―――――その光景は、まさに想定外というべきものだった。



いや、正確には想定はしていた。だが、ありえないと思っていたのだ。




この土壇場で、リュウトが火竜の力を完全に支配下に置くなど……!!




「……ホントに、支配下に置いちゃったっていうの……!?」

「じ……実はたまたまってことは……」


ミクが一縷の望みをかけてグミに話しかけるが、グミの表情は険しいままだ。


「……『サウンド・ウォーズ』を爆発させずに解除するには、空気弾を『砲撃』としてまとめる力の中心をぶち抜かなければならない。それは1㎜でもずれれば、即座に爆発してしまうほどの繊細さで、弾一つならともかく、数百発の砲撃を解除するには神業的スピードとコントロールが必要とされる。戦闘本能やたまたまで片付けられる繊細さじゃない……!! 間違いないわ、リュウトは今完全に力をコントロールしている!!」

「……最悪……」


ルカが頭に手を当てて嘆く。もちろん、諦めようという考えは持っていなかったが。


先ほどまで暴れ狂っていたドラゴン―――――いや、もはやドラゴンではなくリュウトと呼ぶべきか―――――は、打って変わった優しい目つきで手の上に乗せたいろはを見つめている。


「……リュウ?」

『うん?』

「あたしが……わかるの?」

『うん。今まで苦労かけて……君を守れなくてごめんね』

「あんた……いったいどうして……」

『さぁ……僕にも分らないや。ただ……一つ分かることがある』

「え……」


『……もう、僕らは誰にも負けないんだってこと』



ひゅん、と柔らかな音がして―――――隙をついてメイコバーストを撃とうとしていたメイコの目前にリュウトの巨体が迫った。


「な―――――」


驚くメイコの姿は、殺人的速度で振り下ろされた巨大な拳の下に消えた。


「があああぁああぁあぁああああぁああああああ!!!!!!」


メイコの悲鳴が響く中、叩き付けられたリュウトの拳の周りの地面が砕け、舞い上がっていく。


「めーちゃん!!?」

「嘘……!?」


すっと拳を上げた下では、メイコがぐったりと倒れている。四肢こそ変な方向に曲がっているが、身体は無事なようだ。


『……凄いな』

『おい』


不意に低い声が響いた。カイトがエクスイカバーで足を固めている。


『うちの大黒柱潰しやがって……ただで済むと思うn』


その台詞は最後まで綴られなかった。一瞬足から炎が噴き出し、氷が砕け散った。

その足はこれまた恐ろしいスピードで―――――カイトを踏みつぶした!!


「ぎぃあぁ!!!!!」


短い悲鳴が聞こえた後、『バチンっ』と何かが弾けた音がした。

リュウトが足をどけてみると、岩のカケラに埋もれたカイトがいた。体にはどこにも傷がない。先ほどの音は、全力をつぎ込んだ『絶対バリア』が弾け飛んだ音だったのだ。


『……本当に凄い』


またもリュウトがポツリとつぶやく。

だが次の瞬間には、リンとレンの目前へと迫っていた。


『つっ、ツイン・サウンド・バリアああああああ!!!!』


慌てながらバリアを張る二人。咄嗟に張ったバリアは鍛錬を重ねた強化版。一撃目の蹴りは―――――揺らぎながらも何とか防いだ。

―――――が。


『ぐあっ!!!!?』


本命はそちらではなかった。一撃目の蹴りで揺らいだバリアに叩き込まれたのは、蹴りの勢いをそのまま生かした尻尾の一撃!!

