yanagiPの「PASSIONAIRE」が好きすぎて、ティンときて書いた。
「PASSIONAIRE」をモチーフにしていますが、yanagiP本人とは
まったく関係ございません。
ぼんやりとカイメイです! 該当カップリングが苦手な方は
ご注意ください。

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【カイメイ支援】 PASSIONAIRE 【ver.text】



2.

「はい、お疲れー! じゃあみなさん、午後の本撮りもよろしくお願いしますねー!」
 撮影スタッフの声で、午前中のリハーサルが終わり、ステージを降りる。リハーサルなのでモブ役の妹たちは出番なし、ということで、スタジオの隅でリハーサルを見学していた。
「お姉ちゃんっ、すっごく! 可愛かった!」「ねえさまっ、とっても! 可愛らしかったですわ!」
「あ、ありがとう、ミク、ルカ……」
 見事なハモリで賞賛された……自分より年下に可愛いと評されるのはどうなのか。そうは思いながらも、自然と口元が緩んだ。複雑ながらも、やはり褒められるのは嬉しい。
「メイコ姉、すごいな。こういう曲も歌えるんだ。エロいのだけじゃなくて」
「やっぱアレだ。メイコ姉の歌ぜんぶ片っぱしからカバーしたくなっちゃうね。ロリっぽくして」
「レン、リン、それぞれ最後の一言が余計」
 たしなめると、二人はよく似たしかめっ面で「だって本当のことだろー」「メイコ姉おカターい」と口々に不満を垂らした。たしかに私は他の面々に比べて、いわゆる「大人向け」の歌を歌うことが多い。けれど、そればっかりじゃないのを知っていてそんなことを言うのはどの口だ、と、レンを責めてやりたい。それに、ロリっぽい声や歌、それにまつわる犯罪臭すら匂わせるような動画が流行しているのを(自分がそのネタに使われているのも)知っていて、敢えてその波に乗ろうというのは、いかんせん教育上よろしくない。その心意気は買うけれど、さすがに保護者としては許せない、と、リンには言っておかなければ。
「うんうん、やっぱうちのめーこさんは何歌わせてもサマになるねえ」
「ま、マスターまで……」
 満足げな顔のマスターに言われると、そうかな? と思ってしまうのがこの人の魔力だとおもう。私たちがスタジオに着いたときには、既に音響整備や撮影準備などをしていたマスターである。本来ならリハーサル中は調整室で音響や照明を監督するはず(実際操作するのはマスターの弟さん)なのだが、通しだけは見たいと駄々をこねて、下に降りてきたらしい。まったく、一緒に動画を制作してくれる人(まあ、マスターの弟さんなのだが)に失礼だとは思わないのだろうか。
「当然だよね、だっておれのめーちゃんなんだから」
「誰があんたの……って、カイト!」
 至極当然という風な顔をして私の背後に立っていたのは、ここ数日私の心にモヤモヤを残して苛んでいた元凶たるカイトその人だった。
「なっ、なんであんたここにいるのよ!」
「え? 調声終わったからだけど……」
「そーいうことじゃなくて……!」
 でも、たしかに「調声が終わったから」以外に、帰ってくるには何の理由もいらないはずだ。訳のわからない問答をしようとしているのは、きっと不意打ちで動揺しているからにちがいない。過度に冷静になろうとする頭に、ひとつの疑問がかすめる。
 私はこいつに何を言わせたいんだろう?
 ……いやいやいや、何って何! 私は何を期待して……期待? それこそ何を、だ。そうよ、冷静になろうとしてもまだ混乱しているのだ。動揺しているだけ、動揺しているだけよ!(大事なことなので2回繰り返した)
「あー、そうそう。PV撮影、カイトを預けてたヤツも手伝ってくれるってんで、ちょうどいいから来てもらったんだ」
「あ……そう、ですか」
 マスター、ナイス助け舟! GJ! と、心の中で大きく叫びながら、私は胸をなでおろした。
 でも、もしマスターが説明を入れなかったら、カイトはどう答えただろう?
 ……何パターンかはすぐに脳裏に浮かび、しかしどれもが恥ずかしい受け答えばかりだったので、一気に顔が熱くなる。ほんとうに、私はカイトに何を言わせるつもりだったのか。
「……めーちゃん? 顔赤いよ? ステージそんなに暑かった?」
「あっ、え、いや! 大丈夫! 大丈夫よ!」
 そうして動揺している私を傍らに、カイトはこうやって目ざとく(しかしあくまで鈍感に)指摘してくるのだから、私はなんとも格好がつかない。ステージの袖からマスターを呼ぶ声がして、マスターはおざなりな返事をしたあと、私たち兄妹に向きあった。
「じゃあ、めーこさんは本番まで楽屋でゆっくりして。その他は出演準備ね。あ、一応言っとくけど、これからステージは演奏スタッフの打ち合わせと最終調整があるから出入り禁止。わかった?」
 言い含めて、マスターは全員をステージから押し出し、鉄扉を閉めた。
 撮影本番まではあと1時間とすこしだ。モブの出演者たちと合流する妹たちと別れて、私とカイトは楽屋前に残された。そういえば、マスターはさっき『その他は出演準備』と言っていたが、カイトはモブ出演しないのだろうか。
「カイトは? 撮影の間どうするの? モブに混ぜてもらうの?」
「んー、それもいいなあと思ったんだけどね、マスターがダメって。めーちゃんの親衛隊で席いっぱいだって」
「じゃあ、撮影中は待機?」
「いや、何もしないで待っているのも暇だし、ステージにお手伝いしに行くよ」
「そう。じゃあ、結局あんたが今日のライヴをちゃんと見るのは後日になりそうね。せっかく来たのに残念でした」
「そうなんだよねー。あーあ、おれもめーちゃんのこと、客席から見たかったなあ」
 数日前から、なんとも他人を羨んでばかりのようなカイトである。でも、きっとカイトはそういう不憫な星の下に生まれてしまったのだろう、と常々思う。ぽん、と肩に手が乗せられ、その手の主を見上げると、にっこりと満面の笑みがあった。
「めーちゃん、おれもがんばるから、めーちゃんもがんばってね」
「うん、ありがとうカイト」
 私にしては素直に口を衝いて出たありがとうだった。ここ数日間カイトが不在だったことで、カイトがいることに、あくまですこしだけだが、喜んでしまう自分が否定できない。きっと、なんだかんだ言っても、カイトが来てくれてうれしいのだ。……別に、いなきゃいなくても大丈夫だけれど、いるならいるで、そこそこ気持ちも違うもの。
「ところでめーちゃん、トイレどこ?」
「……つきあたり右行って奥」
 そっかわかったありがとう、実は我慢してたんだよねー、と、言い終わるが早いか歩き出すが早いか、カイトは長いマフラーとコートを翻して廊下を歩いて行った。……ちょっとしんみりしていたのに、ぶち壊しだわ、あの男。まあ、そこがカイトらしいと言えばカイトらしいのだが。
 私は、自分でもびっくりするくらい満足げなため息をついて、楽屋のなかに入った。

