第一章 ミルドガルド2010 パート15

 大学に入学して初めての講義を終え、リーンとハクリは二人で歴史研究会の部室へと向かうことになった。正確には部室という設備は歴史研究会には存在しないため、メイが適当に見つくろってきた空き教室を部室の代わりとして使用しているらしい。その場所は大学の奥、リーンがカイルに声を掛けられた学内の雑木林の近くにある、小さな小屋とでも表現すべき場所であった。これで丸太小屋だったら完全にアウトドアだけど、とリーンは思わず考えてしまうのだが、ハクリはそのことを気にする様子も見せない。内向的な少女に見えて、リーン以上に活発な少女なのである。
 「お疲れさま。」
 リーンとハクリが部室と呼称される小屋の玄関をくぐると、狭い室内の中央にある、部室の体裁を整えるためだけに存在する様なパイプ椅子に腰かけて分厚い書籍に視線を落としていたカイルが瞳を僅かに持ち上げて、二人に向かってそう告げた。
 「お疲れ様です、カイル先輩。」
 リーンはそう言いながら空いているパイプ椅子の一つに腰を落とした。他に部室に存在するものは、一応の長机一つと、その机の上に置かれているノートパソコン一台、それに歴史関連の書籍がいくつか。それだけの殺風景な室内であった。その殺風景な室内を一瞬できらびやかな雰囲気に変貌させてしまう魅力を持ち合わせているメイの姿は室内には見えない。まだ講義中だろうか、とリーンが推測を立てた時に、カイルがリーンに向かってこう言った。
 「メイは今日収録があるから、暫く来ない。」
 成程、確かに彼女は芸能人だったな、とリーンは考え、では今日は何をするのだろうか、と考えながらカイルの姿を視界に収めた。その視線に気付いたのか、カイルは柔らかな笑顔を見せると、リーンに向かってこう言った。
 「何がしたい?」
 何がしたい。この質問は流石のリーンも予想外であった。成程、活動内容も特に決まっていないのだろう、とリーンは推測を立て、逆にカイルにこう尋ねた。
 「カイル先輩は、何を読んでいるのですか?」
 その言葉にカイルは開いていた本を指で挟みながら閉じ、そして表紙をリーンに向けて翳して題名をリーンに見せた。『ミルドガルド帝国史』とその本には記載されている。
 「ミルドガルド帝国ですか。」
 意外な本を読んでいるな、と考えながらリーンはそう訊ねた。たった十年程度で崩壊したミルドガルド帝国を研究する学者は少ない。それよりも、それ以前の歴史体制を構築していたミルドガルド三国時代やその後のミルドガルド共和国史の方が歴史家には人気がある。実際、史学科に入学したリーンも専攻はミルドガルド共和国史にしようと考えているのである。
 「ミルドガルド帝国の歴史的役割は何か。僕個人の研究テーマだよ。」
 カイルはそう言って少しだけ寂しげな表情を見せた。どうしてそんな表情を見せたのだろう。リーンはそう考えたが、何故かそれを訊ねることは躊躇われた。それはカイル先輩にとって、自身の運命を決定づける程度に重要なテーマの様に感じたからであった。

