第一章 ミルドガルド2010 パート12
入学式を終えたリーンは、他の学生たちと共にひとまず大講堂の外へ向かうことにした。今日の予定は入学式だけだ。早い段階でハクリと合流しようと考えたリーンは、大講堂の出口へと向かって歩き出すことにした。大講堂の一般出口は舞台とは反対側、リーンから見て後方にしか用意されていない。狭い出口で余計な混雑を起こすつもりはないのだろう、学部ごとの退場をアナウンスされたリーンは、ハクリが出てくるまでには外で暫く待たなければならなくなりそうね、と考えた。リーン達文学部は一番早い退席であったのである。重層な造りをしている大聖堂に、大勢の新入生が歩いてゆく足音と、雑談が溢れ出して騒然とした雰囲気を感じながら大講堂の外へと出たリーンはしかし、他の新入生達と同様に大講堂の出口で呆然とすることになる。即ち、セントパウロ大学名物、各サークル団体による新人獲得合戦である。新人歓迎会、通称新歓と呼ばれるそのイベントは、部員増加を狙う上級生にとっては新入生をかき入れる唯一絶対の舞台であるのだ。まるでバーゲンセール時の店員の如く花道を作っている上級生たちは、入学式を終えて退出してきたリーンを始めとする新入生の姿を見つけるや、正に飢えた獣のごとく勧誘活動を始めたのである。
こりゃ、ハクリを待っている余裕はないわ。
瞬く間に両手に抱える程の部活、サークルの勧誘チラシを受け取ってしまったリーンは人ごみにまぎれながら思わずその様に考え、とにかく人気の無い所に、とだけ考えながらその場所を離れることにしたのである。そうしている間にも、ビラの上にビラが配られてゆく。最後に受け取ったと言うよりは両手の上に載せられたバスケットボールらしいサークルのチラシを溜息交じりに眺めたリーンは、ようやく大学の外れ、雑木林らしい大学の一区画に逃れてようやく一息ついたのである。どこをどうやってここまで来たのかまるで想像がつかないが、とにかく、一度ハクリに連絡を取ろう、とリーンは考え、両手に抱えたビラをひとまずハンドバックに押し込むと、代わりに携帯電話を取り出したのである。遠目に先程まで入学式をしていた大講堂が割合近い位置に見えるから、それほど遠くへ出て来た訳ではないだろう、とリーンは考えてハクリに向かってコールを鳴らす。だが、右耳に当てた携帯電話からは暫くのコール音の後に留守番電話サービスへの接続をアナウンスする自動音声が流れるだけであった。ハクリも携帯に出る余裕がないのだろう、とリーンは考え、とにかく折り返しの電話が来るまでここで待とう、と決意して一つ溜息をついたのである。暫く時間があるし、携帯サイトでもいじくっていようかな、とリーンが考えた時、目の前に一人の男子学生が近付いてきたことにリーンは気が付いた。髪はハクリと同じように輝く銀髪、それでいて瞳は青みがかった黒。顔立ちは酷く整っており、十人が見て九人は美男子だと評価できるような爽やかな表情をしていた。
「君、新入生?」
リーンに向かって嫌味の無い笑顔を見せた銀髪青眼の青年は、少しの間をおいてその様に訊ねて来た。
「そうです。」
僅かな警戒心を抱きながら、リーンはそう答えた。ここまで来てナンパもないだろうが、他の上級生たちが部員獲得に奔走している中でこの男の余裕は何なのだろうか。
「丁度良かった。俺の名前はカイル。もう、目当てのサークルはあるのかな?」
一応、新人勧誘のつもりであたしに声をかけて来たらしい。あるいはあたしみたいにはぐれた新入生を狙い撃ちにするつもりでこの辺りで待ち構えていたのか、と考えながらリーンはこう答えた。
「まだ、決めていません。」
実際、どうするかは全く考えていない。高校の時は仲間とバンドを組んでいたが、それも高校卒業と同時に解散している。バンド活動を続けてもいいとも思うが、大学生なのだから新しいことに挑戦したいと言う気持ちもあったのである。
「なら、俺のサークルの話を聞いてくれると嬉しいな。」
カイルと名乗った青年はそう言って手元に持ちよせていた、橙色のビラに黒一色で刷られたチラシをリーンに向かって差し出した。それを素直に受けとったリーンは、そのチラシに刷られたサークル名をなんとなしに呟く。
「『歴史研究会』?」
意外だった。引き締まったカイルの態度から、おそらく運動系のサークルだろうと推測を立てていたのである。それが、出されたサークル名が歴史研究会。リーンでなくても拍子抜けしただろう。
「小さなサークルさ。」
肩をすくめながら、カイルはそう言った。続けて、こう告げる。
「部員は二名。まあ、あの女が入部を許可すれば、だけど。結構人を選ぶから。」
「あの女?」
たった二名で活動しているという事実にも驚いたが、それ以上にあの女、という言葉にリーンは僅かな興味を覚えたのである。入部を制限してくるとは、一体どのような女性が待ち受けているのだろうか。リーンがそう考えてカイルの回答を待った時、カイルは質問の答えとしてこの様な言葉を口に出した。
「噂をすれば、だな。」
溜息交じりにカイルはそう言って、そしてリーンから見て左手の方向に対して顎をしゃくった。一体何事だろう、とリーンは考えながらその方角を見て、そして言葉を失ったのである。
「カイル、ごめん、ようやく振り切れてさ!」
軽い吐息を混ぜながらその女性はカイルに向かってそう言った。その髪は燃える様な赤髪。先程講堂で演説していたメイであったのである。
「別に来なくても良かったさ。」
