3月11日、午後9時。ここはアンドロイド平和統括理事会の会議室。ここに数名のトリプルエーの主要メンバーが集まろうとしていた。
20席余りの椅子に囲まれて、非常に大きな円卓の机があり、中心の床にはトリプルエーの紋章が描かれている。三つ星が特徴的であり、それぞれの星に¨聖者・正義・制裁¨という意味がある。
「はろう☆」
「やっと来たかテイ。相変わらずマイペースだな。危うく遅刻扱いにするところだったぞ」
「だって髪とまつ毛の処理とシャワーに時間がかかってたんだもん!」
「それに1時間以上もかけてたのか…まったく、任務前だったら許されないぞ」
「分かってるって。大丈夫、私は任務には本気出すから!」
後から遅れてやって来た、健音テイ。彼女はアンドロイド平和統括理事会・査察執行議長であり、トリプルエーのナンバー3。普段はマイペースで穏やかな感じだが、任務中になると想像できないほど何もかもが豹変する。あとヤンデレ。
その横の椅子に堂々と座る、欲音ルコ。アンドロイド平和統括理事会・査察執行長であり、トリプルエーの実質上のリーダー。テイのようにそこまで堅苦しく無く、むしろチャラけた感じでリーダーには見えない軽い感じだ。
そして席に座ったテイは、何か思い立った様子で口を開く。
「サユちゃん、お腹すいた! アレないかぁ、アレ」
「アレですか? 分かりました」
部屋の扉の側に立つ、揺歌サユ。アンドロイド平和統括理事会・執行補佐長でありナンバー4の立場だが、トリプルエーでは戦力外。しかし日本武術を始めとする、あらゆる格闘技を体得している格闘技師。理事長、そして他のトリプルエーの3人を尊敬し、その傍に仕えること生きがいにしている。
「はい、持ってきました」
「うわぁ、特大肉まん!いただきま~す!」
「おいおい、会議前には飯ぐらいちゃんと食ってこいよ…」
「だってお腹すいたんだもん! もぐもぐ…もぐもぐ…」
「だけどテイ、そんなに肉まん食ってたら、口臭がヤバいんじゃないか?」
「あ…」
「…私がいないと、トリプルエーはこんなにも自由なのね」
「ヤッホー、リッちゃん♪ お帰り~!」
「お待ちしておりました、リツ様」
「リツ、今回は不覚だったな。お前という奴が、警察に逮捕されるなんてな」
「執行長、会議を始めましょう」
「はいはい」
波音リツ。アンドロイド平和統括理事会・査察副執行長である。経歴は一番長いが、リーダーを自ら辞退したために、トリプルエーのナンバー2に留まっている。他のメンバーと比べ、無口で冷静沈着でクール。前回の発砲事件により警察に身柄を拘束されていたが、すぐさま正当防衛として無罪放免で釈放された。
ここで役者は揃い、いよいよ会議が始まる…かと思われたが、肉まんのジューシーな臭いが部屋の中に充満していた。
(肉まん臭いな…)
(肉まん臭いわ…)
(肉まん臭いね…もぐもぐ…もぐもぐ……)
「…あーっ! 肉まん臭い! 我慢ならない! テイと肉まんの一時退室を要求する!」
「何で!? そんなの酷いわ! 職権乱用反対!」
「なら多数決で決めるぞ! 私は賛成!」
「私は反対!」
「…そもそも会議室は、飲食禁止なんだけど」
「えっと、私どちらとも言えないです、はい…」
「はい、賛成2・反対1・棄権1で賛成可決! というわけで出ていけ!」
「異議あり! そもそもサユちゃんが、私に肉まんを提供したのがいけないと思います! はい、私の権限でサユちゃんのみ退場~!」
「…えぇ!? なんて理不尽なんですか! 職権乱用の反対を唱えた人が!」
「そんなの忘れたわ!」
「なら私の権限でテイも退場だ!」
「さ、逆手に取るなんて卑怯な…!」
「執行長、今回の会議の必要事項は¨欲音ルコ・波音リツ・健音テイ・揺歌サユの4人全ての出席を必須とする¨というのをお忘れですか? それにこんな揉めあいで時間を空費するのも、惨めだと思いになりません…?」
場の空気は一気に静まり返る。立っていたそれぞれも、ようやく席に座り始めた。しばらくの沈黙があった後、ルコが咳払いをして話を再開した。
「…仕方ない。論争はやめだ。この肉まんの臭いは、不本意だが我慢する。サユ、換気扇の回転数をあげてくれ」
「承知いたしました」
「最初からそうすれば良かったんじゃない…!」
「さて、リツの言うとおり、今回の会議は全員の出席が条件となっている。それだけに、大事な内容であることは理解してくれているはずだ」
