家に帰り、部屋にこもると早速先ほど押し付けられた小説を読んでみた
タイトルの欄は空欄のまま、始音カイトとかかれた下に
ー是非、感想くださいー
人を評価できるほどの腕もないのにと思いつつも一頁を捲った
それはまるで重石をつけたまま深海に落ちていくように、メイコはその作品に落ちていく
ひとつの出来事を少し長いと感じる程性格を現したように丁寧に書かれている
それはメイコにはない物だった、簡単にかつ分かりやすく言葉で補っていくやりかたとは
正反対のそのやり方に魅力を感じた、メイコの好きな作家に少し似ている気がしたのもひとつの理由だった

ー●●さんに似た文章や言葉の使い方、それに加えひとつの出来事の丁寧さに
とても惹かれましたが、少しくどいと感じるかもしれません
しかし私にはない物を感じましたー

気づくとつらつらと感想など書き出していた
一息ついて、目の疲労がどっと出てきてしまいすぐにベットに入った

抱きすくめられた腕のなか私は笑っていた
これが幸せ? これが“女”の私……?
遠くで見ていた『私』は見えない壁に遮られ私に届かない
気持ち悪い、やめろ、こんな自分見たくない
ずるずると座り込み、幸せに笑う私の声を遮りたくて耳をふさいだ
しかしそれは耳の奥に木霊して聞こえてうずくまった


響くような頭痛に起こされ、メイコは手の甲を額に当て落ち着かせる
久々にみた気分を損なう夢見に朝っぱらから疲れを感じた
ぼんやりと天井見上げていると、ノック音に意識を戻される

「メイコ姉さん、これから出かけるんだけど何か買ってくるのある?」

ふんわりとその雰囲気に合った白いワンピースにジャケット姿のルカ
どこか出かけるのだろう、しかもほんのりと甘い香りがした
香水だろうか? 鼻をこする振りをして匂いを遮っていると
ルカははっとなり、部屋から顔を出すだけの形にした

「ご、ごめん、香水嫌いなのに……」

「まぁ、まだ軽いから大丈夫、でも、何処行くの?」

「カイトくんに、この間見つけた本屋さん教えてあげるの
あとは少し宿題をね」

「昨日のうじーくんか、ならちょうどいいや」

うじーくん発言が少し気になったのか、否定の言葉を発するルカをスルーしながら
机の上の封筒を渡した

「うじーくんに渡しておいて」

「カイトくんだってば、ってこれはなに?」

「感想文、はいいってらっしゃーい」

ぽん、と背中を押し見送ると言うより押し出してぱたりと扉に背中を預けた
押し付けられたものを返したし、一仕事終えメイコは早速パソコンをつけて
次の学園祭に出すための長編作品と短編を数作書かなければならなかった
しかも前回の人気作品投票で二位になってしまい、一位の部長と闘志を燃やす先生と
個人作品本を出し、売り上げを競うという馬鹿げた恒例行事に参加決定させられたのだ
少々負けず嫌いなメイコは短編作品を三作書き、長編へと手をかける作業に入った

朝ごはんと言う名の昼ごはんを口にしながら書き始めるも
頭には今朝見た夢がびったりと脳裏にこびりついてしまい離れない
そのたびに鳥肌が立つ
心が女になるリアルな感覚、メイコにとっては未知の世界であり
どうしても踏み入れたくないものがあった
女性というものにどうしてもなりたくないのだ、理由は分からない
隠し事が出来ない否、苦手な男と会話などは好きだが
その男に身を預けるのはどうしても心の底から拒否反応が起こってしまう
だからと言って女性に身を預けられるのはそれはそれでだめな部分もあった

「あぁ、もうっ!」

机に手を叩きつけてしまう、打ち所が悪く響き続ける痛みに悶えながらベットに飛び込み
ごろごろとしていると携帯が鳴り、メールを知らせた
ルカからだった、内容は一緒にご飯食べようとその場所を指定したものだった
文面から強制的なものを感じたので、ついでに久々の外食
そして今日の晩御飯係が浮くと言うことで部屋を出た、少し気分を晴らしたい意もあった

空は橙に染まっていた、パソコンに向かい作品を作り上げることは時間を食ってくれる者だ
雲が赤色、そして橙に染まりメイコの背後では夜が迫り紺色と黒が混じった空が迫っていた
風もほんのりと涼しい、蝉の鳴き声もだいぶ聞こえなくなって風情がなくなったが
その分、時折風と共にトンボとすれ違うのが秋を感じさせられた

「このまま、良い作品の案も感じられればなぁ」

うんうんと唸りながらも頭に浮かんだ作品風景はコロコロ変わり前に進まず
結局行き着けのレストランについてしまった

店内は他の大手チェーンに取られてしまい、忙しさはさほど感じられない
少し見渡すだけでルカ、とまさかの青い髪の青年もいた

「げぇ、うじーがいる」

またあのうじうじに付き合うと思うと何だがさらに作品は進まない気がして
確かに彼の作品はいいものだったが、メイコの書くものとは違いすぎるため
作品を書く着火剤にはならないのだった

