帰るけど。…本当に帰ってきてくれない?怒られるんだから』
『――さっさと帰れ!』
 しっしっと犬を追い払うようにカイトに向かって前後に手を振り、レンはカイトを見送った。帰っていくカイトはどこか寂しげに見えた。
 そんなカイトが見えなくなってから、レンはカイトが歩いていったほうに背中を向けて、歩き出した。恐らく、カイトは戻ってから、キカイトたちに大いにお叱りを受けることだろう。
 しばらく歩いてから、レンは戻る場所がないことに気がついた。衣食住、何一つそろっていないではないか!どうしたものか、まさか、リンの元に戻るなどというのは、仮にも王子であるプライドが許さなかった。しかし、同時にレンは王子として甘やかされて育ったため、ほぼ料理も働くことも出来ないだろう。なにせ、働く理由がなかったのだから。
 と、そこに、カイトが走ってきた。それを見つけると内心安心しながら、レンは露骨に嫌そうな顔をした。
「レン!!ちょっと来て!」
「は、はぁ?」
「すむ所もないじゃないか!もう!」
「どこ行くんだよ?」
 その問いには答えず、カイトは不敵な笑みを浮かべながら歩くスピードを速めていった。

「ごめーんくーださーい!」
「ちょ、カイト!」
 息を切らしながらレンがカイトについていくと、カイトはまた、リンたちの城の前に来ていた。驚きながら、レンが怪訝そうな顔をする。
 待っていましたとでも言うようにリンが飛び出てきて、レンに思い切り弾みをつけて飛び掛った。その衝撃でレンは尻餅をついた。走ってきたリンを追いかけてメイコが出てきた。
「カイト、どうしたの?」
 にこにこと笑顔のままのカイトを見てメイコは問いかけた。
「ウチの王子様、ここで預かってやってくれない?」
 思いかげないカイトの言葉に、レンが思い切り声を上げた。
「はぁ!?」
「ぃやったぁ!!」
 それに反してリンは嬉しそうにガッツポーズまでしている。

 かくして、ヴァンパイアの国の王子鏡音レンは、人間の国の城に居候することになったのである。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

遠い君 6

こんばんは、リオンです。
さり気にアイコンを変えてみたり。
来年が寅年ってことで、虎猫で。一応リンちゃんです。
ぶつくさやっているうち、なんとなく小説も進んできた雰囲気ですが、
これからが山場です。なんとなく仲良くなって、何となく過去を知る。
何となく事件が起きて、何となく解決するんです。
そんな何となくなリオンの小説。
…まあ、このままだとただ自虐になりそうなので、このへんで。
また明日!

閲覧数:329

投稿日:2009/12/07 22:59:09

文字数:2,105文字

カテゴリ:小説

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  • リオン

    リオン

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    こんばんは、返事が遅くなりました。

    みずさん
    いえいえっ!コメントありがとう御座います♪

    これから一つか二つくらいの山場が来る予定です。
    ミクさんもちゃんと出てきますよ。いつになるかは分かりませんが。
    リンとライバルになったら怖いだろうなぁ…。レン君板ばさみ!(胸の大きさ的な意味で

    なんとなーくですっ!
    何となくで書いていて、こんなにコメントをもらえるようになって、凄く嬉しいです♪
    自虐的になってもどうにかなります。どうにか。
    コラボも頑張りますよっ♪

    周さん、こんばんは!
    同居だ――っ!わーい

    居候してちょっと肩身が狭い思いをしてればいいよ、レン君は。
    何となくですから、凄くはないのです。おかしくても、凄くはないのですよ(何

    アイコン、可愛いですか?ありがとう御座いますっ!
    とらトラ寅虎~♪
    あ、それ、私も思いました。
    授業で下剋上ってならって、過剰反応しちゃいましたよ(汗
    テストでも一際大きく書いてしまいました(汗々

    ミクだって、いつか登場しますからねっ♪

    2009/12/08 18:59:45

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