「ぐはっ……!」
「ねぇ父さん、僕を褒めてよ。僕、魔女の子分も倒したんだ」
大人と子供の差があるというのに、力で負けてしまったとは……どれだけ自分は体力がないんだろう。
膝から崩れ落ちる体が嫌というほどに自分の非力さを語った。
そして、そんな僕を嘲笑うように見下ろしてくる少年少女は、飽きたかのようにくるりと方向転換をし、燃える暖炉……イヴのところへと行った。
──お願いだ、イヴだけは、殺さないでくれ。
彼女は悪くないんだ。
ただ、彼女は「Ma計画」の候補者として選ばれただけなんだ。
彼女は純粋に、僕を愛してくれたんだ。
だけど、計画は失敗して、彼女は壊れてしまったんだ。
……違う。僕が壊してしまったんだ。
僕は「Ma計画」を利用してあの国を支配してやろうと、
僕から母親を奪ったあいつらに制裁を与えようとして、
彼女に近づいて、「venom」を使って自分の恋人にさせて、
結果、彼女が産むはずだった『双子』は死産して、──彼女は壊れてしまった。
最初は、ただ利用してやるつもりだった。
だけど──僕も、彼女を本当に好きになってしまっていた。
都合のいいことなのかもしれないけど、僕は、イヴを、愛してる。
だから、彼女だけは、殺さないでくれ。
僕はどんな殺され方をしてもらっても構わない。
だから、愛しいイヴだけは─────!
*=*=*=*=*
……これで、きっとよかったんだ。
僕は自らの左胸にそっと当て、手を押し込んだ……。
瞬間、僕の力の全てが「彼女」の火傷痕を癒すように消していく。
よかったね。
『イヴ』に似てる「娘」よ。
正直、自分でも『イヴ』がどんな子かはあまりよく覚えてないけれど……
──『愛してた』ってことは、憶えているんだ。
《歯車と彼女の恋愛事情》
「ねえねえ『アダムの魂』?」
「何だい『墓場の主』……正直、その呼び方あんまりやめてほしいんだけど……。僕今『歯車』だし」
「いいじゃない別に。私が『アダムの魂』と呼びたいんだから」
「……もうご勝手にどうぞ」
EVILIS FORESTの腐れた墓場にて。
彼女の『サーバンツ』から出されたエグい料理を頬張りながら、彼女は鬱陶しいほどに僕に話しかけた。
僕はというと、腐臭が自分の服にうつらないよう、料理だけから距離をとっていた。
しかしその料理を彼女が食べている為、彼女が僕に向かって話しかければその腐臭がただようという……。
しかしよくもまあ彼女はこんなエグいものを食べられるものだ。
流石『墓場の主』、といったところだろうか。
「ちょっと、ちゃんと聞いてるの?
あなたなんか『サーバンツ』に頼んで調理してもらっても構わないのよ?」
「すみません『墓場の主』様。この僕『歯車』は偉大なる貴方様のお話を聞いてなかったのでございまして……もう一度おっしゃってもらっても構わないでしょうか?」
「ふっ、よくってよ?」
必死に賛美の言葉を並べたおかげで僕はなんとか命拾いをした。
「……あなたって、どんな女性がタイプなの?」
「…………なんと?」
『墓場の主』から発せられた言葉に、少しの沈黙とともに僕は聞き返した。
彼女は何故か頬を赤く染めながらももう一度言った。
「あなたって! どういう女がタイプなわけ!?」
「……えっと……?」
──今、この人はなんと言っただろうか?
「好きなタイプ」?
訊いたら「美味しい人に決まってるでしょ!」とか「あ、でも全員残さず食べてあげる」って答えそうなこの人が?
明日はこの森に天変地異でも起こるのだろうか……いや、全世界が崩壊するのか……
「──ちょっと! また「聞いてなかった」なんて言ったら今夜の夜食にするわよ!」
「──あ、別に聞いてなかったわけでは……! え、えっと、僕のタイプは……『イヴ』、かな?」
とても冗談とはいえない彼女の言葉に、僕は慌ててこの『魂』の記憶の片隅に残る女性の名を口にした。
多分、『彼女』を愛してたんだから、『彼女』みたいな子がタイプなんだと思う。
「『イヴ』……って『原罪者』のこと? ってことは、『人形館長』もタイプのうちに入るの?」
「え? ……別に僕はあの子のことは……って『墓場の主』!?」
「ふーん、あなた、そんな子が好みなのね……だけど仕事は頑張らなきゃ……」
「ちょっ、それ君の歌じゃないからね!? それにその鋏しまって!!」
突如『墓場の主』が俯き、呟くようにして【嫉妬】の歌を歌いだした。
オマケによく切れる鋏を手に、僕を襲わんばかりのオーラを醸し出していた。
確かに『原罪者』は『人形館長』によく似ているけど、だからって何でそんな怖いことしてんの!?
