「あっつ!!」


 何がって? 気温? それとも日光?
いやいや、桃音モモが目玉焼きを焦げさせたか、スクランブルエッグに変えてしまった合図である。しかし、一体どうやったらそうなるんだろうか。

 ともかく、そんな出来事が東京の路地の一角に居を構える「MART」というところで起こった。

 通称「アンドロイド支援組織」と呼ばれる組織の本部である。ここのメンバーは総長のカイトを筆頭に、鏡音レン、桃音モモ、天音ルナ、メイコの5人。

 21世紀初めの頃、感情を持つ高度な思考判断能力を持ったロボット「アンドロイド」が誕生してから、長い歳月が過ぎた。人間たちにとって、今や当たり前の存在となり、ありとあらゆる場所でその姿を見るようになった。その中で歌を生業とするアンドロイドたちは「ボーカロイド」と呼ばれるようにもなった。

 時は人間とアンドロイドの共生社会。物語は、この瞬間から始まる。


「あぁ、今日も無惨な姿になった卵を食パンの上へ乗せることになるのか…」

「すみません、またやっちゃいました…アハハハハ…」

「まったく、このままだとみんなの胃袋がモモの失敗料理で潰されてしまうな」

「またやってしまいましたのね。モモ、もっと精進なさい」


 他のメンバーたちが次々と起きてくる。というのも、モモのでかい失敗コールはMARTの目覚まし代わりにもなっているのである。


「おはようございます!」

「おはよう、レン君」

「みんな揃ったか?よし、それじゃ自分の席に着いてくれ」


 MARTの朝食は、7時半から始まる。モモが早朝から頑張って作ってくれた、やや焦げたスクランブルエッグを乗せた食パンが並べられている。でもどういうわけか、添えられているコーンスープは、やたらコクがあって美味しい。

 ドリンクにはカイトがアイスコーヒー、レンがバナナジュースといった感じだ。しかし、流石のお酒好きなメイコでも朝から飲んだりはしない。


「…さて、今日は何の日か分かるかレン君?」

「はい、新しいMARTのメンバー歓迎会をする日です!」

「そうだ。みんな忘れちゃいないだろうな?」

「当たり前でしょ。これから一緒に生活する仲間が来る日なんだから」

「私も、またMARTの一員が増えるのは嬉しい限りですわ」

(どんな子なんだろうなぁ…ウフフフフ……)

「よし、開催の時間までに間に合うように、急いで歓迎会の準備をしないとな。朝食を食べ終わったら、それぞれの分担に移ってくれ。ではいただこうか、合掌!」

「いただきます!」


 MARTはアンドロイドの支援を主な仕事にしているのだが、年々アンドロイドを所有・管理する主人(マスター)による主権放棄や、アンドロイド・バイオレンスなどの社会問題が急激に増えつつある。

 これらは俗に、この世界では¨アンドロイド問題¨と呼ばれているのだが、それによる心身共に被害を受けたアンドロイドたちは数知れない。MARTへの相談依頼も増え続ける傾向にある。

 この状況で、流石にMARTを5人でカバーするのには少々無理が出てきた。それでカイトの判断により、メンバーを1人増やすことにしたのである。今日、MARTに新しいメンバーが来る。全員はそれを心待ちにしながら朝食を食べ終えると、それぞれの役目に取りかかっていった。


「レン君、歓迎会の食材を買いにいきましょう」

「はい!」


「今日は確か9日だから…ネギの特売日ね!」

「もしかして、ネギ料理をするんですか?」

「そうね、ネギ炒めかネギスープかネギトロかネギオムレツか…」

「ネ、ネギのフルコースだけは勘弁してください…」


 そう言ってふっと笑ったレンだったが、数年前に行方不明になった姉の初音ミクが無類のネギ好きだったから、なかなか素直に笑えない。彼女の消息をMARTで探しているが、今のところ何も手掛かりは掴めていないのだ。

 2人は歓迎会の食材を調達するため、行きつけの都内のスーパーに向かった。


「今日は一段とすごい混みようね。どこから回ろうかしら…」

「メイコさん、僕バナナが欲しいです!」

「それなら、デザートにバナナを使いましょうか」

「やった!」


 フィリピン産のバナナ一房67円。かなりの安さだった。バナナが好物のレンにはとても嬉しい値段だった。次のコーナーに移ろうとした時、2人は顔見知りの女性と出会った。


「あ、イブキさん今日は!」

「あらレン君、偶然ね! 今日はメイコさんと買い物?」

「イブキちゃんじゃない」

「あっ、今日はメイコさん! それにしても、その大量のネギはどうしたんですか…?」

「これ? 今日は9日だからネギの特売日なのよ。それに今晩、ウチで歓迎会があるから、その食材探しにきたの」

「歓迎会ということは…MARTさんに新しい方が来られるんですね!」
「そうなのよ」


 雷歌イブキ。
 MARTの近所にある稲妻神社の神主アンドロイドである。ちなみに、兄のヒビキがいる。この兄妹は本当に仲が良いのだが、もうどう見ても兄妹じゃなくて完全なリア充で…周りからは呆られているほどである。


