HATUNEMIKU――――――――――STAR of ROUND.

 「おっと。あいつにしてはマシなグレートコードを使ったな」

 初音ミクが、衛星軌道上からの増援を牽制するコードを使った。ネルとしては、本当はそれをハクにやってもらって、ミクは後詰としてコードを保留してもらいたかったのだが。

 「いや、やっべ。私も初音ミク病になりかかってるな。ハクでも十分アタリだろ」

 エルメルトを攻略していた頃とは違い、今は防衛側だ。多少はヘタれてでも、戦力と拠点の保全を図るのが最優先だ。
 だが、考え方によっては、相手が「VOCALOID」重音テトであって、そんな強敵に入り込まれてる時点で、かなり負けこんでいるのである。本当は逐次投入などという、攻め方からは丸分かりな失敗をしたい訳はないのだが。

 「おい、すぐ準備できるっていう「VOCALION」はどれだ!」

 そう言って見回した瞬間、見覚えのある芸術作品が目に留まった。

 「なあ。偵察に行くと思うか?」
 「初音司令がこれをすぐに出せるようにして置けと!」
 「バカかあいつ!!!」

 高機動仕様「VOCALION」はちゅねSP。自前の火力は通常の戦闘ヘリや戦車と張り合う程度という、攻響兵が乗る機体にしては看板倒れな手堅すぎる機体である。

 「くっそあいつマジで自分が出る気だったのかよ!Lat式どこだよゴルァ!」
 「最短43分で出撃可能です!」
 「うるせぇ!!!もう一台なんでもいいから用意しろ!鏡音も出る!」
 「ちびミクがすぐに準備できます!」
 「わかった!この戦いが終わったら整備部全員軍法会議な!」
 「ご武運を!」
 「死ね!このロリコン共が!!」

 気候観測仕様「VOCALION」ちびミク。火力などない。

 「はちゅねで出る!鏡音がすぐ来るから、あいつ来るまでにちびミクを出撃可能にしとけ!」
 「Sir!」

――――――――――

 さて。「VOCALION」とランデブーした訳だが。

 「ふむ。確かに頑丈な機体だな」

 けれども、こいつは宇宙作業用の機体を無理やり「VOCALION」として転用可能にした、衛星に手足を生やしただけの機体である。
 空気抵抗のない宇宙でデブリの1つや2つ食らっても平気な堅牢性はある。だけれどもだけど。

 「蒼音ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 ねんどろいどテト。人型というだけですごいと言われた時代の、当時最新の「VOCALION」である。各種センサー完備、まして宇宙探査仕様である。このままエルメルトで地質調査でもやるなら、現役の機体とも遜色はない。だが。

 地上300メートル。落下地点に何かいる。初撃を外したら早速ピンチである。

 ――――――――――もういい。実力でどうにかする。
 ――――――――――よう。もしかしてお前か。
 ――――――――――あ、どうも。今朝はお世話になりました。
 ――――――――――ああ、お世話いたしました。降りて来い。殴り合おうぜ。
 ――――――――――折角ですけれども、このまま撃ち合った方が格好が付くと思います。
 ――――――――――そうか?「VOCALOID」同士の殴り合いでも派手だしな?
 ――――――――――お気を確かに。では、たがおもいをかさねてと、とうはたそかれ、はれのそらのした。
 ――――――――――ひるにねてよいにねて、あかつきにねてさんどねて、ねるはよいよい、まぶたとじれば。

 はちゅねが、ほぼ一瞬で最高速度を叩き出して、前方に飛んだ。そこに地面に垂直に加速してきたねんどテトが、はちゅねがいた空間をドリルアームで掻き回して、地上に降り立った。

 ――――――――――こいつ。
 ――――――――――強い。
 ――――――――――けれども。
 ――――――――――お前。

 はちゅねがスカートから2丁のサブマシンガンを取り出し、右手をフルオートで連射しながら突っ込んでくる。ねんどテトのドリルでモニターを庇いながら、左手でピッケルを取り出す。
 亞北ネルは「VOCALION」の武装でゴリ押しの速攻を狙う気だ。だが、ねんどテトの防御力を少々見くびっている。

 「ちっ、硬い!」
 「今更気付いた!?」

 撃ちつくした1丁を捨て、左手のサブマシンガンを両手に構えて後ずさろうとする。反応の速さは申し分ないが、戦術の誤りは明らかだった。

 「エンジン全開、散れ、千本椛!」
 「やべっ、当たる!!」

 ピッケルを横薙ぎに振るが、これはフェイント。そのまま半身を回転して、本命の。

 「ドリルアーム!」

 モニターを庇う位置にあったドリルを、ピッケルと入れ替わりに突き出す。二刀だとこういう事ができる。
 すんでの所で、はちゅねはサブマシンガンを盾にして、必殺の一撃を回避した。