「なんだ、うじーくんもいるのか」

「え? う、う…じー?」

「もう! カイトくんだってば」

「だって、ね? 名字忘れちゃって」

「し、始音です! シ・オ・ンで名前はカイトです」

そんなに力まなくてもいいだろうと、思うほど拳まで握って教えてくれた
シオンカイトははっとなり頬を染めた
昨日のことを思い出したのだろう、いつまで引きずってるのだろうかと思いつつ
ルカの隣に座り、店員にいつものメニューを伝えて冷たい水で喉を潤す
周りの客の会話を盗み聞きしている、学生らしき女性軍団の悲鳴にも似た甲高い声は
頭にもきて、米神に手を当て朝の頭痛をぶり返してきてしまいそうになった

「あ、そうだ、あの、●●さん好きなんですか?」

「へ?」

周りに意識を集中させていた耳は目の前の青年の声に呼び戻される
その手には手作りカバーのかけられた単行本を手にしていた
すっと差し出され手に取った
表紙をめくるとそれは今彼が口にした作者の最新本で、メイコもかなり好きな作者だった
それは待ちに待ったと言える一躍有名になる長編大作であり、その最終巻であった
メイコは自分の作品を完成させようと精一杯で、気づかずに居た

「ついこの間、出たんですよ! やっぱり●●さんの作品はかなりいいですよね」

「やっぱり、シオンくんの作品って似てるとは思ったけど……」

「そ、そうなんですよ! 何度も呼んでいるうちに似ちゃったんですよね」

「メイコ姉さんも買ってるシリーズだよね」

「うん、やっと新しい巻が出たんだ」

「見たこと在る名前だったんだけど、買っておいたほうがよかった?」

「いいよ、今度自分で買いに行く」

突然の話を発端に話は盛り上がる、ルカも深い内容についていけないまでも
ちょこちょこと会話に花を咲かせてくれている
癖の強いこの作者は少々理解されずに居たため、中々話の合うものがいなかった
メイコは嬉々として今会話に没頭した
食事がままならないほどだ

「ご飯、冷めちゃうよ?」

とルカの声がかかるまでの間、フォークで少し突いたくらいで
気づけば食事が運ばれてから三十分経っていた


「いやー、久しぶりに楽しかったー」

「たまには外食もいいでしょ? それにカイトくんとも仲良くなったみたいだし」

「仲良く? まぁ、同士が増えたのはよかったね」

「感想文の中に名前が書いてあったので、もしかしたらって思ったんですよ」

店を出て、食後の運動がてら少し遠回りをしながら駅へと向かった
その間も話題はやはりあの作者のことで、ルカもはぶれないように会話についてくる

「それで、シオンくんはさ」

「あの……」

名を呼ばれたカイトはメイコの言葉を途切れさせた
ふ、と思うと本の袋を抱えてちらちらとメイコを見ていた、口は何かを紡ごうとしても
言葉にならずにいた

「なによ」

「えっと、あの~、あんまり始音って呼ばれなれないので……えっと」

「そうだねー、皆カイトくんはカイトーって呼ばれてるし
カイトくんって呼んであげたら?」

「まぁ、いいけど」

「ほ、ホントですか! えへへっ」

内側から心臓を叩かれた気がした
ほんわりと笑うカイトは可愛さを感じた、普段はきっとかっこいい分類に入るのだろうが
これがギャップ萌えと言うものなのだろうか

「犬……」

「え、えぇっ?」

無意識のうちに頭の中では近所の人懐っこい犬が出てきていて
そのへらっと笑うカイトの姿はその犬にかぶり、思わず口に出してしまった

「確かに! カイトくんって犬そっくりだね」

「特にうちの近所の、ほらあの白いでっかいの」

「あー、似てるかもっ! うにちゃんだっけ?」

「え、ちょ、ちょっと 二人ともひどいっ」

ぐずっとわざとらしく鼻を鳴らし、肩を落とす姿はうに(犬)にそっくりだった
かまってもらえず、くぅんくぅん鳴く
日の落ちた空には三人の会話は穏やかに流れていた
それからなぜか、ルカの勧めでメルアドを交換して別れた

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

その2「私が導く幸せの話」 カイメイ

ここでもちょっと私の気持ち、感じ方
女である私だけど、どうしても女性というグループ
そして女性の最近の行動態度はどうしても受け付けられない

VOCALOIDの中でも男勝りなMEIKOだからこそ
私を重ねやすいって部分はあるのです
MEIKOファンの人には本当に申し訳ないと思ってます

閲覧数:351

投稿日:2011/08/10 20:06:19

文字数:3,707文字

カテゴリ:小説

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  • 日枝学

    日枝学

    ご意見・ご感想

    すげえええええええええええ
    あ、いえすいません取り乱しました。良いですね。とても良いですね!
    今この作品に惹かれる気持ちがとても強まりました。惹かれるものを感じます。惹かれすぎていて、何に惹かれているのかよく分からない上に、分からないまま言葉にすると陳腐になってしまいそうなので、いやあともかく良いですね、これ(※文法破綻
    この二つしか自分さっきから言ってないですけど、良かったです! 惹かれます!

    2011/08/11 16:59:25

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