UVーWARS
第三部「紫苑ヨワ編」
第一章「ヨワ、アイドルになる決意をする」
その30「帰宅とボーカロイドとクリスマスイブ」
家に帰ろう。
お母さんに報告しよう。
お父さんに伝えよう。
〔受かったよっ!〕
足取りが軽い。
羽根が生えたみたい。
電車の中でにやけているのが自分でも分かる。端で見てたら自分でもキモイと思う。
でも、今だけは許して。
高等部に入ったら、沢山練習して、声が枯れるまで歌って、ヘトヘトになって、寮には帰って寝るだけ。
そんな光景が頭に浮かんだ。
傍には、ネルちゃん、ユアさん、エリーさんがいて・・・。あ、そうだ。ネルちゃんに連絡しないと。
電車は丁度駅に着いたところだった。
ホームに降りて、スマホを出して、ネルちゃんに電話をかけた。電話はすぐにつながった。
「ネル」
「ヨワ、どうだった?」
ネルちゃんの息遣いの勢いが凄い。邪魔なものを押し退けるようだった。
わが心の友は今日が何の日か分かっているようだった。
「受かったよ」
「おめでとう、ヨワ! これで、四月からも一緒だね」
ネルちゃんの声が弾んでいた。一緒に喜んでくれている。わたしもその気持ちがうれしい。
「まだ、筆記試験も、最終面接もあるんだよ」
「ここまできたら、そんなの、もう、どうでもいいわよ」
ネルちゃんらしい。
「で、何位だった?」
「はい?」
「ヨワの通過順位、よ。何番だったの?」
「一番だって、言われた」
ネルちゃんの声が少し曇った。
「そっかー。ま、ヨワの実力なら、満点を取ってもおかしくはないよね?」
何も考えないで、わたしは訂正した。
「ううん、四百点満点の406点だって」
「え?」
ネルちゃんが絶句していた。
「ん? どうかした?」
「アタシは、ノーミスだったから四百点満点だったけど、・・・。ヨワ、あんた、何したの?」
「一回触って減点されたんだけど、踊りが乱れてさらに三十点減点になって…」
「はあ? それでどうして、満点を超えたのよ?」
「他に、課題の踊り方を二通り考えたから、…かな?」
ネルちゃんがスマホ越しに息を飲んだのが分かった。その後、しばし無音が続いた。
「ネル?」
「はあ。そっかー。サクラの二人に同情して、自分以外の踊りも考えたのね」
さすが、親友。心の友よ。よくわかってらっしゃる。
「でも、言わなかったっけ?」
「ん、何?」
「前の日に、電話で。手を抜かないで、って」
「勿論、全力だったよ」
「他の人のことも考えてたんでしょ? 自分の方が疎かになってたんじゃないの?」
そっかー。ネルちゃんはよく気付くなあ。自分の踊りの方の詰めが甘かった、と反省しました。
「そうだね。その通りだね。もうちょっと自分の方も考えればよかったんだ。ん?」
今、気付いた。
「ネル、ひょっとして、実技試験の内容を知ってたの?」
「それは、当たり前でしょ。先に受けたんだから」
ネルちゃんがわざとらしく咳払いをした。
「具体的な内容は口止めされてて、言えなかったのよ」
それもそうだ。だから、前日にあんな電話をかけてきたんだ。
それに、通過してしまえば、どうでもいいことだし、あとは筆記試験と最終面接だけだから、・・・。
「ネル、今日は、時間、ある?」
「ごめん。今日は家で準備があるから」
「何の準備?」
「クリスマス」
「ああ、そうだ! 忘れてた!」
そそくさと、ネルちゃんとの電話を切り上げ、わたしは家路を急いだ。
去年のクリスマスイブは、母と買い物をして、みんなでケーキとチキンを囲んで食べた思い出がある。
帰ったら聞いてほしいことがいっぱいあった。
帰り道は瞬間移動したかと思うくらい早く家に着いた。
その家に鍵がかかっていた。車もないことから、母は父と買い物に出かけたのだろう。
合鍵で玄関を開けて中に入った。
「ただいま」
返事がないのは分かっている。習慣だから、仕方ない。
ダイニングのテーブルの上に、母の書いたメモがあった。
「帰ったら、話があります。勝手に出かけないこと」
とりあえず、自分の部屋に入って、普段着に着替えた。今日使ったレオタードや体操着、タオルなど、もろもろを洗濯機に入れ、洗濯が終わるまでの間、自分のランチを用意した。
自分で自分にご褒美をあげたい気分だったけど、特に何か買ったわけではないので、ここはあるもので済ませることにした。
結論は、カップ焼きそばだ。
カップ焼きそばを食べている間、テレビを見ることにした。
近くにあるテレビのスイッチを入れてみた。
いきなり初音ミクが映った。
テレビの中の初音ミクは、お昼の情報番組で、アシスタントのようなことをしていた。
チャンネルを変えたら、別のボーカロイド、黄色い頭の、鏡音レンという男の子が、ドラマに出ていた。
チャンネルをもう一度変えたら、MEIKOとKAITOというボーカロイドが結婚式場のCMに出ていた。
少しだけ、背筋が寒くなった。
もう一度だけチャンネルを変えてみた。
GUMIというボーカロイドが天気予報をしていた。
「すご・・・」
他のチャンネルではボーカロイドを見なかった。
ちょっとホッとした。
しかし、わたしはすぐに気を引き締めた。
この短時間でボーカロイドを五人、見つけることになって、世界の半分はボーカロイドが支配しているような錯覚に陥った。
でも、と思う。
わたしはボーカロイド達より優位に立ちたいわけではない。
アイドルという職業が夢のある職業でなりたい人が努力してなる職業で、見てくれる人に夢を与えられる職業であることを証明したいのだ。
〔なんだか、負けたときの言い訳を考えているみたい〕
少し自嘲気味に笑った。
そのとき、玄関が開いた。
わたしは反射的に、テレビのスイッチを切っていた。
帰ってきたのは、父、母、兄と、もう一人いた。
「叔父さん!」
岐阜の山奥から、叔父さんが訪ねてきた。
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