第十章 悪ノ娘ト召使 パート5
黄の国王立軍が青の国の軍の迎撃の為に王宮を出立してから、四日ほどが経過した。
その頃、反乱の準備を完成させ、後は蜂起するタイミングを待つばかりであったメイコは黄の国城下町の一角、南西地区にある地下倉庫を仮の拠点として最終の確認をアレクと共に行っていたのである。その地下倉庫の中央、唯一家具として置かれた木製の机の上にアレクと向かい合うような格好で着席をしていたメイコは、机の上に広げられている黄の国城下町の全図を眺めながら、アレクに向かってこう尋ねた。
「結局、反乱に参加する兵は増えなかったの?」
石造りの薄暗い倉庫の中に、メイコの声が奇妙な音響で反響する。それに対して、アレクは冷静にこう答えた。
「はい。当初のまま、五百名のみとなっております。」
「それだけで勝てるかしら。」
戦はまず何よりも兵力だ。単純に兵力が多い方が勝つ、ということが道理であったし、それに今のメイコ達には馬と言う強力な兵器が存在しない。騎士と歩兵ではその戦闘力に大幅な差を生じさせるのである。しかし、アレクには勝算があるらしい。強い調子で、メイコに向かってこう言ったのである。
「困難が予想されるのは内壁城門の突破だけです。しかし、既に城内に百名の内通者を用意しております。我々が蜂起した直後に、城内にいる人間が内壁城門を開門致します。全ての門を一斉に開放することは不可能ですので、開ける城門は一つだけ。この、南正門になります。」
アレクはそう言いながら、地図の一点、黄の国の城下町と王宮を分離している内壁の一点、南正門の位置を指さした。そしてそのまま、アレクは指し示した指を地図上の王宮正門玄関へと移動させながら、言葉を続けた。
「この南正門さえ突破できれば、王宮正門玄関までは人の足で走っても一分程度しかかかりません。王宮内になだれ込むことができれば、後は増援が駆けつけるよりも前にリン女王の身柄を拘束し、反乱を完成させます。」
確かに、アレクの言う通りだろう。数の少なさをカバーするにはスピードを上げる以外に方法はない。しかし、それでも、とメイコは考え、アレクに向かってこう言った。
「王宮にはレンが残っているわ。」
リン女王を拘束するにあたり、最大の障壁となる人物。下手をすればメイコ以上の才能があるレンを相手にすることはそれだけで不利ではないのか。メイコはそう考えたのである。それに対して、アレクは平然とこう言い放った。
「レン殿は私が食い止めます。その隙に、メイコ隊長はリン女王を拘束して下さい。」
確かに、リン女王を拘束し、リン女王を盾にすればレンは抵抗する意思を失うだろう。それはレンにとっては卑劣に感じてしまうかもしれない手段ではあったが、それも止むを得ないか、とメイコは考えた。そして、アレクに向かってこう告げる。
「出来るだけ、殺さないで。」
「無論です。」
アレクがそう言った時、地下倉庫の扉が軽くノックされた。例の暗号を言い合った後に入室してきた人物はグミと、そしてもう一人の女性であった。その女性の髪はまるで貫く刃の様な見事な銀色、そして何の感情も湧いていない様子である紫がかった瞳を持っていた。
「カイト王の護衛であるアク殿ですわ。」
一体何者かと無意識に警戒していたメイコとアレクに向かって、グミがその様に銀髪の少女の紹介をした。成程、腰に佩いた長剣はその為か、とメイコは考え、そして少し背筋が寒くなる様な感覚を覚えた。相当に強い。戦慣れしたメイコはそのことを瞬時で判断したのである。そのアクはグミの紹介の後、何かを思い出したかのようにこう言った。
「青の国と黄の国は三日前に戦闘を開始した。」
唐突に、それも無機質に述べられた言葉にメイコは一瞬言葉を失ったが、グミはまだアクのその態度に慣れているらしい。すぐに補足するようにこう述べる。
「予想通り、カルロビッツで戦端が開かれました。戦況は互角とのことです。反乱の機は熟しましたわ。それに、アク殿も反乱に参加して頂けるとのことです。」
なら、急いだ方がよさそうね、とメイコは考えた。私達に与えられたチャンスは一度しかない。生きるか死ぬか。それすらも分からないし、それに私が行う行為が正しいことなのか、未だに判断が出来ない。ただ、経済が破綻し、困窮する黄の国の国民を救うために私達が出来る唯一のこと。それが反乱なのだろう、とメイコは考えた。いつの間にか、アレクが提唱した国民と言う言葉が自らの言葉として馴染みを持つものとして消化されている。アレクの主張は正しいかは分からないけれど、筋は通っている。何より、アレクの言葉は信用できる。今まで、ずっと副官として支えて来てくれた時と同じような、安心感がある。だから、私は戦える。
黙したまま、そこまでを思考したメイコは地下倉庫の壁際に立てかけていた大剣を手に取った。緑の国との戦争以来、数カ月ぶりに手にするメイコの愛剣はそれまでと同じようにメイコの手に良く馴染む。その愛剣を腰に佩き、そしてメイコはアレクに向かってこう言った。
