気づいて時計を確認したら既に23時近かった。
今日で残業何日目だろう、なんて数えるのも馬鹿馬鹿しい。
時期が時期だししょうがないと自分に言い聞かせて書類を束ねると、自然とため息が漏れて肩の力を抜くことができた。
電話とメールと、もう一度時間確認のために携帯を開くが、確認するのは時間だけだった。
ついでに寒さも確認できたところで帰路につく。
夕飯は何にしよう。
明日も朝早いし、寒いからカップ麺。疲れてるからあっさり塩味かな。お腹すいてるから豚骨でもいいかも。
でも、ぐっすり寝たいから帰りにスーパーでチーズとワインでも買っていこうかな。この勢いだと一本あけちゃいそう。
暗い夜道を白い息で遊びながら帰宅すると、マンションの前にスーツ姿のカイトが居て心底驚いた。
「あ、めーちゃん。おかえり」
にこっと笑顔で言われたと思ったらいきなり抱きつかれた。
え、ちょっと、なになに。
どうしたの?
肩に顔を埋められて更にきつく抱き締められる。
あんまり強く抱きしめるから、体中の力が抜けて持っていた書類が音をたててバッグから落ちたけど、そんなの全然気にならなかった。
いつもならビンタの一つでもお見舞いしてるのに、なぜか今日はそれができない。
あたしも、どうしたんだろう。
外の空気が冷たい分、カイトの温かさを確認して抱きしめ返す。
どのくらいそうしていたのかわからないくらい時間が経って、ようやくカイトが口を開いた。
「ハッピーバレンタイン」
言うと同時に体が離れて全身が寒さをおそった。
すごく、名残惜しいなんて。
渡された箱を前にしてようやく現実に戻された。
バレンタイン…。
「2月14日!!」
思わず大きい声が出てしまった。
だって、今日は、バレンタインデーは、2月14日は。
「誕生日…」
あぁ…と頷いて苦笑いするカイト。
「祝ってって催促してるみたいだから本当は嫌だったんだけど、」
めーちゃん行事でもないと息抜きできないでしょ?
もう、最低だ、あたし。
何年も付き合ってる恋人の誕生日忘れるなんて。
最低だよ。
こんな最低な彼女を前にしてまだ、自分の誕生日よりバレンタインであたしの疲れを取ること考えてくれてる。
本当、バカだよ。
「でも、ついでに一言おめでとって言ってくれると嬉しいかも。」
もうすぐ日付変わっちゃうし、と腕時計を確認して相変わらず照れくさそうに苦笑いしながらカイトが言った。
ごめんね、ありがとう、バカ、大好き。
頭の中がぐちゃぐちゃになってうまくでてこない言葉の代わりに、カイトのマフラーを引っ張って少し背伸びする。
優しく口づけて、驚いて赤くなったカイトの顔を確認してから、今度は自分からカイトに腕を回しておめでとうと、生まれてきてくれてありがとうを震える声で伝えた。
無言で頭を撫でてくれるカイトにもう一言だいすき、と伝えるとキスし返されてそのまま腕の中に閉じ込められた。
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