「マスターは、片想いってどんな物だと思う?」


そう訊かれた時、少しだけ、ぎくりとした。
レンの事だ、知られたらからかわれるだけじゃ済まない。
そう思いもしたが、それ以上に…。
…忘れていた、忘れていたかった事が一気に蘇って…柄にもなく、苦しくなった。
だが世の中というのは、上手くできているのかいないのか、苦し紛れの話でその場をしのぐだけでは、許してくれなかった。




―Drop―
第一話




レンと話してから数日後。
突然、同級生から封筒が届いた。


「マスター、誰これ?見たことない名前だけど」

「俺が中学生の時のダチだよ。全然連絡取ってなかったんだが…」


いきなり何だろう。
そう思いかけて、気付く。
自分の年齢は今、25。
カレンダーを確認して、確信した。


「…なるほどな、同窓会か」

「同窓会?」

「中学を卒業して、今年で10年なんだよ。早いな…」


言いながら封を切ると、思った通り、同窓会の知らせだった。
よくつるんでた奴、勉強がやたらできた奴、逆に成績は悪くてもクラスの盛り上げ役だった奴。
色んな顔が、頭の中に浮かんでは消えていく。
だが俺の気は、とても晴れやかとは言えなかった。


『ごめんね』

『調子に乗んなっての』


対称的な声が、木霊する。
掌に嫌な汗をかいているのが解る。
中学時代の友達には会いたくて仕方ないのに…その声だけで、俺の心は、同窓会に行く事を全力で拒絶していた。


「…マスター?」

「え?」


名を呼ばれて、我に返る。
声の方向を見下ろすと、ミクとリンが、心配そうな顔で見上げてきていた。


「マスター、大丈夫?」

「顔色、悪いですよ?どうかしたんですか?」

「…いや」


誤魔化すように笑って、2人の頭を撫でる。
本当に誤魔化しきれているか、怪しいものだが。


「少し考え事をしてただけだ。大丈夫、何ともない」


その言葉に安心したのか、ミクとリンは顔を見合わせて笑う。
内心で安堵しながら顔を上げると、レンの訝しげな視線とぶつかった。
あの日以来、時々、レンに俺の事を見透かされているような気がしてならない。
逃げたつもりだったのだが、あの会話で、感付かれてしまったのだろうか。


「どうした?レン」

「…別に」


問いかけると、目を逸らされる。
一体、俺にどうしろと言うんだ。


「で、マスターは行くの?同窓会」


何気ない問いに、俺は思わず言葉に詰まった。
行きたいけれど、行きたくない。
その矛盾に挟まれて、俺はすぐには答えを出せなかった。


「…行くよ。同級生に会うのも久しぶりだしな」


やっとの事で返した声は、自分で不愉快になってくるくらい、能天気だった。
多分、今自分が浮かべているであろう笑みも、顔に貼り付けているような、そんな感じがして、気持ち悪い。
それに気付いていないのか、俺に撫でられていた2人は、羨ましそうに見上げてくる。


「なんだか楽しそうですね、同窓会…。私も一緒に行きたいな」

「ね、マスター、行っちゃダメ?」

「ダメ。お前ら、酒は飲めないだろ?会場、多分、酔っ払いばっかだぞ。無理矢理飲まされたらどうする気だ?」

「ちゃんと断れるよ、それくらい!」

「言葉で断った程度で、あっさり引き下がるとは思えないな。大した抵抗はできないんだから、本気の酔っ払いには勝てないだろ」

「う…そうかも…」


納得してくれたのか、リンもミクも、渋々ではあるが行くのを諦めたようだ。
だが、何かに気付いたのか、リンがうつ向いていた顔をぱっと上げる。


「でも、お酒が飲めるなら大丈夫って事?だったら、メイ姉やカイ兄は、一緒に行くの?」

「そうだな…連れていくつもりだけど」

「えーっ?!」


途端に2人そろって不満の声を上げられた。
こういう時までピッチを気にしているのか、ピタリと音程が合っており、音量もそこそこあったため、耳がきーんとする。


「ずるいです!姉さんと兄さんばっかり!」

「そうだよ!なんであの2人も留守番じゃないの?!」

「いや、ダチに自慢しようかと思って。なんだかんだで、VOCALOIDを購入してる奴ってそんなにいないし、それに、家族が増えた事による楽しみってやつもあるしな」


そう言ってやると、複雑そうではあるが、2人とも照れ笑いを浮かべた。
俺は別に、VOCALOIDを5人も購入済みだという事そのものを自慢する気はさらさらない。
5人がいる事で、1人暮らしだった俺にとって、どれだけ毎日の楽しみが増えたか、計り知れない。
少しくらいそれを自慢したって、バチは当たらないと思う。


「そういうわけだから、留守番、頼むぞ」

「しょーがないなぁ…おっけー、任せといて、マスター」


リンの返事に、俺は笑みを返して、部屋に戻ろうとした。
だが、途中でレンとすれ違った時、彼の目が未だに冷めていた事に、冷や汗が出た。
彼にはバレているかもしれない。
自慢なんかのためにあいつら2人を連れていくわけじゃなくて…本当は、1人で行くだけの度胸を、俺が持っていないだけだって事が。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

【自作マスターで】―Drop― 一話目【捏造注意】

復 活!!
お久しぶりですこんにちは、桜宮です。
お休みしている間、妄想だけ膨らんでいったり、挙げ句の果てに暴走してしまったり、大変でしたが、帰ってこれました!
当初の予定より、かなり遅くなってしまいましたが、待っていて下さった皆様、ありがとうございます!