 すぐに終わると言っていた収録はどうやら随分と長引いたらしい。日が暮れかかっても姿を見せないメイに対して一つ溜息をついたカイルは、それまでの時間に読み込んでいた『ミルドガルド帝国史』から視線を離して、リーンとハクリの姿を視界に収めた。いつの間にか点灯されている電灯の下で、リーンとハクリは二人でパソコンをいじりながら議論を交わしている。その様子を眺めながら、カイルは軽く首筋を撫でた。この二年間、メイにつかまってから一人で本を読んでいるか、メイに振り回されているかのどちらかだったのだ。考えてみれば、サークルとしてまともに機能させるのは今年が初めてだった。去年はメイが新入部員を全て断っているし、と思い起こし、カイルは一つ溜息をついたのである。理由は簡単だった。メイ目当ての人間は歴史研究会に必要ない。つまりは、そういう入部希望者しか集められなかったのである。それに対してあの二人は。会話している内容は世間に存在する女子大生の会話とはかけ離れた、歴史に関する議論らしい。時折耳に入る、レンという単語を意識しながら、カイルは歴史書に栞を挟むと席から立ち上がり、リーンとハクリの背後に回ってパソコンのモニターを除き見た。世界最高峰の電子辞書のページがそこには展開している。
 「カイル先輩。」
 カイルの姿に気が付いたリーンが、ふいに背後を見てからそう言った。輝く様な黄金の髪に、良く好き通った真夏の空の様な広い蒼眼がカイルの視界に納まる。メイに比べれば幼く見えるが、誰が見ても美人だと評価するだろうな、とカイルは考えながら、リーンに向かってこう言った。
 「そろそろ帰るといい。」
 カイルがそう告げると、リーンは僅かに不満そうな表情を見せた。そしてこう答える。
 「あの、いつもこんな感じなのですか?」
 活動のことか、とカイルは考え、どうやら真面目な女性らしい、とリーンに対しての評価を下してから、カイルはリーンに向かってこう言った。
 「いままでメイと二人で活動していたからな。メイがいないときはこうして本を読んでいた。いるときはいる時で、何かをメイが持ってくる。大体が面倒なことだけど。」
 「明日は来られるのでしょうか。」
 続けて、ハクリがカイルにそう訊ねた。その言葉に肩をすくめたカイルは、諦めたような口調でこう告げる。
 「分からない。だが、そうだな。明日からどうするか、メイと話し合っておくよ。」
 ハクリはリーン以上に真面目そうだ、と判断したカイルは丁寧な口調そう答えた。自分に良く似た銀髪を持つ人間を見るのはそう言えばこれが初めてだな、と考えながら。
 二人が帰宅すると、途端に部室が肌寒くなった。一人の時間に慣れているせいか、他の人間の体温が残っている部室が妙に寂しげに見えたのである。その静かな部室の指定席にもう一度腰かけたカイルは、ああは言ったものの、実際明日からどうしようかと考えた。他の部活と異なり、大会に出ると言った目標もないし、と答えの出ない思考を巡らせていると、唐突に携帯電話の着信音が鳴り響いた。胸ポケットに入れていた携帯電話を取り出して着信先を確認する。その名前を見て、ようやく収録が終わったか、と考えてからタッチパネル式の携帯電話の画面を軽く指で触れ、そして右耳に当てた。
 「カイル?ごめん、今日は。」
 明るい声が電話口から響く。メイの声だった。
 「二人とも、もう帰ったぞ。」
 「そう。初日からごめん。今日は何をしたの?」
 「何も。」
 「何も?」
 呆れた様な声が電話口から響いた。呆れたいのはこちらの方だ、と考えながらカイルはこう言い返す。
 「適当にパソコンをいじっていたみたいだな。」
 「で、あんたは読書?」
 「そんなところだ。」
 「もう。」
 拗ねたような声がカイルの耳に届く。この部長様にももう少し事情を理解してほしいものだけど、とカイルは言い返そうとしたが、それよりも先にメイが更に言葉を続けて来た。
 「まあいいわ。それより、あんたこの後暇でしょ?」
 「勝手に決め付けるな。」
 「暇なのね。じゃあ付き合いなさい。あと三十分くらいでグリーンシティ駅に着くから、あんたも来て。まだ部室?」
 「そうだ。」
 カイルがそう答えると、メイがじゃ、よろしく、と短く言ってから通信が途絶えた。通話終了の文字が表示された携帯画面をしかめっ面で眺めたカイルは、一つ溜息をつくと遅れながらも帰宅の準備を始めたのである。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

小説版 South North Story ⑯

みのり「第十六弾です!」
満「出かけていたので投稿が遅れた。すまん。」
みのり「暑くて書く気が失せただけと言う噂も・・。」
満「それは言わない約束で。」
みのり「そ、そうね・・。では次回分もお楽しみに☆明日は午前中は空いているから、もう少し投稿できるはずよ♪」

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閲覧数:286

投稿日:2010/07/18 20:53:12

文字数:3,120文字

カテゴリ:小説

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  • 紗央

    紗央

    ご意見・ご感想

    かいめい萌えだぁぁぁぁぁ←
    ども、紗央です。
    かいめい萌えです、愛してまs((殴
    メイちゃんの性格ほんっとに好きです。
    性格くださいm(__)m←

    メイは収録、ってまたカッコイイですね・・。

    あら、、?
    メイちゃんの感想ばっか・・。

    2010/07/19 06:33:49

    • レイジ

      レイジ

      おはよう^^;
      朝からありがとう☆

      カイメイは正義だから。うん。
      メイは相当はっきりした性格にしてるからね?。こっちも書きやすい☆
      天才乙女なんで♪

      ではでは続きも宜しく!

      2010/07/19 08:33:25

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