※この作品はヘルニア様作成の楽曲『静寂の夜と繰り返す夢』(http://piapro.jp/t/GnrP)を元にした二次創作です。


『翻案・静寂の夜と繰り返す夢』 日枝学


 どうやら記憶というものは、薄れれば薄れる程、綺麗な思い出だけを見せるらしい。
 彼が私の元を去ってから、もうどれほどの時間が過ぎたのだろうか。最近は、似たような毎日ばかり過ごしているからだろうか、時間の流れが早く感じる。
 今日やるべきことはもはや何もない。もう寝てしまおう。
 そう思って私は部屋の蛍光灯を消し、ベッドに横たわっった。目を瞑ると、闇と静寂が私を優しく包みこむ。意識が落ちていく。

 彼が私の名前を呼ぶ。
(……グミ)
(うん?)
(約束するよ、俺……)

 深夜、私は目が覚めた。目覚める少し前まで、また私は、あの夢を見ていたようだった。
 彼は去ったのだから、私も早々にこんな所からは去ってしまい、新しい明日を踏み出すことが出来たらどんなに楽なことだろう。しかし私は、彼と重ねた想い出を、消すことが出来無い。
 彼は去り、季節は変わり、きっと彼の心も変わっていく。何もかもが変わっていく中、私と想い出だけが、変わらずに取り残されていく。私の、悩むとすぐ爪を噛む癖も、彼への想いも、あの日と同じまま、変わらずにそこにある。
 いっそのこと、彼がとんでも無い人間であれば良かったのに。
 私が心の底から幻滅するような人間であれば、優しさなど一欠片も無い人間であれば、私はこんなに苦しみはしなかった。彼の優しさは、私の時を止め続けるのだ。
 彼も、あの日の約束を未だ覚えているであろう。しかし覚えていたところで、今となっては何の意味も無い約束だ。そんなものは――。

 再び眠りにつこうとしたが、眠気は中々訪れない。
 静けさの中で鼓動だけが響く。
 彼は何故去ってしまったのだろうか。彼が口にした言葉以外に、何か事情があったのではないだろうか。やむを得ない事情があったのではないだろうか。
 ――分かっている。そんな事情はどこにも無い。それは私が想像する都合の良い嘘でしか無い。第一、そんな事情を彼が隠し持っていたのだとしても、私が今抱いている心境に変化は無かっただろう。
 私の心は、悲しみの海へと沈んでいく。しかし抗いはしようと思わない。
 重力に身を任せ、あの日の約束が大切な想い出に変わるまで、私は沈み続ける。
 もしかすると、私は間違えているのかもしれない。
 どんなに沈み続けても、沈み続ける限り私は、未来へと足を踏み出すことが出来無いのかもしれない。
 けれど、今はそれでも構わない。

 あの日の夢を見なくなるまで、重力に身を任せていたいのだ。

ライセンス

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【二次創作】翻案・静寂の夜と繰り返す夢【掌編小説】

※この作品は、ヘルニア様作成の楽曲『静寂の夜と繰り返す夢』を元にした二次創作です。

閲覧数:162

投稿日:2011/06/22 09:11:27

文字数:1,130文字

カテゴリ:小説

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