「シャアアアアアアッ!!!」


突然鋭い声とともに、一つの影が木の中から飛び出した。


「なっ、何!?」


咄嗟に周りを見回しながら身構えるミクとメイコ。だがルカは―――――既にある一点を睨みつけていた。

それは電信柱の上―――――電信柱の先端に、人影があった。

薄紅色の髪。赤い色をしたバスター型のスピーカーを両手に、猫型のヘルメットのようなものを頭に装着した、10歳前後の少女が電信柱の上に立っていた。

少女はルカ達を見据えて、不敵に笑う。


「ふふふふふ……C’sボーカロイド!!叩きのめしてくれる!!」


単刀直入な宣戦布告。若干呆れながらも、ルカが応えた。


「えーと?私たちはあんたのことまだ思い出せないんだけど、『C’sボーカロイド』なんてみょうちくりんな呼び方するってことは……あんた『TA&KU製ボーカロイド』ね!!わかってるでしょうけど私たち、まだ殺されるわけにはいかないのよね……!!」


少女は思わず眉を震わせながら、ふわりと宙に浮いた。


「へ―ぇ……?さっすがボーカロイド界のトップアイドル軍団『CVシリーズ+α』……底辺ボーカロイドのことなんか思い出せないというわけか!?」

「いやちょ、そういうわけじゃなくt」

「もんどーむよ――――っっ!!!」


叫びながらスピーカーを振り下ろすと―――――すさまじい轟音が鳴り響き、地面に亀裂が走った。

そしてそのまま――――――


『ダイナミック・フォノンバスタ―――――――――――っ!!!』


両手のバスタースピーカーから、音波砲を繰り出した!

咄嗟にメイコが前に立ち、大きく息を吸い込む。


『メイコバアアアアアアアアアアアアアアアストオオオオオオオオオオオオ!!!!!!』


メイコの十八番、メイコバーストが正面から迎え撃った。強烈な音の波が、破壊的な風圧がぶつかり合い、凄まじい風が吹き荒れる。

威力は互角―――――どちらかが引かない限りこの膠着はしばらく続くと、ルカは思っていた。

……それが間違いだったと知るのは、わずか3秒後のことだった。


『コーラス・スピーカー、フローティング・マイクロフォン展開!!』


少女の声が響くとともに、少女の足元に二つの浮遊型スピーカーが出現した。

そして少女の口元に出現した浮遊型マイクに、音が吹き込まれる―――――


『フォース・スピーカー!!』


足元の浮遊型スピーカーからも―――――音波が放たれた!!

