――――――――――#2

 『あはははははははは、綺麗事ばっかり並べられる奴はいいよなあ、政府軍の犬の分際で!』
 『悪?犯罪?正義?そんなもんありゃしねえ。仲間を助ける、私らはそれだけなんだよ!』
 『手前はいいよなあ、初音ミクさんはよう!敵さえ倒してりゃ喧嘩の仲裁や分け前の分配や町や村の警備とか食料調達とかみかじめとか話し合いとか、全部政府がやってくれんだろ!?』
 『強い奴ばっか集めて、そりゃ私ら負けるに決まってるけど、てめえらの未来に私らはいねえんだろうが!?だったら、死ぬか殺すかだろうが!』
 『はい、初音ミクの真似ー。これグレートコードって言うんだろ?』
 『命乞いはしない。だけど、私が全力出して戦って死んだら、あいつらは堂々と降伏できる。こいよ。これで最後だ』
 『われらえいえんに えいえんのやみ とばりはこらよ とべよあさやけに やけろわがみは はいとなれちを ちをきよめるため たねのあきには みのるけしきよ』
 『……ちっ。わかった。降伏するよ!』
 『でもな。私は頭がいいんだ。お前の軍に下っても、私が軍に入ったらお前より偉くなるんだからな!覚えておけ!』

 司令室で、基地司令の初音ミクは書類に目を通している。確かに必要な箇所は署名が入っていた。

 「どうした?まさか抜けがあるとか言うなよ」

 亞北ネルが唐突に喋った。かつて、反政府軍の幹部として苦戦した敵だった経歴の、部下だ。そしてクリフトニア領内での最後の作戦で、最強の敵だった。

 「うん。完璧だよ。流石だね」
 「気まずい事この上なかったがな。お前がフォローしとけよ」
 「ありがとう。これが鏡音大佐にとって一番良い話になると思う」
 「だといいがな。命あっての物種って、若いうちはなかなか分からんぞ」
 「別に良いんじゃないかな。ルカよりはうるさくないから大丈夫だよ」
 「そりゃそうだけど。不備がないなら帰るぞ。宿直はよろしく」
 「ご苦労様」

 窓から茜色の空が物悲しげに宵の藍色に染まりつつある。乏しくなる夕陽の中で最後の輝きを一生懸命に誇る空が、心を映す鏡のようだと、いつも思う。

 どうせ感謝もされない、疎まれるだけの汚れ役である。この件で中央の役人ですら、露骨に嫌な顔をしたのに、もう一人の副官の弱音ハクがなんとかしてくれた。後方で日常業務をやっていると、前の戦いで見えなかった事が以下に多いか、良く分かる。

 「今日の仕事は終わり、っと」

 ミクはガラケーをポケットに入れて、通信機のホルダーを腰に付けた。今日はネルもハクもいない宿直だから、何か発令しない限りは夜明けまでミクが基地のラスボスである。超強いという評判を取っているので、重音テトクラスでないと仕掛けてはこないと思われる。

 スタイリッシュにガラケーを回転して、6の長押しで電話をかける。6にはある重要人物のアドレス帳を登録してる。

 「もしもし?私ですが」
 『はい。おはようございます』
 「良く寝れましたか?」
 『はい』
 「では、そちらに行きますので指示通りに準備をしていてください」
 『はい。既に待機しています。ですが、本当に夜中に農作業するんですか?』
 「もちろんです。何故なら私が今日の宿直だからです。日の出まで雑草とりを行います」
 『分かりました。でも、夜中に雑草なんか見分けられる訳が』
 「スターライトスコープを使いますから」
 『なんでそこまでするんですか』
 「有機農法は手間がかかるのです。では、よしなに」

 一方的に通話を切る。ミクは既に服装を整えていた。

 「……そうですね。彼女に雑草取りを任せて、野積みの様子を見に行きましょう」

 基地の敷地内に、ネギとネギ以外を栽培する農場があった。ネギ以外は、エルメルトの農業組合との付き合いで仕方なく作っているが、色々と情報交換とかするので、ネギ以外といえども真剣に作らないと差し障りがある。有機農法を口実に手抜きしようとしたが、意外と上手くいきつつある。とても困っていた所に、例の攻響兵グミさん(仮名)が労働を申し出たので、ネギ以外をやってもらいたいと思っている。強制労働といえども農業オンリーなので、あらゆる問題は想定する必要が全くない。

 ――――――――――1ヘクタールは目指せるだろうか。

 基地内で、農地として確保可能なのは4ヘクタール程度である。大した広さではないと思っていたが、ちょっと見栄張って話した所が、基地産のブランド野菜を売り出す計画まで持ち上がってしまったので、とても大量生産できる雰囲気ではなくなった。訓練の名目で普通科を使うのも限度があるし、1人でも専業に出来ないだろうかと悩んでいたのだ。

 そう。これはチャンスだ。軍でもネギを商業化できる。それを証明するためには、あらゆる手段を厭わない。第7攻響旅団の屯田兵への兵科移行が絶望的な情勢に於いて、グミさん(仮名)は最後の希望だった。頭も緑っぽい髪してるし。

 「これは戦争よ。目に物見せてやるわ」

 エルメルト農業組合のおっさんの、せせら笑う顔を思い出し、闘志を新たにした。この戦い、絶対に負けられないのだ。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

機動攻響兵「VOCALOID」 第4章#2

これは戦争です(葱)
(2013・02・02)誤字を訂正しました

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投稿日:2013/02/02 00:52:52

文字数:2,141文字

カテゴリ:小説

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