──一言いうと、










≪Birthday with a cat≫










時々、「自分の誕生日を忘れていた」などのお話を、マンガや小説などで見たことがある。
そういうのは非常にマヌケだと思うが、少しだけ羨ましいと思ってしまう。
だってその分嬉しさが何倍にも膨れ上がるし、それに……焦ったり、不安にならなくていいから。

私もそんな不安を抱えながら、とうとう自分の誕生日を迎えたのだった。


──皆、私の誕生日を忘れていないだろうか……。
──バカイトが、うつつを抜かしてアイスなどに愛の言葉を囁きながら夢中に頬張ってなどいないだろうか……。


そんな言葉が私の頭の中でぐるぐると渦巻いていたようだったが、





──全ては杞憂だったようだ。





「……ルカ、あんたたち何してんの……?」
「わかりませんか? メイコさんへの誕生日プレゼントの準備です!」


目の前の光景に目を疑いたかった。
しかし何度目を瞬きしても、こすっても光景は全く変わっていない。
念のためルカに尋ねても、明らかにそれはルカの声だ。……やけにテンションが高いということを除けば。


「……ミク」
「! ……めーお姉ちゃん、何?」


私は仕方なく一人意気揚々としているルカではなく、この場で一番事実を伝えることができそうなミクに訊いた。
ミクは自分の名前を呼ばれないとでも思ったのだろうか、少し声のトーンを上げた。





「……なんで、カイトたちが女装して正座してんのよ」
「る、るー姉曰く、めーお姉ちゃんの誕プレだと……」
「…………」
「…………」


私がいつ、男性陣に女装をさせて正座してほしいと言ったのだろうか……

視点のをミクから正座させられている男性陣のほうに向くと、カイトと目があった。
目が合った瞬間、カイトが私に対して助けを求めてくる。


「め、めーちゃん助けて……ルカに脅されたんだ……」
「なんでオレまで……カイト兄だけが女装すればいい話だろ……」
「あひゃひゃ!! レン似合ってんじゃ~ん! もういっそのこと、それで生活しちゃえば~?」
「やめろリン、お前こっちの身にもなってみやがれってんだ……」
「あひゃひゃ!! あーもーお腹痛ーい! グミ姉にも写メ送っちゃおっかな~?」
「やめろ! 絶対にやめろ!!」


目がほぼ死んでる男性陣(特にレン)に対してサディスティックな視線で鼻で笑うリン。
「グミ」の名前が出ると、レンは珍しく顔を真っ赤にして思わず立ち上がった。


「ぷっぷー♪ レンたら顔真っ赤とかマジウケるー」
「……! ……い、いいのかよ、お前」
「ん? 何が? 生憎だけど、このアタシリンちゃん様には彼氏なんて鎖はないんだからね?」
「んなもん知ってるっつーの」


ますます調子に乗ってきたリン。
レンはふっといつものクールな顔に戻り、何やら「とっておきの切り札」を出さんばかりの雰囲気を醸し出した。

……それにしてもリン、「彼氏なんて鎖」って……
あんた男を何だと思ってるのよ……


「──雪りんごにチクって『例の企画』に出せないようにしてやってもいいんだぜ?」
「……! で、でも、証拠なんてない……」
「あるんだな、それが」


『例の企画』という言葉が出たとたん、リンの嗤い顔がふっと止んだ。
そしてその額に、徐々に冷や汗が浮き出るのが見て取れた。

リンも反論を試みるが、それも叶わずレンに遮られた。





「──今の話録音してるかr」
「うわあああああ!! お前卑怯だぞこのヤロ卑怯だー!!」
「調子に乗るリンが悪いんだっつーのー」
「なんだとぉー!」
「……あんたたち、姉弟喧嘩は近所迷惑にならないぐらいでね」
「「これは喧嘩じゃない!!」」
「……じゃあ何よ」
「「己のプライドを賭けた熱い闘い!! ──レン(リン)、覚悟ー!!」」


最初から最後まで二人揃ってハモりにハモって、両者の熱い闘い(という名のただの姉弟喧嘩)が始まったのだった。
これだけハモれるのだから、二人がどれだけ気が合うのかがわかる。
そしてこれだけハモれるのだから、きっと両者全く勝負がつかないのだろう……





「……めーお姉ちゃん!」
「あらミク。どうかしたの?」
「お誕生日おめでとう! 私からのプレゼント!」


あまりのことに今日が自分の誕生日だったことを一時忘れていたようだ。
ミクの心を癒されるような笑顔と言葉に、私はやっと誕生日のことを思い出した。


「ミク、ありがとう」
「えへへ……! めーお姉ちゃんが大好きな赤色のケータイストラップにしたんだ!」
「うふふ、これ大切に使うわね」
「うん! めーお姉ちゃん大好き!!」


破壊力抜群の笑顔でギューと抱きつかれる。

嗚呼、ミクだけは穢れてなくてよかった……
嗚呼、しかしどうして双子はあんなにも穢れているのだろうか……





「メイコさん」
「うわぁルカ!? いつの間に!」
「私はずっとここで立っていました。メイコさんとミクさんの心温まるステキなハグシーンだった為、つい声を掛けずらくなってしまい……」
「あ、それは私が悪かったわね。それで? ルカのは……ホントにアレなの?」
「はい。アレでございます」


いや、さも当然のような顔で言われても困るんですが。


「うぅ、めーちゃ~ん……」
「私に縋らないで。お願いだから」
「うぅ、酷い……」


その星のもと生まれてきたんだ、って思えば少しはポジティブになれるんじゃないかしら?


