今、目の前に、自分が会いたくて会いたくて堪らなかった人が、いる。

「メイ、コ……!」

話したいことは山ほどあるのに、口からやっと出てきた言葉は彼女の名前だった。カイトは目尻の奥が熱くなるのを感じた。

「……カイト」
「会いた、かった……! ずっと、ずっと、ずっと……! 会いたかった!」
「……カイト……」
「……君は……僕を庇って……! それで君が死んじゃ、って、ヒック、ホントに、ゴメ──」
「──カイト」

 彼女の声にハッとし、カイトは喋るのをやめて俯いていた顔を上げた。彼女は、何処か寂しげな笑みを浮かべていた。

「──私の話、聞いてくれる?」

 そう言ってこちらをじっと見つめる眸に、カイトは、自分の心を射抜かれているような感覚になった。それなのに目を逸らすことが出来ない。──いや、許されない。
 呆然とし続けるカイトに、答えをYESとみなしたのか、メイコはふっと笑い、語り始めた。

「先に言っておくんだけどね、私、カイトを助けて自分が死んでしまったこと、ちっとも後悔してないし、恨んでもないんだよ?」
「…………」

 カイトは知らず知らずのうちに拳を作っていた。そのことに気づかず彼女は話を続ける。

「むしろ良かったって思ってる。カイトを助けることが出来て、ホントに──」
「何馬鹿なこと言ってんだよ!」

 もう我慢の限界だった。カイトは自分の手に爪を食い込ませるんじゃないかってぐらい拳を握り、今度は自分の思いを彼女にぶつけた。

「『ちっとも後悔してない』? 確かにお前は後悔してないかもしれないけどな、こっちは毎日毎日後悔してんだよ! 毎日毎日『ゴメン』って言ってんだよ! 気を紛らわそうと勉強や好きだったことやっても、どうしてもお前のことが離れなれなかったんだよ!
 それに『むしろ良かった』だ? 何が良かっただよ……! 僕を……僕を、こんなにも苦しませといて……! 少しはこっちのことも考えろよ! 先に置いていかれた……こっちのみにもなれよ!」

 視界が霞んで、彼女の姿がよく見えない。
 一体彼女は今どんな表情をしているだろうか。
 いつもと変わらぬ笑顔? びっくりした顔? 怒った顔? それとも──付き合ってから一度も自分に見せたことがない、泣きそうな顔?
 しかし、それを確認する術は今のカイトに持ち合わせていなかったのだった。

「ゴメンね、カイト……」

 彼女の声色が、泣いているかのように聞こえるのは自分の幻聴か。
 視界が霞む彼には、何も分かりはしない。

「なんで、謝るんだよ……」──謝るのなら、ずっと僕の傍にいておくれよ。
「ゴメンね……ゴメンね……」
「謝るなよ……」──どうか、あの素敵な笑顔を、僕に見せておくれよ。
「私……カイトに、苦しませちゃったんだね……」
「やめ、ろよ……」──僕の心を癒しておくれ。
「ゴメンね……」
「聞きたく、ない……!」──僕の寂寞の思いを癒せるのは、君だけなんだ。
「ゴメンね……!」
「やめて……!」──僕は、ずっとずっとずっとずっとずっと……君だけを見つめます。
「ゴメッ……」
「嫌だ……!」──だって向日葵《僕》は、太陽《君》なしには生きていけないから。


 *


 数分、それとも数十分か。カイトの視界がようやく正常に戻り彼女を見ると、彼女の顔は俯きかけていた。その目は何故か赤くなっている。

「……カイト。もうすぐ、陽が昇るわ」
「……?」
「そうすれば、カイトの目が覚めて、私達はまた会えなくなるわ」
「そんなの……嫌だッ……!」

 せっかく君に会えたのに。どうして。
 彼女は目を伏せながら言った。

「……私達は、本来会ってはいけないの」
「それならどうして、今、会うことができるの!?」
「私達が『会いたい』って願っていたから、神様が同情して叶えてくれたの」
「それじゃあ、『毎日会いたい』って願えばいいじゃないか! そうすれば、ずっと君と……」
「ダメなの」

 彼女の涙ぐんだ声色にハッとし顔を上げれば、カイトはその光景に目を見開いた。
 いつもはしっかり者で、ちょっと怒りっぽい彼女が、透明な涙を流していた。初めて見たその表情に、カイトの心が自然と罪悪感に苛まれた。

