「んで?」
一人の少女の通った声が、広いホールに響く。
少女は腰に両手を当て、不機嫌そうに貧乏ゆすりしながら、眉間に皺を寄せて、金色の髪を輝かせている。
となりには、容姿のよく似た線の細い少年が立っている。
再び、少女の声。
「なんで私たち、ここに呼ばれたの?」
「さぁ・・・・・・? 気まぐれで呼ばれたんじゃないの?」
続いて少年も口を開いた。
彼らは、声質もよく似ている。
「本当に気まぐれで呼ばれたとしたら、ただじゃおかないわ」
少女の貧乏ゆすりが激しくなる。
揺すっているせいで、傍の地面が揺れているのか。
少年は、おっかない、というふうに肩をすくめてみせた。
「んで、私たちをここへ呼んだアレ・・・・・・。バカイト兄さんは、ここにはまだいないの?」
「そうみたい」
「自分で呼んだくせに、無責任なことするなぁ。ああ、腹が立つ!」
キイィっと金切り声を上げて、地団太を踏んだ。
更に待つこと1時間。ホールに、2人の待ち人はまだ来ていないようだった。
待つことに飽き、少年はホールの座席に移動して熟睡してしまっている。
少女は、というと、その寝顔を見つめたままであるが、キレかけている。
ホールの中は、暖房が効いているせいで暖かい。
そして、2人以外の、人影はない。
と、思ったのだが・・・・・・。
「ああああああ、もう! なんっなのよ、人を呼び出した上に、こんなに待たせて! バカイト兄さんの馬鹿――――!」
ホールの舞台に向かって、少女は思いきり叫んだ。
何度も反響して、言い終わった後でも、声はこだましていた。
「ん?」
どこからか、低い声が小さく聞こえたような気がした。
もの凄い勢いで、少女が声のするほうを向くと、なんとそこには半分寝ぼけた目の青年――カイトが、座席に腰をかけていた。
「よっ」と、カイトがちょこんっと指をそろえて上に向ける。
「えっ、えっ、え・・・・・・・・・・・・うぇえええええ!? バカイト、じゃなかった、カイト兄さん!」
「うぇ? バカイト?」
少年もその声に反応し、むくりと体を起き上がらせる。
こちらも半分寝ぼけた眼である。
おそらく、カイトもあの座席で熟睡していたのだ。――そう少女は悟った。
「っていうか、兄さん何やってんのよ! 私たち、ずっとここで待ってたのよ!」
「カイト兄、いつからいたんだよ?」
二人の質問に、さらりと、綺麗にカイトは答えた。
「1時間半前から。寝てたけど」
そうか、彼は眠っていたのだ。だから、私たちが来ても気づかなかったのだ。
少女はそう思った。
「ところで、リンちゃん、レンくん。二人をこんな広いホールに呼び出した、その理由とは・・・・・・」
リン、レンと呼ばれた少女と少年は、かくんと首を同じ方向に傾けた。
「何なの?」
「何だよ?」
ごくり。
唾を飲み込む音が聞こえる。
「わ・・・・・・」
「わっ?」
「わぁ?」
早くしろ、そう言わんばかりにリンの貧乏ゆすりが始まる。
「忘れたんだよね実は。寝てる間に。すんましぇごぐぁあ!」
言い終わらないうちに出された打撃音。
その音は、それはそれは綺麗に鳴り響いたそうな。
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