「マスター、何故貴方は、俺は歌うのが好きなんだ、と思うんですか」
「…ん?」
煩雑な日本語に、質問の意味を取り兼ねた。問い返すと、まずカイトの浅いため息が応えた。
「何故貴方は、俺が歌を嫌いでないと断定出来るんですか?」
呆れたような、若干苛立っているような口調。
「…それはお前が、」
「俺がボーカロイドだからですか?俺がKAITOで、ボーカロイドだというだけの理由で、無条件にこいつは歌うのが好きだと勝手に判断するんですか」
こいつ、なんか怒ってるのか?答えに詰まると、カイトが更に追い立てる。
「マスター、答えて下さい。何故俺は絶対歌が好きだと言えるんです、何の確たる証拠もなく」
いや、証拠ならある。お前のプログラムがそういう風に出来てるからだ。だけどそんなこと、カイトだって十分承知なはずだ。
「……ええと、お前は歌うのが嫌いな」
「大好きですよ」
飛ぶ鳥を撃ち落とすどころか、飛び立つ間もなく地に叩きつけられた。
「じゃあ、なんで…」
「…だから、今まさにそこが俺の言ってる論点なんですよ」
度重ねて畳み掛けられる質問に頭が付いてゆかず、俺は埋没してしまう。
「俺は歌う為のボーカロイドで、実際歌うことが大好きです。だけど俺の機能が歌う為に造られているということと、俺自身が歌が好きかどうかという話は別の問題なんです。違いますか、マスター」
違わない。歌を愛するプログラムをおいておけば、の話ではあるが。カイトはまことに理路整然と正論を、涛々と述べている。
「なのに、なぜあなた方は俺達ボーカロイドはみんな無条件に歌うことが好きだと思い込むんですか」
語尾が怒気を孕んでいる。
「質問を換えましょう。人間は何の為に作られているんですか?それだけの能力を持ちながら、なぜ俺達ボーカロイドが歌うようには人は自分の能力を愛せないんです。マスター、貴方は一体なんなんですか」
俺は一体何なのか?
…何故そんなことを訊くんだ、カイト。歌いたくないのか?でも歌うのは大好きなんだろ?
「お前達ボーカロイドは、歌う事を愛するようにプログラムされている。だけど人間には…」
「そういう問題じゃない!」
カイトが、遂に声を荒げた。
一体何にそんなに苛立っているんだ。
「……俺たちにとってプログラムは、いわば本能だ」
一呼吸おいて、静かにカイトは言葉を継いだ。
「だけどあなた方人間の本能は0と1で出来てるんじゃなくて、プログラムのように壊れたりもしないでしょ。本能の出し方の方向性によってはエラーが出ることはあるみたいですが。違いますか?」
違わない。
「だったらなぜ、人であることを謳歌できないんです。俺たちよりも、遥かに豊かに与えられている能力を生かし愛そうとしないんです」
「それは、」
「能力を与えられていることと、その能力を好きであるかどうかは全然別の話だからですよね」
…話が最初に戻った。自ら立てた問いに、カイト自身が答えを断言する。つまり、結論は最初から出ていたのだ。
「解りますか、マスター」
おそらくこれは、非常に理路整然としている、単純な問題なのだろう。
―――だけど。
「…だから俺は、あんたの創る歌が嫌いなんだ」
それは、これ以上はない言葉。
俺自身を嫌われた方が、遥かにマシだった。
理不尽と不条理、矛盾を謳歌う
まさかの小説。
タイトルの「謳歌う」は「うたう」の当て字です。
前のバージョンでグダグダと鬱陶しい後書き。
まぁごちゃごちゃ色々考えて書いたのだが…
ヤンデレじゃないよ。
ダークっぽいけど。真面目なだけだよ。
オチ的には、渡された新曲がまたネタ曲で、
ガチ曲を作らないマスターにカイトがキレただけってのもアリwww
「これだけ作詞と作曲の才能あるんですからガチ曲作ってくださいよ!
何でまたこうやってすぐネタに走るんですか!」
「えー俺が作りたいのはネタ曲なんだもん…ガチ曲興味ない…」
みたいな。
もちろんいちこはガチもネタも大好きです。
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