「また面倒な問題?」
「一点目は、理事長から遂に¨BA計画¨が本格的に始動したとのお話だ。それでアンドロイドの開発企業も、緊迫感を感じている。トリプルエーの出撃回数も、更に増える事だろう」
「あーあ…休みの1日くらい欲しいなぁ…」
「2点目は、リツと警察の間に起こった銃撃戦についてだが、日々世間やマスコミは大騒ぎだ。相まって警察との近しかった関係も悪化したし、理事会の信用性も揺らいでいる」
「………」
「だが同時に、警察内部の反理事会派の連中が誰なのかも明確になった。おかげで調べる手間も大幅に減った。そのため、今回の一件は厳重注意という処分になった」
「…感謝します」
「しかし…なぜまた相手は私服刑事だったが、発砲するようなことになったんだ? お前の狙いは、MARTの奴らだったはずだ」
「…はい。しかしあの日、彼らに接触できたと思った瞬間、私の目の前でその刑事がこちらに銃を構えていたんです」
「先に撃ったのはどっちだ?」
「私です」
「報告書には¨警察官の武装解除通告無視¨とあったが?」
「…いえ。武器を捨てろなんて、一言も言っていませんでした
「確かか?」
「はい」
「…あれでしょ、リッちゃんをマークして逮捕しようとした警官さんは反理事会の集まりで、リッちゃんの罪状をできるだけ重くすることで、釈放されにくくしようとしてたんじゃないかな」
「その可能性が非常に高いですね」
「テイも、まともな推測をしたりするんだな」
「し…失礼ね!」
「ともあれ、このような事件はもう二度と起こせない。全員、心得ておくように」
「はっ」
「は~い☆」
「…返事が無いぞ、リツ?」
「…分かりました」
「…お前、いやあなたは私より長くこの理事会にいるんです。まだ、テト前執行長やルナ前議長がいた時からの古参。確かに立場上は私の方が上です。何故あなたが執行長の座を退いたのか、未だに理解できません。しかし、私にとっては部下であれ、目標としている人なのです。そんな人が失敗しているのを見たくはない。分かって下さいますか?」
「…ええ」
「ならいい。では3つ目についてだが、今日より対MARTへの査察、もしくは攻撃行為などを慎むようにする」
「それはどういうことでしょうか…?」
「昨日の事件以来、MARTの総長が狙われたとして、我々に対する周囲の警戒や監視の目が一層厳格化した。迂闊に街中を歩くことはできなくなった。そうなった以上、MARTに関する行動は、しばらく控えるしかない。時が満ちるまで」
「その前に万が一、向こうが先に攻撃を仕掛けてきたらどうする?」
「ふっ、その時は本気で対抗させてもらうさ。徹底的にな」
そして時は3月10日、午後2時過ぎに戻る。あの発砲事件直後だ。狭い路地はパトカーと救急車、そして野次馬で溢れかえっていた。被害にあったMARTの3人と、数年ぶりに再会したユフの姿がそこにあった。
「まさか、本当に恐れていた事態が起きるとはな…」
「カイトさん、僕たちを庇ってくれて、ありがとうございました…」
「私もありがとうございました…!」
「やめてくれ。最後に助けてくれたのは、ユフたち警察の人だよ」
「皆さん、怪我もなく無事でよかったです。私1人だけの傷で済んで一番です」
「それにしてもユフ、とんだ無茶をするよな」
「私も結構、大胆な性格ですから」
「数年前まで泣き虫だった奴が言う台詞かよ…」
「お姉さん、ありがとうございました!」
「えへ…どういたしまして。確か名前は、鏡音リンちゃんだったね。覚えておくわ」
「はい!」
「あ、あの…ユフお姉さん?」
「何かな、レン君?」
「…ずっと連絡がなかったから、心配していたんですよ」
「ごめんねレン君。今までずっと会ったり連絡したりしなかったのは、MARTのみんなを狙っていた悪い人たちを突き止めるためだったの。私が刑事ってばれないために、レン君や他のみんなに話したり会ったりしている所を、見られるわけにはいかなかった」
「そうだったんですか…でももうその心配はなくなりましたよね!」
「ううん。まだ不安は消えていないから、レン君たちの近くにはいれないわ…許してね。これもMARTのみんなを守るためなの」
「はい…」
ユフはお母さんのような優しい笑みを浮かべた後、レンの頭を撫でてあげた。そこへ起き上がったカイトが、ユフに尋ねた。