バリアは破け、リンとレンはまともに尻尾の一撃を喰らってしまった。ミサイルの如きスピードで吹っ飛んでいき、ビルのど真ん中にめり込んでしまう。


「リン!! レンっ!!!」

「!!! ミク、よけなさい!!!!」


ルカの声に反応したミクの目の前には―――――拳を振り上げた巨大な火竜の姿が。


「蛸足滅砕陣《破音》!!!!」


振り下ろされた拳に八本の鞭が叩き込まれ、わずかに軌道がずれた。

その隙にミクは『Light』で逃げ出し、空を切った拳は地面を抉り飛ばした。


『おお……』

「何感心してんのっ……おらぁ!!!」


手首のスナップだけで鞭を引きもどし、再び蛸足滅砕陣《破音》が放たれる。本日4回目。強化型の鞭とも言えどそろそろ限界だ。

―――――その限界が仇となった。


『ふん!!』


リュウトが一つ気合を入れて拳を鞭に振り当てる。

その凄まじい重量の腕の振りに、限界を迎えた鞭は耐えられず、八本とも無残に引きちぎれた。


「な……」

『ハッ!!!』


愕然としたルカの隙は見逃されなかった。

横嬲りの拳がルカに叩き付けられる。

ルカにとって、そのスピードは追い切れないものではなかった。4か月前に、『本気になった猫又のスピード』を経験していたのが幸いした。

しかしそれでも―――――


「があ!!!」


受け身などそう簡単に取れるはずもない。吹き飛ばされたルカの体は、ミクに向かって一直線だ!!


「うわわ!!?」


飛んできた姉をできる限りの力で捕まえるミク。しかしいろはとの戦いで、延髄を叩かれたミクに抑えきれる威力ではなかった。

そこに追い打ちのように―――――尻尾の掬い上げが決まる。

地面ごと天空高く吹き飛ばされた二人に再び拳が振り下ろされ、ミクとルカの体は地面に叩き付けられた。


『がぁ……!!』


ぐったりと横たわる6人のボーカロイド。それを静かに見据えるリュウト。


と、その時。



『サウンド・ケージ!!!』



鮮やかな声と共に、ルカたち6人に空気の檻がかぶせられた。


『! これは……』

「まだあたしがいるわよ、リュウト!!!!」


軽やかにミクとルカの前に降り立ち、リュウトに立ちはだかったのは―――――グミ。


「グミちゃん……ダメ……やられる……」

「こう見えてあたしはリュウトとの戦闘訓練の戦績は200戦150勝なのよ……案外勝ってるんだからね!?」


構えるグミに、どこか懐かしさをたたえたような目を向けるリュウト。


『……そういえばそうだったね、グミさん。他の人には結構勝てたけど、グミさんにだけはなぜか勝てなくて。なんで勝てなかったのか、さっきようやくわかったよ。『あの』バーストショット。あれでいつも、僕を戦闘不能に追い込んでたんだね』

「えっ!!?」


ルカの驚いた声に、グミは苦笑いを浮かべる。


「……必勝パターンだったんだけどなぁ。あんた、ホント防御とか回避とか知らない奴だったから、あれを頭に叩き込むだけであっさり倒せたんだもん。昨日の戦いの時だって、町の人さえいなければ速攻で叩き込んで終わらせてたと思うわ」

『通りでいつも気づいた瞬間には戦闘が終わってたわけだよ。……でも大抵、グミさんはいろはちゃんと一緒になって僕が目を覚ますまで傍についていてくれたよね。あの科学者たちに怒られてもずっとそばで看病してくれて……アレは本当に嬉しかった……まさか、こんな日が来るなんて思わなかったよ』

「あたしはいつか、来るんじゃないかなって思って毎日を過ごしてたけどね」


皮肉った表情で笑うグミ。


―――――実は、この他愛ない会話こそがグミの最後の賭けだったのだ。


懐かしい思い出を話すことで、リュウトの注意をこちらに向けさせ、その間にリュウトの頭部周辺の空気を全て兵器に変えていたのだ。

後は発射するだけ――――――――――


―――――だがそんなうまく行くはずもなかった。



『そう、こんな日が来てしまうなんて……でも来てしまったからには仕方ないよね。だからグミさんも、こんな罠を仕掛けたんでしょ?』


そういうと同時に、リュウトの腕が唸り、頭部の周りの『サウンド・ウォーズ』が『武装解除』された。


「う……!」


グミの悔しそうな声が響いた。


『今の僕は、前の僕とは違うんだ。もうこの荒々しい力を意のままに奮える。……201戦目。51勝目と同時に、僕の完全勝利だよ、グミさん』


拳が振り下ろされ、グミが岩石の中に声もなく埋まっていく。

絶望に満ちた目で岩石に埋もれたグミを見つめるルカの前で、『サウンド・ケージ』が揺らめいて消えた。


不意に、リュウトが軽く後ろに下がった。

そして大きく息を吸い込んでいく。

同時に、口の中で山吹色の炎が揺らめいた。


(……!! あれは……サウンドフレア!?)