「おっと、皆さんで立ち話ですか?」

「お兄ちゃん! どこに行ってたの!?」

「ちょっと他に買ってくる物があったんだ、ごめんよ。いやいやメイコさん、今日も変わらずお綺麗ですね」

「あら、ヒビキ君のお世辞なんて嬉しいわ。そういうヒビキ君も、相変わらず素敵なイケメンね」

「ははっ、恐縮です。レン、お前ちゃんと頑張ってるか? 手伝いもしっかりしてるか?」

「もちろん!」

「いい返事だ。いつの間にか、立派な男らしくなってきたな」

「MARTも仕事が多くなってきたし、僕もメンバーの一員だから頑張らないとね」

「そうか、期待してるぞ」


 兄弟のいないレンにとって、カイトとヒビキは本当のお兄さんのような存在だった。それで優しく頼りがいのある兄がいるイブキがとても羨ましかった。


「メイコさん、今夜MARTで歓迎会があるんですよね?」

「ええ、もし良かったら雷歌兄妹も来てくれる?」

「ありがたいお誘いですね。それなら、稲妻神社伝統の雷神鍋とお神酒を持って行きますよ!」

「気が利くわね~! 楽しみにしてるわ! こっちも色々と用意してるから、ゆっくり楽しんでいって」

「それなら早く帰って、こしらえておかないと。では俺たちは神社に戻ります。イブキ、行くぞ」

「うん、メイコさんまた後で! レン君、バイバイ!」

「は、はい! さよならイブキさん!」

「ふふん、なるほどね…」


 本日のお買い上げ、総額5031円。買い物袋の中には、大量のネギが入っていた。


この作品にはライセンスが付与されていません。この作品を複製・頒布したいときは、作者に連絡して許諾を得て下さい。

「VOCALOID HEARTS」~第1話・目覚めの朝食~

皆さん、今晩は!
前回の更新からかなり時間が経ってしまいましたが、今回は「VOCALOID HEARTS」第1話を投稿させていただきました。

ピアプロの投稿は初めてになるのですが、皆さんの素晴らしい創作作品がたくさんある中で、内心少し心細い気持ちがありました。

しかし前回の投稿では初めてのメッセージをいただいて、本当に嬉しかったです。

次回はMART歓迎会のストーリーの第2話・黄昏色の楽器に続きます!

※訂正
前回の投稿で、誤字・脱字、登場人物紹介の欠落がありました。

閲覧数:960

投稿日:2013/08/15 21:31:36

文字数:2,791文字

カテゴリ:小説

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  • まんじゅう

    まんじゅう

    ご意見・ご感想

    き、期待!!
    うぅw
    期待に答えられるといいですがwwww

    すこってぃww暴走しまくりそうですねwwww
    どのような展開を見せるのか私もミルさんに【期待】します☆

    2011/05/09 18:32:12

    • オレアリア

      オレアリア

      まんじゅうさんありがとうございます!
      おぉ!期待して頂いた以上は頑張らないとw


      自分でもまだこの物語の考えられてはいないですが、良いのが完成するように努力します!

      まんじゅうさんの小説次回作も期待してますね!

      2011/05/15 23:06:44

  • ミル

    ミル

    ご意見・ご感想

    オセロットさんおせにちは!
    記念すべき第1話のうp楽しみに待ってました!


    レンのイブキに対する揺れ動く思春期ぶりがもう2828ですよ…!
    てかメイコさんのイイ話が混雑で聞こえないとは涙目…ww


    次回の第2話も楽しみに待ってます!
    MARTの新しいメンバーとは果たして…wkwk…

    2011/05/04 19:59:14

    • オレアリア

      オレアリア

      ミルさんおせばんは!
      今日も最後まで読んで頂いてありがとうございました!


      このオセロット、2828物語は大好物ですw
      イブキとレンの組み合わせは自分でも意外性のあるものだと思ったんですが、結構悪くないなと思いました。


      兼用更新はやはり投稿がかなり遅くなったりしてしまいますが、次回も頑張ります!

      2011/05/04 20:23:24

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