「危ない、ハク、後ろッ」
「え――?」
赤い目に映る白の白い髪。その瞬間、ハクの目に恐怖が宿った。
「――っぶねぇッ」
二つの声が重なった。
ガンッと音が鳴って、影は下に落ちた。…三つの影が。
驚いて腰が抜けた様子のハクを助けつつ、アリスは影の正体を冷静に判断しようと、ハクの後ろから首を伸ばして、陰が落ちた辺りを見た。左右の茂みから何かが飛び出してきて、それぞれ影に蹴りを食らわしていたように見えたが…。
「…てて…」
また、声が二人分、重なった。
「デル!それに…赤黒い人!」
「赤黒い言うな!」
思い切り反論したのは、狼少年だった。痛そうに首を押さえて鮮やかな赤毛を引っ掻き回し、右側を面倒くさげに、眺めるようにみた。そちらからは、デルがにらみつけていたからである。
「何でお前がいるんだよ?」
「お前こそ」
「俺はこいつらが変なほうに行ったのが見えたから心配して――」
「じゃあ、俺も同じで」
「じゃあって何だ、じゃあって!」
「ちょっと、二人とも喧嘩してないでよ!その黒いのが何なのか、確かめてみなきゃ」
確かに、デルと『赤黒い人』の間には黒い布を被った何かが倒れている。丁度布が上にかぶさる形になっていて、それが銀狼なのか黒狼なのか、それとも別の生き物なのか、判別の仕様がない。
気がついた様子の狼少年は、言う。
「ああ、これは――」
言い終わらないうちに、好奇心に狩られたハクが黒い布をどけ、下にいるその生き物をじっと見た。後ろからアリスも恐る恐る、しかし怖いもの見たさの精神で顔を出して、黒い布の下を見た。思わず、声を上げた。
「人間!」
そこに目を回して倒れていたのは、確かに人間だった。
三人が驚いている中、狼少年だけが一人、当たり前と言うように平然と構えていた。
「ど、どういうことでしょう…」
「だから、この森に迷い込んできた人間とひっとらえて喰ってたのは、人間だったんだよ」
「人が人を食べる…?」
「そう。ここは人肉食主義者の森だったってわけだ」
確かに。黒狼の仕業だといっていたのはデルだけであって、デルの勘違いであったということならなんら問題はない。
黒いこの服装であれば、遠めに見れば黒狼に見えないこともないだろう。しかも、人間が人間を捕らえて喰っているなどと言う考えは、そう思いつくものでもないだろうし、デルに非はない。
ただ、これで、『血塗れの狼少年』と言う言葉の意味がわかったような気がした。真実を告げないことは、嘘と同じと言うこと。彼がデルに真実を告げなかったことには理由があったのかもしれない。しかし、どんな理由があろうとも、嘘をつくことは彼の考えに沿うものではなかったのだろう。
「…なんで言わなかった」
「言ったってお前は信じないだろうが」
「…否定は出来ないな」
二人とも、『仲良し』だったのか。何を境にいがみ合っていた(デルが一方敵にかもしれないが)のかは分からないが…。
二人は笑った。
無邪気なデルの笑顔と、少しすましたような静かな狼少年の笑顔。それでも、どこか温か二人の笑顔に溶け込むように、はくとアリスも自然と笑顔になっていた。
「…ピンク色…です…」
「何が?」
「空気が、でしょ?ほんわかして」
「みなさんの頬です」
驚いて、それからデルはハクをにらみつけた。
もう一度笑った。
やっぱり、ピンク色だった。
「――ねえ、待ってよ」
森の中へ戻って行こうとする狼少年を、アリスは引き止めた。
「ん?」
「さっきは、ありがとう」
「…ああ、キック」
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「俺が行かなくたって、デルがどうにかしてたさ」
「そういうことじゃないの。お礼はするものよ。兎に角、ありがとう。人がお礼を言ってるんだから、素直に受けなさい」
「…ああ、どういたしまして」
それから、と言うようにアリスは付け足した。
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「――アカイト」
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