「……んにしても、よくこんなこと思いつくわね……」
「ありがとうございますっ」
「いや、褒めてないから」


──黒いネコ耳カチューシャ。
──黒いシッポ。
極めつけに黒×白のメイド服を着せられているカイト。
(ちなみにレンは白のネコ耳カチューシャ&シッポ、赤×白の同じデザインのメイド服だ)

私は嫌というほどカイトの女装姿を眺めていた、そのとき。
突如私の横から声が聞こえたてきた。


「きゃあ!! レン君とリンちゃんが喧嘩?! なんて僕得!! 正に俺得!! ……あぁ、でもどっちかを応援だなんて無理ぃ~!」


こんな変態みたいなことを喋る人など、一人しかいない。
私はゆっくりと横を向くと、そこにはやはりグミがいたのだった。


「……あんた、何でここにいんの?! 不法侵入でしょ?!」
「不法侵入とは失礼ですね! ただレン君の部屋の窓によじ登って──」
「それを不法侵入っていうのよ! しかも2階の窓によじ登ったの!?」
「愛さえあればできないことなんてないのですよ♪」
「ドヤ顔で言わないでくれるかな」


変態という名の紳士、否淑女のグミは、思い出したかのように彼女が持っていたバッグからあるものを取り出した。

一つは白い包装紙に緑色のリボンを施された箱。もう一つはそれのリボンが紫色だった。


「誕プレですよ! あと、兄貴の分もです」
「ありがとう。そういえばがくぽは?」
「あぁ、兄貴は寝込んでるというか、部屋に引き籠ってますね」
「引き籠り?!」
「はい、恐らく11月に入ったときからでしょうね」


がくぽに何かあったのだろうか……いや、心当たりが一つある。
しかしそれを話すのも正直メンドくさいので、今回は割愛することにしよう。

今はそんなことより、そう。





──私 の 誕 生 日 だっ た で は な い か。





あぁ、一日で同じことを2度も忘れるなんて……
こんなことってあっていいのだろうか。いや、よくないだろう。


「め、めーちゃん、僕からのプレゼントだけど……」
「え? その女装じゃなかったの?」
「違うから! これはルカからの誕プレで、僕は無理矢理着せられてるだけだから!」


カイトは、さっきよりは目が死んでいなかった。
私が勘違いしたのに声を荒げるほどができるのだ、もはや慣れてしまったんだろう。

……しかし、これのせいで「僕、目覚めたんだ<●>=<●>」とか言ってきたりはしないだろうか……非常に不安だ。


「えっと、これ……!」
「……指輪?」
「うん、めーちゃんなら絶対似合うと思って……!」
「ありがとう。でも、これ……」


確かに指輪なのはとっても嬉しい。だが、これは……





「──前、私たちだけの仕事のときに出てきた……『○○記念日』の指輪よね?」
「……やはりバレてしまいましたか……流石はメイコさん。記憶力抜群なことでして」
「いや、これぐらいフツー覚えてるからね!? それに何開き直ってるの!? っていうかお仕事で使ったやつをプレゼントするかな、フツー!!」
「うぅ、だってアイス買いすぎちゃって……」
「…………」


あぁ、なんで私はこんな奴なんかを好きになったんだろう……つくづく謎だ。

そして、後ろで「そういえばがくぽさんは来ていないのですか?」「うん、さっきも言ったけど兄貴は部屋に引き籠ってるよ。11月くらいから」「えぇ!? がくぽさんの為にもっともっとカワイイメイド服を作ったのに……」「うーん、それでもレン君にはかなわないよ!」という声は聞こえなかったことにしよう、うん。

私が黙っているのをどうとったのかはわからないが、カイトの額には冷や汗が次々と浮き出ていった。





「う……! じゃ、じゃあ!」
「……?」


何か名案を閃いたのか、カイトは口を開いた。


「ぼ、僕をいただくなどはどうd「いいわ、それにする」えぇ!?」
「悪いの?」
「あ、いや……冗談のつもりで言ったんだけどな……はは……」
「別にいいんじゃない? 今日は私の誕生日なんだし。ほら、さっさと私の部屋に行くわよ」
「…………」


カイトの体中が冷や汗を大量にかくが、私が彼の腕をギュッと掴んでいる為逃げるという選択肢はない。

あ、そうだ。皆に言っとかなきゃね。なんてったって主役が会を外れるんだもの。


「ミク、私たちちょっと席外すから、他の皆に伝えといてね」
「うん、わかった! 天国に行ってもお幸せにね!」
「ありがとうねミク。カイトも嬉しそうにしてるわよ」


顔が青白くなってきているカイトを見てどう思ったのか、ミクは笑顔でカイトのご冥福を祈った。
そして結局ケーキすら食べてないグダグダな誕生会を後にした私たちは、階段を上り、そのまま私の部屋にと足を運ぶ。

部屋に入り、私はすぐにカイトをベッドに押し倒した。
そして一言、





「──さて、今日はとことん可愛がってあげるから、そのつもりで……ね?」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【カイメイ】Birthday with a cat

[投稿日時:'12.11.05]

今日がめーちゃんの誕生日だと知って、急いで9時から書きました。
そのせいかラストにこう書こうと思ったのと大幅に逸れました。てへぺろ。←

それは置いておいて、めーちゃん誕生日おめでとう!!
ずっとずっと大好きです!! 大好き大好き大好k(ry

それと、がくぽファンの皆さんすみません。
彼は今部屋に引き籠ってます。
理由は、まぁ……前作にでも(((

閲覧数:578

投稿日:2012/11/06 17:53:04

文字数:4,361文字

カテゴリ:小説

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