 ステージ暗転のまま、幕が上がる。
「――Come on! Everybody!」
 ライヴがはじまる高揚感。熱を帯びる会場。真っ暗な状態から徐々に明かりが灯り、ステージが全照に切り替わると、既に盛り上がりの波は高く、うかうかしていると飲まれそうなほどだった。インカムマイクが外れないようにたしかめ、足が縺れないように気をつけながら軽やかなステップを踏む。ダンスレッスンで鍛えた足さばきに、観衆は魅了されるはず。
 イルミネーションが目にちかちか刺さる。ライヴを色どるこのイルミネーションは、職人と呼ばれるひとたちが用意してくれたものだ。ライヴPV撮影に協力してくれる親衛隊のみんなといい、私はほんとうに人に恵まれているとおもう。
「――Yeah!」
こういう曲はノリに乗るとほんとうに時間が早く過ぎて行くもので、一番の歌詞を歌いきるころには、会場は熱気が充満していた。
 今日はキィボードも、トランペットも疾走する感じがよく出ている。観客も大いに盛り上がっている。間奏でソロを披露しているパーカッションを横目に、ステップを踏む。サンバホイッスルとコンガの絡み合うソロが終わり、ティンバレスが軽やかな音で激しいソロを魅せる。これが終われば次はサックスのソロだ。景気づけだ、シャウトを入れてやろう。
「――Everybody dance now!」
 そして、私にあたっていたスポットライトが、サックス奏者にあたって――目に入ったのは、金属色に光るサキソフォーンと、青い髪、そして靡く白のコートに、空色のマフラー。そこにいたのは、まさしく、
「カイト……っ!?」
 その短い叫びは、駆け上がるように見事なグリッサンドに掻き消された。願わくは、その声がマイクに拾われていないことだ。
 ――ちょっと、なんで、どうして、カイトがここにいるのよ! しかもなんで演奏しているのよ! それに、いつの間に楽器なんて演奏できるようになったの! 私の頭の中には疑問符ばかりが、パーカッションソロと同じくらいの激しさで飛び交っている。
 私たちもPVや演出なんかで楽器をもつことはあるが、実際にカイトが演奏しているところは、初めて見る。普段は歌を紡ぐ唇が、今はサキソフォーンのマウスピースを咥えている。すこしだけ目を細めて、身体を前傾にしているところを見ると、息継ぎするのがややつらそうだ。しかし、その楽器から放たれる音色は、きらきらと鮮やかな色をしていながら、どこかとろりとなまめかしく耳に響いていく。汗の伝う横顔が、いつもより凛々しく見えた。すこしだけ苦しそうな表情に、色気すら漂っている。再び駆け上がるように音階を登りはじめた音にあわせて、しなやかに身体が反らされていく。最高音が、けたたましく鳴り渡り――私にしかわからないくらい、かすかに口角を上げたカイトと、目が合った。

 その瞬間、体の中に火が灯ったようだった。

 慌てて二番の歌詞を思い出さなければ、と、おもう頭とは裏腹に、この火を絶やすのは勿体ないという想いが強くなる。ライヴの熱に浮かされたのか、それとも、もともとライヴは熱源で、ほんとうの意味で火を点けたのは、彼なのか。
 熱を帯びたからだは、激しい動悸をもって私を突き動かした。体に染みついたダンスが、ともすれば足が縺れそうになるほど激しくなり、歌う声は先ほどよりもよっぽど圧力をもった。視界の端にちらちらと青い影が映るたび、鼓動は大きく狂おしく、頭はカラッポに、テンションはハイになって、トんでしまいそう――ああ、この歌詞は、こういうことだったのね。いま、あらためて理解できたわ。
 歌に想い乗せて――溢れる心、熱く溶けて!
「dancing-night!」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【カイメイ支援】 PASSIONAIRE 【ver.text 02】

yanagiPの「PASSIONAIRE」が好きすぎて、ティンときて書いた。
今度こそ本当に 怒 ら れ た ら ど う し よ う … … !

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やっとカイメイっぽくなりました。ここで区切っても終われる気がしますが、
でもまだ続きます。……ロミシンに比べてコメントが短いのは、書いてる本人が
とても恥ずかしいからです。恥ずかしいカイメイは大好物ですが、自分で書くとなると
ほんとにつらいです!(萌え的な意味で

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投稿日:2009/05/15 06:42:48

文字数:4,402文字

カテゴリ:小説

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