 「くそ、強え!」

 テトは一瞬、考えた。このままピッケルで押すか、それとも「VOCALOID」戦で決めるか。

 KASANETETO――――――――――さけばコスモス。もえればもみじ。ふくあらしにまけず。はなやかにまえ。

 「うわぁ。やーらーれーるー」

 YOWANEHAKU――――――――――かぜよとどけろ。はなのかおりとこいのうた。ねがいはきっとかなうと。きっとつたえて。

 はちゅねが肘から先でモニターを庇い、「VOCALOID」重音テトの攻撃に構えた。後ろから、「VOCALOID」弱音ハクの歌が響いてくる。

 AKITANERU――――――――――やべえど真ん中だこれ。やり過ごしたら機体捨てよう。

 攻響兵「VOCALOID」の戦闘は、殆どが1対1である。余りにも攻撃の威力が強すぎて、「VOCALOID」1人あたりに必要なスペースが大きくなる。連携も出来ない事はないが、アドリブのセッションは失敗すれば制御不能になって、大体は味方同士で共倒れになる。

 重音テトの主題は「秋風の華」、弱音ハクの主題は「恋心と風の文」。一瞬で燃え上がる爆炎と、一瞬を貫き通す突風。

 AKITANERU――――――――――これ基地がやばくね?

 撃った。重音テトが撃った方向は、司令室がある方向である。だが、弱音ハクの攻撃は、別の場所から飛んできた。格納庫からだ。

 真っ直ぐに輝く光が、ねんどテトの右わき腹に刺さる。バランスを崩したねんどテトが左脚だけで自重を支えきれずに、もんどりうった。

 YOWANEHAKU――――――――――今です!
 KAGAMINEREN――――――――――うおおおおおおおおおお!

 気象観測用「VOCALION」ちびミク。簡易測量用の杭を掲げ、ハクが切り開いた突破口をものすごいスピードで駆け抜けていく。

 KASANETETO――――――――――……ふふ。昔のあなたを思い出させるわね。ねえ、ミク?

 ねんどテトはピッケルを拾い、倒れた姿勢から中膝になり、一瞬の居合でちびミクの杭を弾き飛ばし、いや、砕き飛ばした。

 「何!?コンクリートにも使える簡易杭が、ああも簡単に!!!」

 工兵隊の奴がなんか言ってる。亞北ネルははちゅねの戦闘用ネギを構えるが、まあ全く隙はない。

 KASANETETO――――――――――流石に、舐めすぎたわね。Moon of Nightmare.

 重音テトの気配が消える。目の前でやられても意味が無い様に思えるが、物理的にロストすると、全く居場所が分からなくなる。グレートコードの性能は「VOCALOID」の力量によると言えば、もう重音テトは逃げ切ってしまうに違いない。

 「手前、今度は絶対にぶちのめしてやるぞ、覚えとけ!!」
 「ネギ、投げないでください!基地が壊れる!!!」

 リアルで弱音ハクの声を聞いたすぐ後には、もうねんどテトの姿は無かった。

 「あいつ……!!!いつの間に!」

 早速やられた。戦い慣れして気配だけで反応できるようになると達人とか思われがちだが、更に格上は気配を偽って読ませる。モニターを確かめると、ねんどテトはグレートコードが発動する直前に跳んでいる。もう終わった。

 「今逃がしたらやべえのに!絶対逃げられたあああああああああああああああ!!!!」

 絶叫しながら、コクピットから飛び降りる。ムシャクシャしたのでムーンサルトを決めながら芝生の上に降り立ってやった。むかつく。くそが。状況をイマイチ分かってないハクが、余裕ぶっこいた顔で傍に立つ。

 「しかし、戦闘用ではないといえ、「VOCALION」を抱えたままいつまでも逃げ切れるものではありませんから」
 「バーカ。バラして売るに決まってんだろ。そんで資金確保してゲリラ戦の拠点作りだ」

 ドヤ顔をさせる暇すら与えず、ハクは驚愕の表情でネルを見返した。その顔を見て、ネルは大事な用件があるのを思い出した。爽やかな笑顔で肩を掴む。

 「な、お前の仕事終わらせてやっただろ?今度は私の仕事を手伝え」
 「ちょっと、それではテトの行動を急いで捕捉しないと!」
 「情報戦も防諜も私の仕事だ!さっさと来い!鏡音大佐は平常の訓練に戻れ!あとは各自復旧!以上!!!」
 「落ち着いてください、話し合いましょう!!!」
 「あ?堂々と「VOCALION」届けるっつってただろ!読めてんだよ!部下がとっくに動いてる!」
 「は、早いですね」
 「当たり前だ!そんでお前!まだなんか隠してんのか!さっさと来い!」

 ちびミクのモニター越しに、ふらつきながらも、後ろ歩きでキレ気味のネルの歩行速度に付いて行くハクを、レンはまさに不思議な顔で見送っていた。

 「首根っこ掴まれて引きずられていく人って、本当にいるんだな……」
 「おいレン君、ちょっとはちゅねどかしてくれる?あ、ちびミクの後でいいから」
 「あ、分かりましたー」

 全てを置いてけぼりにしても、一日が終わる頃には元通りになる。全攻響旅団中で屈指の復旧力を誇るエルメルト攻響旅団基地の秘密は、亞北ネルの半端ない丸投げ能力によると、まことしやかに囁かれている。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

機動攻響兵「VOCALOID」 2章#5 /2章fin

強敵重音テトとの初本格バトル。この話読めば機動攻響兵「VOCALION」の戦闘のノリが大体分かります!多分。

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閲覧数:165

投稿日:2012/11/07 05:46:26

文字数:4,190文字

カテゴリ:小説

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