「ふああぁ～あ～…ネルぅ～…ど～だぁ?」


　のんびりとしたリリィの声が響くそこは、『改造専門店　ネルネル・ネルネ』のカウンター。カウンターにはリリィの愛刀・鬼百合が横たわっており、その前にはネルが座っていた。

　起き出した未だ気怠そうなリリィに気付いたネルは、明るく笑った。


　「リリィさん!起きるの遅いよ～?もう修理完了したよ?」

　「起きるの遅いったって昨日寝たの何時だと思っ…ってええええええええええええ!!?修理終わったぁぁあ!!?」


　パッチリ目が開いたリリィが、思わずネルを突き飛ばして駆け寄った。傷は目を凝らしても全く見当たらない。完璧に補修されていた。


　「すげぇ…すっげえええええ…!!」


　あまりの感動に震えながら、、鬼百合を掴み、持ち上げるリリィ。

　その瞬間、再び目が見開かれた。そしてまるで錆びついたロボットのようなゆっくりとした動きでネルに顔を向けた。


　「お…おいネル…こりゃ…一体…!?」


　ネルはいたずらっぽい笑みを浮かべる。全く悪びれていない、満足そうな笑み。そう、たとえリリィの愛刀であっても、ネルの手にかかってしまえば絶好の改造対象となるのだ―――。


　「ふふふ…!それをどう使いこなすかは、リリィさん次第だよ♪」





　「ええええええええええええええええ!?」


　一方ボカロマンションの朝は、ルカの絶叫から始まっていた。

　突然の大声にまずミクとリンが飛び起きた。


　「な…何!?どしたのルカさん!?」


　見ると、ルカは手に何かを握りしめて、ぷるぷると震えている。ばたばたと駆け寄ってルカの手元を覗き込むミク。


　「『吾輩はそろそろ旅立たせていただく。諸君、さらばだ』…ロシアンちゃんもう行っちゃった―――!!」

　「…そんなに騒ぐことなの?」

　「面と向かってさよなら言ってないのにー!!」

　「……。」


　頭を掻き毟って叫ぶルカを、ミクは呆れた目で見ていた。


　「はいはい、そこまで。グミには一般人を引きつけてもらうためにライブやりに行かせたから、あたしらはとりあえず、朝飯さっさと喰ってリリィ探しに行くわよ。」


　いつの間にか起き出したメイコが、ルカの口をふさいだ。


　「ふぁあああふぁふぃふんふぉふぉ――!!」

　「『にゃあああ何すんのよ――!!』とか言ってるんでしょうけどとりあえず落ち着きなさい。リリィに勝って、マスターノートを手に入れたいんでしょ?だったらちゃんと飯食って、リリィに勝てる体力つけて挑まなきゃ、でしょ?ロシアンが帰ったぐらいで叫んでる暇はないわよ。」


　リリィに勝つ。マスターノートを手に入れる。大切な目的が耳に入った瞬間。


　「さっさと朝ごはん食べて行きましょ!!」

　『変わり身早っ!!』


　ミク、リン、レン、メイコがルカの切り替えの早さにマジツッコミしている間、起き上がったカイトは布団の上でじっと手を見つめていた。

　昨晩のメイコの言葉がフラッシュバックする。


　『時として、容赦を捨て去らなければならないこともある―――』


　(容赦…か…。)


　ぎりりと握りしめたその手は、余りにも弱く、頼りなく見えた。

　それでもカイトは、進まねばならなかった。仲間のために。自分のために。そして―――愛するマスター―――『ケルディオ博士』の想いのために。