一気に2倍の威力へと増加した音波砲が、メイコバーストを押し始めた。


「嘘っ!?」

「やば……!!」


ミクが恐れ戦き、メイコが思わず声を漏らす。

まずい。ルカがそう思った瞬間には。


少女の音波がメイコバーストを撃ち抜いて―――――



『『カノン』!!』



突然高速の空気弾が、少女の音波砲を吹き飛ばした。


「!?」


驚いたルカたちが、空気弾の飛んできた方向を見ると―――――


「ごめんルカちゃん、遅くなった!!」


―――――まさに救世主としか言いようのないタイミング。グミがリンとレンを引き連れて、仁王立ちしていた。


「グミちゃん!!」

「グミさん……!!やっぱり本気で裏切ったのだな……!!」


ルカが喜びで駆け寄ると同時に、少女の顔は怒りで歪んでゆく。

そんな少女を、グミもまた睨み返した。


「今度はあんたってわけね―――――いろは!!」

「いろは?……ああ!!猫村……猫村いろは!!」


そこでようやく思い出した。少女の名を。

猫村いろは―――――キティラーとVOCALOIDのコラボで生まれたボーカロイド。それが彼女であった。


「ようやく思い出したか……だがそんなことはどうでもいい!!一人足りない気もするがまぁいい、ここで裏切りのグミさんごと消し飛ばしてくれる!!」


いろはが吠えると、突如地面が砕け、その破片がミク達に襲い掛かった。


「わ!!?」

「何……あれ!?」

「気を付けて!!いろはの音波術は、あの四つの機械を駆使して数百の音波を操る技よ!!」


グミが指さす先には、いろはの浮遊型スピーカー二つと、バスター型スピーカー二つ、そして浮遊型マイクと頭部の装置。


「……裏を返せば、あれをぶっ壊せばあの子は止まるってわけね?」

「そゆこと!!」

「よし……めーちゃん!!遠くから撃って!!ミク!!高速でかき回せ!!リンとレンは補助と回復!!グミちゃんは私についてきて!!私の指示どおりに撃ちまくって!!」

『了解!!』


ルカの的確な指示で、各々が配置についた。


「くらいな!!メイコバ――――――――――――――――――――スト!!!」


初手はメイコバーストだ。強烈な音波砲が、いろはを襲う。

それをひらりと躱すが、躱したそこにはミクの姿が―――――


「『Light』!!」


金色に輝くミクの拳が、いろはを撃ち抜かんとする。

だがいろははこれすらもひらりひらりと躱し、逆にミクをスピーカーで殴りつけた。


「がっ!!」

「ミク!!……うそ、ミクの『Light』をかわすなんて、なんてスピード!!」

「違うわ……あの子、反射神経が名前に違わず凄まじいの!!」


だがそれで終わるミクではなかった。そうだ―――――がくぽに手首を落とされた時よりも、リリィに延髄を叩かれ墜とされた時よりも、ミクは強くなっていた。


「『Dark』!!」


神経を削るような声が、いろはの耳に入り込んだ。


「ぐっ……!!」


一瞬いろはが揺らいだその瞬間に、ルカの凛とした声が響く。


「グミちゃん!!」

「『バルカン』っ!!」


グミの声とともに放たれた、無数の空気弾がいろはの右手のバスター型スピーカーにヒット。砕けたスピーカーが、いろはの手から滑り落ちた。


「くそ……!!だがこれぐらいは!!『サウンド・トルネード』!!」


浮遊型スピーカーが音波を放ちながらいろはの周りを回り出した。メイコバーストほどではないものの、強烈な音波が先刻のダメージで動きが鈍くなっているミクを襲う。


「うぐ……!!」

「ミク……!!リン、レン!!ミクを助け出して!!グミちゃん、いろはになんか弱点ないの!?」

「サイッコーの弱点があるよ!!この状況だから説明割愛するけど、あたしを信じてあと10分耐えてみて!!きっと勝機が来る!!」

「……わかった!!グミちゃんのこと、信じる!!皆あああ!!あと10分……耐えて耐えて耐えて!!そしたら反撃開始よ!!」

『OK!!』


グミの言葉の真意―――――正直ルカはそれが掴めなかった。もちろん『心透視』を使えば難なくつかめただろうが―――――仲間が敵に回らない限り、仲間に『心透視』は使わない。それが彼女のルールだった。



いろはの攻撃はすさまじいものがあった。ミクの『Solid』のように地面を切り裂いたかと思えば、音波で岩を掬い上げるように飛ばしたり、音波の渦で砂嵐を叩きつけてきたり。