「行きましょう、アレク。」
メイコの反乱と後の世に名付けられた、黄の国を滅亡へと追いやったその反乱は当初、立った四人の人間の蜂起から始まった。即ち、黄の国城下町南西部の一角にある地下倉庫から飛び出したメイコ、アレク、グミ、そしてアクの四人である。彼女らが地上に飛び出した直後に、アレクは盛大に狼煙を打ち上げた。一体何事か、と興味本位でメイコ達の姿を覗き見た黄の国城下町の民衆は、アレクが叫んだこの言葉に心を震わせることになる。
「機は熟した!悪ノ娘リン女王を打倒し、安定を取り戻すのだ!」
リン女王を指して悪ノ娘と呼んだのはアレクが初めての人間であった。そのキャッチフレーズはメイコ達が蜂起した黄の国城下町南西地区に瞬く間に広まり、続いて黄の国城下町全体へと波及して行った。その直後に、狼煙を見て駆けつけた反乱軍が南広場に集結する。その数およそ四百名。彼らは巡回を行っていた不幸な黄の国の兵士を殺戮すると、一斉に南正門へと駈け出して行った。口々に、悪ノ娘への非難と、新政権の期待の言葉をまき散らしながら。その言葉にすぐに反応した人間はこれまで王立軍からの略奪の憂き目にあっていた大商人達であった。続いて、生活の困窮を迎えていた民衆達。彼らは手に武器になりそうなものを持ち寄ると、すぐに大通へと終結したのである。更に、アレクは巧妙であった。彼らの心をくすぐる言葉をしっかりと用意していたのである。
「さあ、王宮へ行こう!王宮にはまだパンがあるぞ!」
その言葉は飢えた民衆達にはどうしようもなく魅力的な言葉として心に響いた。パンがある。明日の食糧にも困っていた我々の生活を助ける手段が、王宮にある。そう判断した民衆達は飢えた狼の様な勢いで南正門へと迫って行くことになる。そしてその南正門が、反乱軍に寝返っていた百名余りの兵士達により開門された時、既に一万に迫る勢いで集合を果たしていた民衆達は狂喜の叫び声を上げた。
反乱。
その報告は、メイコ達が蜂起してから三十分ほどでレンの元へと届いた。直後に、南正門開門の報告。内通者がいたのか、と後悔したのは一瞬、レンはすぐに迎撃の為にそれまで控えていた三階にある私室から飛び出すと、すぐに階下へと向かって走り出した。王宮内に残っている兵士は何名いたか。三千は確保できるはずだ、とレンは考える。
「王宮玄関を封鎖してください!」
玄関ロビーに到達したレンは、うろたえる黄の国近衛兵達に向かってそう指示を出した。本来ならば王宮玄関を施錠したいところだったが、反乱軍の攻撃速度はレンの予想をはるかに超えていた。既に玄関ロビーに侵入していた反乱軍の姿を見つけると、レンは勢いに任せて反乱軍の兵士を切り裂いた。十名ほどの侵入者を全て葬り去ると、士気の低下していた近衛兵たちが色めき立った。
「反乱軍など、敵ではありません!全軍で迎撃します!」
レンがそう叫ぶと、近衛兵が一斉に雄叫びを上げる。士気の向上を確認したレンは、敵将は誰だ、やはりメイコ隊長だろうか、と想像して額に冷や汗を覚えながらも、乱戦が開始されている南正門と正面玄関にある割合狭い前庭へと飛び出した。既に集結している近衛兵の数は千以上。対して反乱軍は市民が多数参加している様子だが、中核となっている兵士はせいぜい数百だろう。反乱軍の動きからその様に判断したレンは、まだ勝てる、と考え、反乱軍に向かって力任せに剣を振り下ろした。
ハルジオン57 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
みのり「第五十七弾です!」
満「とうとう反乱開始だ。」
みのり「どうやって戦うのかな・・?」
満「さあ?」
みのり「え!?」
満「いや、ちゃんと考えてはいる。けど前作とは内容が異なるから、まだ秘密だ。」
みのり「そうなんだ。」
満「で、お知らせだけど、明日レイジは用事があって朝から出かける。もしかしたら明日は投稿出来ないかも知れない。」
みのり「今日はもう寝るみたいだし。」
満「そういうこと。なので次回投稿が週末になるかもしれない。ご了承ください。」
みのり「ご迷惑おかけしますが、宜しくお願いします。それでは!」
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ご意見・ご感想
紗央
ご意見・ご感想
はんらんかいし・・?
反乱開始っ!
ちょ、青の軍。
レンを傷つけたら紗央が許しませんよっ!
明日はできないのですね・・・(+_+)
また次回を楽しみにしてますっ(^^♪
2010/05/05 03:31:49
レイジ
わあ、早朝にコメント・・ありがとうございます!
いや、今日は書けないはずだったのですが、用事が思ったよりも早く終わったので今日も書きます!
お楽しみに!!
2010/05/05 13:57:59