前日の戦いでルカたちを戦闘不能に追い込んだ超大技・サウンドフレア。この状態で喰らってはたまったものではない。


―――――それだけでも最悪だというのに。



リュウトが放とうとしていたのは、サウンドフレアではなかった。



「……!?」


様子がおかしい。

口から喉に達するまでため込んだ炎をさらに圧縮している。

それこそ――――――山吹色の光が分厚い筋肉の層を透かして煌めきだすほどに―――――!!


不意に目を覚ましたグミがその様子を見て、思わず声を上げた。


「あっ……!! あれは……やばい……っ!!!」

「グミ……ちゃんっ……!?」

「リュウトの……最強の奥の手……っ!!」


苦しそうな声が、絞り出された瞬間。





『………………サウンド・ヒート!!!!!!!!!』





リュウトの喉の奥から轟音が響き。


山吹色の―――――『熱線』が、ルカ達に向かって降り注いだ!!




「あ―――――――――――――――」




悲鳴を上げる間もなく―――――ルカたちの体は光の中へと消えていく――――――――――。



薄れゆく意識の中で、ルカは想った。





勝てないよ、マスター。



助けてよ、マスター。










――――――――――しばらくして、ルカは意識を取り戻した。


(……あれ……? 私……生きてる……?)


すぐそばに倒れているミクに触れてみると、凄まじい高温を体に宿しているが、一応息はあった。

あの超高熱の熱線を受けて、なぜ?

その答えは自分たちのすぐ周りにあった。蒼いバリアが、自分たちの周りを覆っている。

もうもうと上がる蒸気の中、目を凝らしてみると、他にもいくつか蒼いバリアが張られている。

カイトの卑怯プログラム『絶対バリア』だ。それがルカたちそれぞれの周りに張られていたのだ。


「……なんとか……防げたか……」


弱々しい声が聞こえ、ドサリと音がした。同時に蒼いバリアが消失していく。


「カイトさ……!!」


にじり寄ろうとするルカ。だがしかし、その体は急激に持ち上げられた。


「!?」


高温の蒸気を潜り抜け、急に冷たい空気が顔を撫でる。

そっと目を開けてみるルカ。





そこには―――――知性の輝きをその瞳に宿した、巨大な火竜―――――リュウトの顔があった―――――。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

仔猫と竜とEXTEND!! Ⅸ~激突!! VOCALOID軍団③VS殲滅の音波竜

リュウト、覚醒。
こんにちはTurndogです。

力・業・防・全てにおいて完璧。それこそがリュウトの真の姿なのです。
ここだけの話、実は裏設定で『リュウトのIQは200強』というのもありまして。早い話が戦闘の超天才です。
余りにも強すぎる相手です。
ルカさん最初は諦める気はなかったようですが、最後のほうもう泣きかけてる気がします。
この強敵に、天下のVOCALOID軍団も屈伏してしまうのか!?

ところで今回のMVPは地味にカイトな気がする。

閲覧数:253

投稿日:2013/10/28 13:25:06

文字数:4,504文字

カテゴリ:小説

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  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    いろは……これは惚れたな
    それにいつぞやのグミちゃん空気、がなくなってて、グミちゃんかわいい←

    ルカさんが「かてないよーえーん」って泣いてたら、それはそれで萌えるじゃないw

    2013/12/07 19:40:11

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      リュウト無双w
      そして多分話の主導権はTA&KUVOCALOIDに移っている←

      ……確かに萌える。あっ鼻血が(ひっこめ変態

      2013/12/07 20:09:23

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