Errorシリーズ5弾目にして、初めて1話目から前回の続きっぽくしてみて、さらに曲がモチーフ。そして悠さん主役。
こういう事して大丈夫だったんだろうかと、ひそかにビクビクしております(汗

第一話ではまだ曲のイントロ部分ですが(←)、今回モチーフとさせていただく曲は、こちらです。

『37℃の雨』
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4103304

この曲、私がボカロにハマったばかりの頃に、よく聴いてた曲なんです。
で、久しぶりに見つけて聴いてみたら、何かを受信してしまって、今に至ります。
でも本当にいい曲だと思いますよ。
泣きながら歌ってるように聞こえて…個人的にはすごく好きです。
もっと伸びろ!と、真剣に思う。
まぁこの辺で自重しておいて…猫背Pさん、こんな形ですみません…(滝汗
これはまずいだろうと思われた方がいましたら、お知らせ下さい。
すぐ対処しますので…。


今回のタイトルの『Drop』ですが、意味は『滴』です。『落ちる』という意味も込めてます。
…いや、本当はもうちょっと字数のある単語が良かったんですけど…『"A"ccident』『"B"ittersweet』『"C"rush』と続いたので、次の頭文字はDだろ!と勝手に縛りを作ってしまいまして…orz
あと、ぶっちゃけあまりかっこいい単語が候補に上がらなかったんです←
そのため、ちょっとズレてる気もしないでもないんですが、Dropで。
はい、どうでもいいですねorz


さて、ここまで来て、悠さん主役は初。
その他にも初めての事だらけで不安なんですが、頑張っていきます!
よろしければ、お付き合い下さいませ…。

閲覧数:538

投稿日:2009/08/11 20:48:46

文字数:2,133文字

カテゴリ:小説

  • コメント4

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  • 桜宮 小春

    桜宮 小春

    ご意見・ご感想

    わああぁ、コメントが…コメントが眩しいいい(黙れ
    ただいまです!!!待っていて下さった方がいるって嬉しいなぁ…皆さんありがとうございます…!やばい泣けてきた…!
    えっと、これは私も飛び跳ねるべきでしょうか。わっふー!←
    …あれ、なんか違う(殴


    +KKさん>
    いえいえ、あの小説のような表現力、私にはとても…。
    +KKさんの文章力が羨ましい!です!
    私が悠さんと出会ってから早半年…最近、彼が私の頭の中で勝手に行動するようになってきたんですが、とうとうここまで来てしまいました(笑
    曲の良さ、上手く出せるように頑張ります!


    つんばるさん>
    ABCに気付いたのはCrushを書いている途中だったんですけどね(汗
    Eは既に『Error』がありますから…次があるとすればFですね(気が早い
    飴玉…!その発想はなかった(笑
    飴玉美味しいですよね(笑
    ハルちゃん出張りますよ!めっちゃ出張りますよ!ここピアプロなのに、ボカロさんたちを差し置いて←
    今回読んでいただけたらわかったと思いますけど、悠さんには辛い思いをさせてしまう事になるので、応援してあげてください。多分、喜ぶと思います。
    そして曲も広められた!もっと伸びろー!!
    大好きなんです、37℃の雨。
    はい、頑張ります!応援ありがとうございます!


    西の風さん>
    こっそりひっそりしなくてもいいのに(笑
    でもありがとうございます!お待たせしてしまってすみません!
    レン君、Crush以来、マスターが怪しいと思ってるみたいですね。
    カッコいいと言っていただけてよかったです!
    続きも頑張ります!
    聴きながら待っていて下さるとは、嬉しいです!
    もっと伸びろー!!!(通算3回目

    2009/08/12 20:52:45

  • 西の風

    西の風

    ご意見・ご感想

    お帰りなさいませー。こっそり待っていた西の風です。ひっそり飛び跳ねておきますわっふぅ(何
    …ええっと何かスミマセン…。お待ちしていたことをお伝えしたかったんです…。

    悠さん主役! というかレンくん格好良いなあ! と思いつつ読んでおりました。
    既に続きが気になって来ております。わくわく。
    「37℃の雨」を聴きつつゆっくりお待ちしております。

    2009/08/12 00:40:44

  • つんばる

    つんばる

    ご意見・ご感想

    桜宮さんおかえりなさーい! 私も飛びはねちゃいますよ、わっふー!(自重しろ

    ABC意識してるのかと思ったらやっぱり意識されてたんですね! 次の題名ひそかに期待してました(笑
    ドロップってなんか可愛らしいですね、飴玉みたいで(すみませんおなかすいてるんです
    そしてハルちゃん先輩が出張ってくる! ハルちゃん先輩ファンとして応援せずにはいられないですね!

    「37℃の雨」は初めて聞きましたが、コメントする前にマイリスしてたくらい気に入りました!
    桜宮さんの曲選びのセンスも素敵です……!

    それでは、これからも応援してますー!

    2009/08/11 23:20:25

  • +KK

    +KK

    ご意見・ご感想

    復活おめでとうございます、桜宮様。
    飛び跳ねるぐらい嬉しいです。わっふー!←
    そして早速メッセージありがとうございます~。これもつんばるさんの素敵小説のおかげ・・・!
    今回のDropは悠さん主役ということですごく楽しみです。
    しかも過去の恋愛の話もあり!なのですね。
    きっと桜宮様なら曲の良さも最大限に活かして小説を書かれるんだろうなと思います。
    37℃の雨、ずっと聞いてるぐらい好きなので嬉しいです。期待してます!それでは。

    2009/08/11 21:35:28

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