その日、先日から約束していたFUJITUBOというアーティストのライブを見て盛り上がってきたアタシとハクは、そのままの足で近くの喫茶店に向かっていた。
「いやー、今日は最高だったなー!生はいいね生は!フーミンの声マジ神!!」
「わ、私もぼっすぃーのサイン貰っちゃった……なんかもう人生の運今日で使い切った気がする……」
直に握手までしてもらえたハクは、嬉しいのを通り越して何か悪い事が起きるんじゃないかと若干怯えてすらいる。
「全く、ハクの癖に生意気だぜ……ま、ぼっすぃーは他のメンバーに比べりゃ地味だしなー」
「それがいいんじゃないか!あの安定感のあるベースがあってこそ、尋さんのギターやツナっちのドラムが活きるんだから!」
「そりゃわかってるって、全員揃ってのFUJITUBOだからな。だとしても、お前の地味キャラ好きは堂に入ってると思うぜ?」
拳を握って熱弁するハクに、アタシはやれやれとため息をついた。
こいつがアニメとかで気に入ったキャラは、大抵他の人には「ああ、あいつ?嫌いじゃないけど、特に支持する理由もないかな」とか2ちゃんでコメられ続けて、最終話の二話くらい手前で主人公をかばって死ぬような運命を辿る。
一度一緒に映画を見た時、第一部であいつが一番に気に入ったキャラが主人公をかばって真っ先に死に、第二部で二番目に気に入っていたキャラが主人公勢を裏切った(因みにそいつは第三部であっさり主人公に切り捨てられた)時はマジで爆笑してしまった。
「もー!別にそういうキャラが好きな訳じゃなくて、私が気に入ったキャラがなぜか人気が振るわないだけなんだって言ってるじゃん!」
「はいはい、そういう事にしといてやるよ。ところで新しい家族が増えたんだって?」
からかい過ぎてハクがちょっと涙目になってきたので、アタシは話題を変えることにした。
「別に、ルカさんとは一緒に住んでるだけで、家族になった訳じゃないけどね」
「そーだっけか?まあいいや、どんな感じなんだよ?」
「いい感じだよ。ルカさんはすぐに家の空気に溶けこんだし、家事とかも手伝ってくれるから凄い楽。ぶっちゃけマスターより役に立ってくれてるよ。まあ、話し方で一悶着あったりはしたけど……」
ハクが語るのを聞き、アタシはうんうんと腕組みをした。
「なるほど、つまり強力なライバル登場って所か」
「ライバル?」
「お前、お前のマスターの事好きなんだろ?そういう奴がいたらそっちに流れちまうんじゃないかってな……」
「えぇっ!?いや別にルカさんはマスターにそんな素振りは見せてないしマスターだって特に積極的にルカさんをプロデュースしてた所はなかったし……っていうかそもそも私別にマスター好きでも何でもないし!!」
顔を真っ赤にし、ここが喫茶店なのも忘れて立ち上がるハク。全く、こういう所がホント可愛いよな、こいつは。
「おいおい、アタシにごまかそうったって無駄なのは分かってんだろ?そういうのには人一倍敏感なんだから」
「本当に違うんだってばー!!そ、そうだ、ネルだって最近家にボカロが増えたらしいじゃん!ど、どうなの!?」
「どうなのってな……」
少々強引な話題そらしだが……付き合ってやるか。うちにも1ヶ月くらい前に鏡音リンレンがやってきたのだ。
「別に大した事はねーよ。増えたっていったってアタシん家は広いから二人くらい増えても大して生活は変わんねーし……それに基本あいつら二人でつるんでて入りづれーしな」
ていうか不可解なのはうちのマスターだ。なんで仕事が忙しくてろくに帰ってこれないクセにボカロ増やすんだ。
「そ、そのレン君が気になってたりはしない!?」
(さっき絡みづらいって言った筈なんだが……)
必死だな、ハク。
とりあえずアタシは自分的な意見を述べる事にした。
「まあまあってとこだな。顔はいいし、センスも悪くない。ただ、スカした感じをしてるのが可愛いくない。50点」
「ひ、低いね……」
「アタシの採点基準なら高い方さ。さて、じゃーそろそろ撤退しますか。支払い宜しく!」
「ちょっ!?」
冗談冗談、と笑いながらアタシは椅子から立ち上がった。
「じゃーね。あんたの恋の大成を祈ってるよ?」
「ち、違うって言ってるじゃーん!!」
最後にハクをからかい、アタシは帰路についた。
「いやっほーーーぅ!!」
「……何やってんのよ、あんた……」
家に帰ると、家の敷地をロードローラーで爆走する鏡音リンが見えた。
「ん?何か問題でもある?」
「……あんた、朝アタシが出る時も乗ってなかった?」
「だから?」
「だからって……」
それって今日の半分近くをロードローラーの上で過ごしてる計算になるんだけど……
「そんなに乗っててよく飽きないなあんた……まあいいや。そろそろ止めろよ?もう夜も遅いんだし」
「えーっ!?まだまだこれからに決まってるじゃん!!」
あー、もう、勝手にしてくれ。
アタシはリンを残し屋敷に向かった。
「ただいまー」
「ん、アンタか」
屋敷の居間では、レンが雑誌を開きながらバナナを食っていた。
「あんたも朝はリンとロードローラーに乗ってなかったっけ?放置していいの?」
「別にオレらだって必ず一緒に居なきゃいけない訳じゃないだろ。アイツほどロードローラー好きでもないし」
一度アタシを横目で確認したら、また手元に視線を落とした。
うーん、やっぱり可愛くない。
「……ネルさんよ、アンタ今度の週末空いてる?」
「空いてるけど?」
すると、レンはこちらに右手を突き出した。その手には紙切れが握られている。
「これ……遊園地のペアチケット?」
「知り合いが急に行けなくなったらしくてくれたんだよ」
理由はわかったが……なぜアタシなのだろう。こいつならリンを誘うだろうに。
「別にいいだろ。気分だよ気分。じゃな」
アタシがチケットを受け取ると、レンは照れたように足早に自分の部屋に向かった。
居間にはページが開きっぱなしの雑誌が残されている。
「今週のあなたの運勢……?」
そこには、『普段とは気分を変えて、いつもはあんまり話さない友達と遊びに行ってみると新しい発見があるかも!!ラッキーカラーはレモンイエロー、ラッキーアイテムは携帯電話!!』と書いてあった。
「ふうん……」
(可愛い所、あるじゃんか)
デートの出来映え次第で点数追加かな。
そう思ってアタシは自分の部屋に向かった。
コメント2
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ご意見・ご感想
lunamark
ご意見・ご感想
ご無沙汰してます、lunamarkです。
注目の作品から来ましたw
このシリーズを通し読みしたのですけど、
ハクミク+マスターのやりとりが好きすぐるっ……!w
そして、今度はネル視点かーと思うと、
次回の展開が楽しみです!
それではーノシ
2011/09/17 22:57:19
瓶底眼鏡
どうもです!感想ありがとうございます!!
何故これだけが注目の作品入りしたのか……←
情けないマスターを気に入って下さる方が多くて良かったです!自分はこんなミクハクに囲まれて生活したいです←
短編シリーズは一回ごとに視点が変わりますからね……因みに4?6までは完全に続き物になっています。
どうぞ楽しんで下さい!!
2011/09/17 23:55:34
ピーナッツ
ご意見・ご感想
ども、初めまして、ピーナッツです。
短編シリーズ読ませてもらってます。
文章が軽妙なので気持ちよく読めます。
こんだけ登場人物多いのにキャラ立ってますね。グッジョブです。
2011/09/11 02:38:44