「ユフ、波音リツはあの後どうなるんだ?」
「勿論、裁判所で審議にかけられます。ですが、統括理事会がバックになり、大きな圧力で無罪判決に持っていこうとするでしょう。しかし、そもそも今回の事件だけでは私たちがどれだけやっても、彼女の無罪判決は確実です」
「どういうことだ?」
「彼女たちに適用されている法律で、トリプルエーの査察員に関する項目に¨査察員は武装した相手による攻撃、または身の危険を察知するような行為を確認した場合、それによる反撃・応戦・回避行動などの戦闘行為を行うことを許可する。これは正当防衛として認められる。その後の顛末が死傷事件にならない限りは、警察や裁判所による逮捕を受けない¨というのがあるんです。だから本来は、この波音リツの逮捕はできないんです」
「じゃあ、なぜリツの逮捕に踏み切ったんだ?」
「私たちは、これまで理事会とトリプルエーの数々の不正行為を追ってきました。それらの証拠も気がつけば、十分過ぎるほどたくさん揃っていました。これを私たちは法の場で、その不正全てを晒そうと思っているんです。処罰や上司の怒りを買うことは覚悟しています。ただ私は、カイトさんに教えていただいた¨これが正しいって思う事を貫くんだ¨という言葉の通りにやりたいんです」
「ユフ、お前…」
「必ずMARTの敵は捕まえてみせます。この手で」
「その言葉、忘れないぞ」
カイトとユフはかつての仲間として、深い握手を交わしたのだった。住む場所が離れても、互いに違う日常を過ごしていても、この信頼関係だけは変わることはない。
「では、みんなをMART本部までお送りしますね」
「そんな、わざわざしてくれなくても、ここからもう3分もしないうちに帰れるぞ」
「ダメですよ。ついさっきまで事件に巻き込まれていたんですから。被害者の方々を最後までお守りするのも、私たちの任務です。それに…」
「それに?」
「ちょっとまた、MARTのみんなの顔が見たくなったなぁ…って思ったんです」
「なんだ、それを早く言ってくれよ。お前の仕事に差し支えがなければ、是非来てくれ。歓迎するぞ」
「本当ですか?」
「ユフお姉さん、来て下さいよ! モモさんやルナさんも待ってますから!」
「…うん!」
カイトは感じていた。この2人は血は繋がってはいないが、まるで本当の姉弟のような関係だと。そう思うと、何だか微笑ましくなってきた。そして、この光景がいつまでも見られたなら――と。
「VOCALOID HEARTS」~第6話・雪歌の使命~
皆さん今日は、オセロットです!
最近天気があまりよろしくないからか、かなりジメジメしてますね…
ユフはお姉さん気質のキャラクターというのがぴったりだと思ったので、この設定にしました。
しかしこうくるとまたしても、レン絡みの恋の予感ルートになりかねないです…もう既にリンとイブキの二股になってますけどねw
次回は第7話「アイドルは突然に」へ続きます。遂にあのアイドルスターが…?
今回も最後まで読んで下さった読者様、本当にありがとうごさいました!
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瓶底眼鏡
ご意見・ご感想
お邪魔です!
おお、AAA思ってたよりフレンドリーだった!もっとお堅い感じかと←
もはやレンはモテレン化する運命なのだ……南無←
でもやっぱり自分はリンとくっつけばいいと思(ry
アイドルスター……あの方か!!
無理に出さなくても大丈夫ですよ!!そして自分はびんさんと呼んでくれてかまいませぬ!!
2011/06/11 12:22:12
オレアリア
今晩は瓶底眼鏡さん!
そうなんですよ…トリプルエーの皆さんはすげぇ堅い感じにしようと思ってて、テイのおっとりマイペースな性格をどう話に持ってこようかとしてたら、いつしか肉まんネタに走ってしまいましてw
ですが完全にお堅い理事長と副理事長、そして理事長補佐の存在があるのは(ry
モテレン、つまりは色男…やはりレンきゅんはそういう運命…!?
リンかイブキか、はたまたはユフか誰にくっつけるべきか…?
アイドルスター、あの方ですよあの方!グ(ry
びんさん…だと!?
とてもではないですが呼べませぬ…でもここはお言葉に甘えてびんさーん!!←
2011/06/11 18:56:20