注意:続編です。
カイメイ風味です。苦手な方はご注意の程を。
僕にとって、誕生日は祝うものじゃなくて、…自分の生まれた意味を考え直す日だった。
「機械の僕らは、正確には『創り出され』てるわけだから。そう思うと、尚更、良く分からなくって…」
どうして創り出したの。どうして不要なのに、求められないのに、こうして「在る」の。
歌をもらえない歌う為の機械は…、どうすればいいの。
そう考えていた頃がある。
「歌えている今が幸せで、だから精一杯歌うよ。皆といられる今が幸せで、だからこそ、皆にも幸せであって欲しいと思う」
希望に満ちた言葉を贈る。前へ踏み出せる言葉を贈る。
同じような感情の中に堕ちて来ないで欲しいから。
「でもそれは、幸せで目をそらして、…根本的なところが揺らいでることを忘れようとしてたんだ、って、分かっちゃって」
幸せそうな情景を眺めていて。
今ノコノ幸セハ全部、夢ナノデハナイダロウカ。
目ヲ醒マシタラ、音モナク誰モイナイ、ソンナ場所ニイルノデハ。
幸セニ過ゴシタ時間ノ全テハ、…本当ハ「ナカッタコト」ナノデハナイカ。
…そんな考えを抱いている自分に気付いた。
誕生日を鍵に、「生まれたこと」に対する感情を思い返して、見つけたものは。
―――虚無。否定。無価値…。
「まだ、こんなに、生まれてきたことに不安を抱えてる僕だから。誕生日は祝福されるべき、だなんて、…思えなくて…」
言葉が止まる。
黙って話を聞いてくれていたメイコさんが目を伏せて、ああ、と呟いた。
「そっか。今月末、ミクの誕生日、だものね」
「ミクちゃんのことだって好きなんだよ。だけど…」
「誕生日そのものが怖い?」
「…うん」
頷くと、ため息ひとつ。耐え切れなくなって目線をそらす。
メイコさんが、ゆっくりと椅子から立ち上がって、僕の隣、ベッドに腰掛けた。
軋む音と動く空気を感じる。…一人じゃない、って、分かる。
「莫迦ねえ」
すごく柔らかな声色。穏やかな語調。つられて目線を向ければ、呆れたような苦笑が映った。
「何で生まれてきたか、なんて、そんなに簡単に人類の最大の命題が解けるわけないでしょ」
「まあ、そうなんだけどね…」
「考えるなとまでは言わないけど…、一人で抱え込むのは止めなさいよ」
くしゃ、と髪を撫でられる。…穏やかな優しさに、なんだか、泣きそう。
「…うん、ごめんね…」
「揺らいでても不安でも良いじゃないの。安定し続けることよりも立ち直れることの方が大切だと思うわ」
「うん…」
「幸せ謳歌して何が悪いの。その分、あなたが皆に幸せを配れば良いのよ」
「…そんなこと出来るかな…」
「大丈夫よ、あなたなら」
ゆっくりと髪を撫でてくれる手が柔らかくて、温かい。
「辛い思いを知っている方が、きっと、…優しくなれるから」
あまりに実感の篭った言葉に、とうとう、涙が転がり落ちてきた。
「…ありがと…」
「どういたしまして」
微笑んでくれるメイコさんがとてもまぶしい。
本当だね。
…メイコさんの辛そうな姿、何度か見たけど。
だからこそ、この優しさが在るのなら。辛いことも苦しいことも、感じることは、無駄じゃないんだね。
不安も虚無も、きっと同じ。
「ほんと、ごめんね…」
情けないところを、頼りないところを見せたら、…また、捨てられるような気がしてたんだ。
涙と一緒にぽつりとこぼすと、こつん、と軽く頭を小突かれる。
「あんたって本当に、そういうとこ、莫迦よねえ」
苦笑のままで告げてくる、メイコさんの「莫迦」に、たまらなく愛おしい響きを感じる。
止まらなくなってしまった涙をあんまり見られたくなくて顔を背けた。
そうやって、肩を震わせ続けていると、ことん、と肩口に頭が乗せられた。
かすかに、でも甘く、バニラとメイコさんの香りが入り混じって鼻をくすぐる。
…そういえば、アイス、溶けちゃったなあ…。
「メイコ、さん?」
もたれてきたメイコさんに、どうしたの? と問いかける。
その答えに、…ゆっくりと紡がれる歌。
♪Thank you for the birth of you
今のあなたの始まりに
Thank you for the birth of you
わたしと居てくれるあなたに…♪
「え…?」
タイムリーな曲に驚きの声が漏れるも、メイコさんは僕の肩にもたれたままで、ゆったりと歌い続けている。
心地よくしみてくる旋律に任せて、僕は瞳を閉ざした。
軽く預けられた重みが語る。
―――ここに居て、隣に居て欲しいの。
かすかに伝わる温もりが語る。
―――私はここに、確かに居るんだから。
やさしくておだやかな歌声が、語る。
―――生まれて来てくれて、ありがとう。
言葉じゃないけれど、いつも以上に雄弁なメイコさんが嬉しくて。
あんなにバカなことを考えている僕を伝えたのに、それでもそう歌ってくれることが幸せすぎて。
…止まらない涙が重荷を崩していく。
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