一撃一撃のキレが半端ではなかった。威力も十分だった。

下手に突っ込めばその瞬間に返り討ちにされる―――――誰もが感じ取るほどの強さだった。


だからこそ―――――かつての仲間であるいろはをかばってもおかしくない立場であるグミの言葉を、ルカたちは信じたのだ。


そしてその信じた先の幸運は―――――突然にやってくる。



最初に違和感に気付いたのは、ツイン・サウンドによる回復を終え、戦線に復帰しようとしたミクだった。


「……あれ?」


疑問の声を上げたミクに気付いたルカが、素早くミクに駆け寄った。


「どうしたの?ミク?」

「……なんか……いろはの動きが……。」

「え…………あ!?」


離れたところから見て、ようやくルカも気づいた。

―――――動きにキレがなくなっている。

10分前までの鋭い動きに比べて、明らかにスピードもキレも劣っている。

そして心なしか、苛立っているようにも見える。


「くそ!!くそぅ!!えい、えいえいっ!!」


まるでやけくその様に音波を飛ばすいろは。だがその音波は、メイコたちにかすりもしない。それどころか一歩も動かずとも、明後日の方向に音波が吹っ飛んでいく。


「これは……どういうこと……?」


ルカが困惑していると、グミが後退してきた。しかし攻撃を恐れて退いたのではなかった。

『チャンス来たり』とでも言っているようなその笑顔を見ればわかる。


「ルカちゃん!!今だ!!あの子の集中はもう完全に途切れたよ!!」

「……!!なるほど……あの子の弱点って……!!よーっし!!ミク!!まずは残ったバスタースピーカーを破壊!!グミちゃんは足元の浮遊スピーカー!!」

『OK!!』


威勢の良い返事とともに、ミクの姿が掻き消えた。

次の瞬間には―――――金色の光と激しい連打音と共に、いろはのバスタースピーカーが弾け飛んだ。


「あぅ!!!」


小さな悲鳴を上げて、動きを止めたいろは。そこへ―――――


「『トマホーク』!!」


グミが作り出した空気弾の『トマホーク』が襲い掛かる!

咄嗟に躱そうとするいろは―――――だがその狙いはいろは本人ではなく、足元のスピーカー。

二つのスピーカーが、爆音とともに砕け散った。


「く……くそ!!まだまだ!!」


声を荒げ、地上に降りて走り出そうとするいろは。


………しかし。



「卑怯プログラム発動『バナナスリップ』!!」



突然の声と共に、いろはの足元にバナナの皮が出現。


「きゃん!!」


見事なまでに踏んづけ、思い切り尻餅をついてしまう。

その瞬間―――――


「巡音流乱舞鞭術極意!!『蛸足雁字搦め』!!」


咄嗟の判断か、条件反射か。ルカの鞭が、いろはを縛り上げていた。

締め上げて一息ついて、声の聞こえたほうを見上げると。


「何やらルカちゃんから逃げてる子がいたから、とりあえずバナナの皮を踏ませてみたけど、正解だったかな?」


スイカバーを片手に微笑むカイトの姿。


「カイトさん!ナイスタイミングよ!この子―――――いろはちゃん、『TA&KU』からの刺客よ!」

「いろは……というとあの猫村いろはか!こんな子まで戦闘兵器に仕立て上げたってわけか……まったく、とんだ外道だな、相手は。」

「……スイカバーどうでした?」

「いやなかなかおいしかったよ!ここに来るまでに30本全部食べちゃった☆」

「今12月!!(汗)」


ひとしきりコントのような言葉を交わした後、ルカは縛り上げたいろはを睨みつけた。


「さぁーて……ちょっといろいろしゃべってもらいますか……」


その時、グミがルカの袖をくい、と引っ張った。


「ルカちゃん……いろはだけだった?飛び出してきたの……」

「?そうだけど?」

「他に誰もいなかった?」

「一応『心透視』で探したけど、誰もいなかったよ?」


その言葉を聞いて、少しだけ考え込むグミ。


(おかしいな……いろはがいるなら、『あいつ』もいてもおかしくないのに……)