「それは、ダメなの。言ったでしょう? 私達は、本来会ってはいけないって」
「だけど……嫌だよ」

 空の星が、一つ、また一つと流れるように落ちていく。

「メイコと、ずっと一緒にいたいんだよ……!」

 スイレンの花が、一つ、また一つと萎れていく。

「ねえ……お別れ、したくないよ……!」

 気がつけば、カイトの目からも止めどなく涙が流れていた。
 きらきらと光るその涙は、まるで天の川のようだった。


 *


「……ねえ、カイト。カイトは、私のこと好き?」

 涙ぐんだ声色のまま、メイコが静かにそう訊いた。カイトは訝しげな目で──涙を流しているままだが──答える。「──好きに、決まってるじゃないか」

「……そう」

 それじゃあさ、と、泣きながら笑って、

「その気持ちを、どうか忘れないで。もし君が、私が、その気持ちを一年間忘れなかったら、きっと神様はまた私達を会わせてくれるから」

 だけど、カイトは納得のいかない表情で、

「……なん、で」
「たとえ思っていても、叶わないことはこの世界にたくさんある。だけど、それでも、その思いを忘れなければ、きっといつか叶う日が来ると思うの」

 星が、花が、落ちる、萎れる、また一つ、また一つ。
 世界が、色を、失くして、いく。

「『織姫』と『彦星』だってそうでしょう? 愛し合ってた二人だからこそ、ずっと忘れられなかった二人だからこそ、神様が会うことを再び許してもらえたのでしょう? ──今日、この日に」
「でも……!」
「もし、カイトが生きて、それでいて私のこと忘れてくれなかったら、きっと私達はまた会える。話すことが出来る。笑い合えることが出来る。だから──」

 ──今は≪ココ≫で、≪お別れ≫、しよう?
 彼女の言葉に、カイトは手に拳を作りながらようやく承諾をした。

「──うん……わかった。……その代わりさ」
「? なあに?」
「キスして、いい?」

 恐る恐る、そう尋ねた。
 メイコはきょとんとした表情になると、すぐに笑って、「──うん、いいよ」

「メイコ……大好き」「大好き……カイト」

 初めて重なり合った、二人の温もり。
 ──瞬間、花色の空に、澄んだ水面に、星が、桃色のスイレンが、また一つ、また一つ、煌いて、咲いて、いった。
 世界が、色に、包まれた。

「もう陽が……昇る」

 そう呟いた彼女の声は、薄れていく彼の意識に届かなかった。


 *


 いつも通り学校へといった彼。その表情は心なしか明るい。
 彼のバルコニーに飾られた向日葵は、彼が笑うようなったからか、それとも彼女が笑っているからか、太陽のほうを向いて元気に咲き誇っていた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【カイメイ】a wish of the pure heart,【後半】

ちなみにめーちゃんの死因は圧死です。飾りの何かの柱()が風にあおられて倒れてしまい、巻き込まれそうになった兄さんを助けて死んじゃったんです(・ω・`)
まあ、そうさせたのは私なんですけどね!(((殴

ちなみに、他のサイトにてコレの某バスケ漫画ver.を掲載しております。名前はもちろん、違う箇所がありますので、ぜひ比べてみてください!(`・ω・)つ【http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=2541057

閲覧数:239

投稿日:2013/07/07 02:04:26

文字数:2,878文字

カテゴリ:小説

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  • しるる

    しるる

    その他

    あ、で、アイテムを忘れたww←

    「雪りんごは一人用冷蔵庫(10)、短冊(5)を手に入れた」

    みんな、最初は一人用冷蔵庫から始まるww

    2013/07/10 02:38:17

    • 雪りんご*イン率低下

      雪りんご*イン率低下

      めーちゃんは天使! そして実際にも天使sh(柱

      へ? うーん、まあ、あったような……?←
      というか最初から違う気持ちで書いてましたwwwだってアッチは腐だsh((ハサミ

      一人用冷蔵庫ついにゲットだ!www
      コレで兄さんを誘い出すことが……←
      短冊は窓にでも飾っておきますwww

      2013/07/10 23:04:15

  • しるる

    しるる

    その他

    あー、そういえば、七夕関連のこと、何もしなかったなぁww
    なんかすればよかった
    相変わらずめーちゃんは、かわいかった
    私の中のめーちゃんは天使……まぁ、これではほんとに天使になってしまっているけど←

    ほう……別サイトのアレンジ版ですかww
    まぁ、私もマイページの二作目あたりで同じことしましたからねww
    書いていた時と気持ちが違ったりして、うーんと思うところもありつつ、でも、あえて変えないということ、ありましたよね?w……え?あるよね?ww←

    2013/07/10 02:36:03

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