「偉大な主ー、今日の夕食は何にしますかー?」
「青髪で、体力なくて、華奢で、ツインテな女性が好みの男のフルコースを頼むわ。最悪、一人だけでも構わないわよ」
「かしこまりました」
「え、ちょ、『墓場の主』!? 別にツインテな女性が好みなわけでh……うわあああああ!!」
『サーバンツ』が僕を捕まえる為よく切れる包丁をセッティングした。
もちろん、僕は一目散に逃げたことは言う必要がないだろう。
数分後、『墓場の主』の「もういいわ。今日はたまには虫でも食べたいわ」という声で僕は再び命拾いをしたのだった。
助かった……いや、もともと元凶は全て彼女だったではないか。
いきなり襲うようなことを命令させて!
「おい『墓場の主』……どういうつもりだ」
「あら別に? 私はただムカついたから命令しただけよ。だって彼女達は私の『サーバンツ』なのだから」
「だからって何故僕に襲わせる命令をさせたんだ!」
「ふん、ツインテロリコンのくせに、生意気ね」
「だから僕はツインテが好きなわけでも、そしてロリコンでもない!」
僕がどんなに声を荒げようとも、『墓場の主』は全く動じなかった。
そればかりか、彼女はいきなり世にも不思議な行動を起こしたのだった。
「……似合うかしら?」
──ゴムで自分の短い髪を二つに縛り、ツインテにしたではないか。
しかも若干頬を赤く染めている。
え、なにこれ。これ何の予兆?
絶対不吉なこと起きるよね!?
だってアノ『墓場の主』が自らツインテに──
「……ちょっと、ちゃんと聞いてるの? 聞いてなかったら──」
「聞いてましたよ! 聞いてましたとも!! ……で、どのような風の吹き回しで?」
自分の命を救う為僕は返事をした。
しかし返事をしたしたというのに、だんだん彼女の顔全体が赤くなっていった。
──ヤバイ。
そう思ったときにはもう遅く、彼女は言葉で答える代わりに、力いっぱいの拳を僕に向けたのだった。
*=*=*
「ふぅ、今日も裁判という名のただの会議か……本当、彼女達も懲りないなぁ……」
「──映画館に介入できないあんたって、本当哀れよね。……ふっ」
「さ、『サーバンツ』のメイド! どうしてこんなところに……しかも何気に鼻で笑ったよね!?」
「んー、勘違いじゃない?」
きょとんとした顔で『サーバンツ』のメイドが言った。
いや、勘違いじゃないでしょ、絶対!
「そんなことより、偉大な主がお呼びよ。さっさと来なさい」
「え、『墓場の主』が……?」
なんだろう。もしやこの前よりももっと酷いことをされるんじゃ……!?
そんなことを考えると今すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られるが、メイドの睨みがそうはさせてくれなかった。
そうして、僕は『墓場の主』の元へやってきたのだった。
『墓場の主』は僕がやってきたのを見ると、急に顔を俯きだした。
沈黙が痛い為、僕のほうから仕方なく話しかけた。
「……で、何の用だい?」
「……あ、あなたにはこれからうちの『サーバンツ』と徒競走をしてもらうわ!」
「はぁ!?」
「ルールは簡単! 距離は50m! 二人に勝てば私と付き合ってあげるわ!」
「意味解んないから!?」
人を呼び出しといて、ほぼ強制的に徒競走? ……んな話あるか。
あまりのことに、エグいものの食べすぎで頭がおかしくなってしまったんじゃないだろうかと思ってしまいそうだ。
「ちなみに、一人に負けたら何もしないけれど……二人に負けたら今夜の夜食にするから♪」
「そんな!」
「ルール説明を終えたんだから、さっさと位置につきなさいよ」
「なんでこんなことに……」
僕は何か悪いことをしたのだろうか……
彼女と関わっていると、突然ツインテをされたり殴られたり徒競走をさせられたりと変なことしか起きやしない。
そんなことを心の中でブツブツ言いながらも、僕は黙ってスタートラインについた。
一人には勝たなきゃな……いや、
──僕は、絶対に『二人』に勝たなきゃいけないんだ。
「──それじゃあ位置についてー。よーい、どんぶり!!」
本来なら引っ掛けのために用いるスタート合図も、『墓場の主』が言えばそれは有効。
僕と『サーバンツ』の三人は、それを合図に一斉に走り出した。
──息が苦しい。
──足が痛い。
……僕はどれだけ非力なんだろう。
(……でも、)
(負けるわけにはいかないんだ……!)