そんなグミの様子には気づかず、ルカがいろはの首を持ち上げようとしたその時だった。



「……………けてよ。」



「?」

「……けて……助けてよ……!!」

「今さら命乞い?まぁだいじょぶだって、殺しはしな―――――」


ルカがそこまで言った瞬間―――――



「何やってんのよ!!早く助けてよ!!リュウ――――――――――――!!」



いろはの絶叫とともに、いろはが飛び出してきた木の中から、再び一人の影が飛び出してきた。

その影はいろはの前―――――ルカの真正面に降り立った。

緑の髪。垂れ目。そして少年アイドルのような格好に、ハーフパンツからはみ出る尻尾。

そこに降り立ったのは―――――一人の少年。

その姿を見て、グミが『あっ』と大声を上げた。


「リュウト!!あんたも……やっぱり来てたのね!!」

「リュウト?……まさか、ガチャッポイドのリュウト!?」


ルカが再び驚愕の表情を浮かべる。思い出したのだ―――――有名な恐竜の子をモチーフとして生み出されたボーカロイド『ガチャッポイド』のリュウトのことを。


「覚えててくれたんですね……お久しぶりです、巡音ルカさん。そしてその他の皆さん。」

(嘘でしょ……これまでずっと気配を消して、『心透視』の目を潜り抜けてきたっていうの!?)


ルカの衝撃などお構いなしに、リュウトは両腕を胸の前で構えた。


「できることなら殺したくはないけど……いろはちゃんを傷つけるなら致し方ない。あなた方であろうとも……容赦なくいきますよ!!!!」


そう叫んだ途端。



――――――――――ドクン――――――――――



リュウトの体が突然波打った。


「ぐぎぎぎぎぎギギぎぎぎぎぎぎぎぎぎギイギイギギイギギイギイ!!!」


謎の奇声を上げながら全身に力を込めていくリュウト。

そしてキッと空を仰ぎ見て――――――――――



『ド・ラ・ゴ・ラ・ム!!!!!』



そう叫んだ瞬間、光に包まれてリュウトの体が天空へと飛び上がった。


「え!?」


突然のことにルカたちが戸惑っている間に―――――


―――――『それ』は起こった。




《――――――――――カッ!!》





強烈な光が天空で炸裂し―――――



―――――――――――――――そこに巨大なドラゴンが出現した!!


「なっ!!!!?」

「何ぃ!!?」

「きゃああああああ!!!!?」

「なっ……何あれ!!?」

『ど……ドラゴンっ……!!?』


突然の出現に、ルカたちは愕然としていた。

信じられない。だがこれは現実だ。





ボーカロイドが―――――ドラゴンに化けた。





 『ヴヴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』





新緑の鱗をぎらつかせながら、巨大な竜は天空を貫くような咆哮を上げた―――――。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

仔猫と竜とEXTEND!! Ⅲ~いろはの猛攻~

いろはちゃん来ました―――――――!!
こんにちはTurndogです。

クリプトン勢とグミちゃんとリリィを除くと、次いで好きなのがこの猫村いろはですね。
ロリのくせして声が大人www
だがルカさんにはかなわないな(どや((うざい

そ・し・て!!
ガチャッポイドのリュウトなんて『なんという地味なものを出してきた』とか言った人。
リュウトほどバトルものに向いたボーカロイドはいないんだぞ!!なんたって恐竜の子供がモデルなんだからな!

そのリュウトが……いったい何事!!?
次回待たれよ!!

そうそう、今作品はグミちゃん今までよりもはるかに活躍の場面が増えます。グミちゃん(`・ω・´)カッコヨス!!

閲覧数:355

投稿日:2013/05/25 21:54:21

文字数:5,865文字

カテゴリ:小説

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  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    グミちゃんが戦えるということすら、忘れていた←
    ましてや、強いということはまったくww
    だって、いつも不憫だったから←

    恐竜の子供……ヨッシー!!!

    2013/06/12 19:13:33

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      でも能力を見たらこの子は最恐←
      だって見えないんだぜ?トマホークがw

      あいつはそもそも子供だったのか!?wwwww

      2013/06/12 19:21:41

  • Tea Cat

    Tea Cat

    ご意見・ご感想

    いろはちゃんとリュウトくん登場!!
    なんかリュウトくん強そうですよ!?
    そして「ドラゴラム」って確か某竜の冒険のゲームの技の名前だったような(黙れ

    2013/06/02 22:38:04

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