*=*=*
「はぁ、はぁ……」
「やるじゃないあなた。私の『サーバンツ』を勝ち抜くなんて」
「……そりゃ、どうも……はは……」
心なしか、『墓場の主』の顔は嬉しそうに見えた。
「まぁ、やり方は汚かったと思うけどね」
「……なんとでも言ってください」
レースの最終時、僕と召使が並んでその少し前にメイドが走っていた。
そのとき、召使を自分の足に引っ掛けさせ、バランスを崩した召使をメイドに方に倒れさせた。
その隙に僕がゴールしたという……。
あぁ、お二人ともごめんなさい……だからその「こいつ絶対調理してやる」なんて目はやめて……
「……まぁさておき、おめでとう。あなたはこれで晴れて私と──」
「あ、その件なんだけど」
「?」
そう、全てはこのために汚い手を取ってまで1位になったんだ。
「その優勝賞品は無しにしてくれるかな? 僕には要らないから」
「──ッ!」
「それじゃあこれで終わり。もうこんなことやんないでよ? 僕に全然体力がないこと知ってるでしょ?」
「…………」
話しながらチラッと『墓場の主』を見やる。
彼女は自然体を装っているつもりかもしれないが、肝心の目が装いきれてない。
──彼女の目は、大きく見開いていたのだった。
「それじゃあ僕もう……」
「ま、待ちなさいよ!」
「ん? なあに?」
「──ッ! ……べ、別に」
「それじゃあ僕いくよ? ──「話」があるなら、今この場所で言ってね」
「!」
僕は自然体を装いながら、彼女に追い討ちをかけた。
「馬鹿じゃないの? 偉大な主があんたなんかに「話」があるわけがないでしょ」
さらにメイドが追い討ちをかける。……きっと彼女も気づいているんだろうなぁ。
「わ、私は……」
いつもの堂々した姿とはかけ離れ、明らかに彼女は動揺していた。
早く言えばいいものを……と心の中で呟いた、そのとき。
「ふぇ、ふぇ……」
──彼女がぽろぽろと涙を流し始めたではないか。
「!?」
突然のアクシデントで、僕は思わず慌ててしまう。
メイドは「あーあ」と言いたげな顔で肩をすくめ、召使は……僕と同じリアクションをしていた。
それでも彼女は涙を流している。
「は、『墓場の主』……!? なんで泣いて……!」
「あなたが悪いのよ!!」
「え?!」
「本当はあなたをビリや2位にさせて、『お願いです僕と付き合ってくださいry』って土下座させてお願いさせようと思ってたのに! あなたのせいで計画は無茶苦茶よ!」
いや、そんなこと泣きながら言われても……。
第一、まだビリならともかく2位で土下座はしないと思う。
「あなたなんか……あなたなんか……」
呪文のように同じ言葉を繰り返す『墓場の主』に、僕はいよいよ呆れてきそうになった。
どうやら、彼女は意地でも自分の気持ちを認めないつもりらしい。
「あのさぁ、計画狂いしたところ悪いんだけど……」
「な、なによ」
「それ、言っちゃってることになってるからね? それに徒競走の優勝賞品なんか、特に」
「(゜Д゜ )」
「……やっぱ、気づかなかったんだ……」
「…………」
「…………」
二人の間に、痛い沈黙が流れる。
……仕方ないなぁ。
「…………です……」
「……?」
「『僕は、貴方のことが好きです。貴方とお付き合いさせてください』……これで、どう?」
「……!」
僕がそう言い終わると、彼女はいつものニヤァ……いや、パァァという効果音が似合う笑みを見せ、
「いいわ、付き合ってあげる!!」
「はいはい……」
自ら抱きついてくる人が明らかに言わない台詞を言い、とっても嬉しそう。
……へぇ、そんだけ僕のこと好きだったんだ、この人。
──しかし、このとき僕は油断していたんだ。
「それじゃあ皆に教えないと!」
「教えるって……どうやって?」
「決まってるじゃない。皆の元に行くのよ」
「皆=EVILS THEATERの人たち」。「皆の元=……」
──嫌な予感しかしない。
そう思ったときにはもう既に遅く、僕の体は『サーバンツ』によってロープでグルグルにされていた。
身動きが取れない僕の体を、『墓場の主』は余分に出てるロープの部分で軽々と引きずった。
「ちょっ、何するつもりなの!?」
「あら、決まってんじゃない。貴方を無理矢理映画館の中に入れるのよ」
「(Д )」
──目玉がどこかに飛んでいきました。
「さぁ、行くわよ……おりゃあああああああああああああああ!!!!!」
「ぎゃああああやめてええええええええええ!!!!!」
嗚呼、罪深キ僕デスガ、ドウカエルド様マーモン様、コノ僕ニオ助ケヲ……
【茶番カプリシオ】歯車と彼女の恋愛事情【二次創作】
[投稿日:2012/10/28]
どうやら私はこの曲がめっちゃ好きなようです。
自己解釈、原曲者に謝れにとどまらずついに二次創作まで……
本家[http://www.nicovideo.jp/watch/sm16017826]
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2012/10/31 18:05:18