カイルは憮然とした表情のままでそう言った。どうやら、カイルはメイとは近い関係にある人物であるらしい。もしや、カイルが言った『あの女』とはメイさんのことだろうか、と考えながらリーンは呆然とメイの姿を見つめたのである。
「あら、貴女は。」
そのリーンに、メイも気が付いたらしい。歩みを止めたメイは、そう言って少し考える様に首をかしげた。
「どこかで会ったかしら?」
「知り合いか?」
カイルが面倒臭そうにそう言った。どうしよう、緊張して声が上手く出せない、そう考えながらも、リーンは少しだけ上ずった声でこう言った。
「あの、ゴールデンシティ駅で、ぶつかってしまった・・。」
覚えているだろうか、と考えながらリーンはそう言った。だが、メイもリーンと交錯したことは覚えていたらしい。リーンの言葉で得心したように頷くと、続けてこう言った。
「ああ、あの時。そうか、貴女もグリーンシティへ向かう途中だったのね。」
メイはそう言うと、優しげな笑顔を見せた。まるで頼りになる姉の様なその表情に、リーンは思わず息を飲み込む。そのリーンに対して一つ頷いたメイは、続けてカイルに向き直るとこう言った。
「で、新入生は確保したの?」
その言葉に、肩をすくめたカイルはこう答える。
「今まさに一人目を勧誘中だ。」
その言葉に、ああ、と頷いたメイは一つ頷くと、リーンに向かってこう言った。
「貴女、新入生だったのね。なら、あたしの演説はさっき聞いてくれていたかしら。」
「はい。凄く、感動しました。」
緊張を隠しきれないままで、リーンはそう言った。あのメイが。赤髪のメイがあたしと会話している。それだけでリーンの鼓動は高鳴り、否応なく歓喜に満ちてくるのである。
「ありがとう。貴女、名前は?」
「リーン、と言います。」
「リーン、ね。いい名前だわ。」
メイはそう言うと、もう一度何かを確かめる様にリーンの顔を覗き込んだ。まるで審査を受けている新人アイドルの様な気分に陥りながら、リーンは戸惑った様に瞬きをした。新歓の喧騒から離れた静寂の中で暫くの間そうしていたメイは、ややあってこう言った。
「金髪蒼眼・・。珍しいわね。」
「金髪蒼眼が、ですか?」
確かに、周りの友人にはリーンほどに見事な蒼眼をもつ人間は存在しない。だが、珍しいと言われたのはこれが初めてのことであった。だが、メイには何かが引っかかっているらしい。続けて、こう言ったのである。
「リーン、貴女のご先祖様に高名な人はいない?」
一体、何を気にしているのだろう。リーンはそう考えながら、メイに向かってこう言った。
「ごめんなさい、あたしの家はどこにでもあるような庶民で・・。」
とりあえず、伝えられる内容はそれくらいしか思い浮かばない。リーンが戸惑ったままでそう伝えると、メイは少しだけ残念そうな表情を見せてから、こう言った。
「そう・・。ごめんなさい、私の思い違いだったわ。」
一体何事だろうか、と考えたリーンに向かって、カイルが補足するようにこう言った。
「金髪蒼眼は黄の国の王族の特徴だった、という文献がメイの家には残っていてね。」
成程、だからあたしの容姿に対して興味を持ったのか、と考えながら、リーンはこう答えた。
「ごめんなさい、本当にあたしは普通の庶民の生まれで、王族なんて人、過去に存在しないです。」
それが事実なら文献の一つくらいリーンの自宅に残っていてもおかしくないだろう、と考えながらリーンはそう答えた。残されているのは出処が分からない拳銃だけである。その言葉を受けたメイが、続けてこう答える。
「ずっと捜しているの。」
「捜している?」
リーンは、不思議そうな表情でそう言った。
「レンよ。歴史から抹殺されたレンの子孫を捜しているの。あの革命はメイコ一人じゃ達成できるものではなかったわ。私が調べた限り、どう考えても思想史的に発展がおかしいの。まるで未来から来た人間みたいに、革命的な思想変換があの時期に起こっているの。たった十年程度の時間で、それまでの常識であった王政を徹底的に否定して、民主主義の旗を振る。他の国ではこんな突拍子もない発想は生まれなかったわ。その思想を持ちこんだのが、レン。どうしてそんな発想ができたのか、未だに謎は解明されてはいないわ。でも、子孫なら、或いは何かを知っているかも知れない、と思って。」
そこまで話して、メイは苦笑するような笑顔を見せた。そして、リーンに向かってこう言った。
「ごめんね、いきなり変な話をして。」
「いいえ。」
だから、あたしがレンの子孫ではないかと考えたのか、とリーンは逆に得心しながらそう答えた。それどころか、メイの期待に応えられずに申し訳ないと言う感覚すら起こる。
「とにかく。」
一度止まった会話を元に戻す様に、カイルは一つ咳払いをするとそう言った。
「リーン、俺達の部室に来てみないか?立ち話もなんだし。メイもいいだろう?」
そのカイルの言葉に、メイは一つ頷くとこう言った。
「いいわ。見た所よさそうな子だし。」
これからの時間もメイといられる。その言葉にリーンは心の中で狂喜し、続けてこう言った。
「なら、あの、あたしの友達も呼んでいいですか?さっき、入学式の時にはぐれてしまって。」
リーンがそう告げると、メイは優しげな笑顔を見せてから、こう言った。
「いいわ。早めに連絡してあげて。」
小説版 South North Story ⑬
みのり「遅れてごめんなさい!第十三弾です!」
満「ちょっと出かけてた。投票に行って、その後アキバだ。」
みのり「レイジさんが『萌えが足りない~!』って叫んでました。」
満「・・あの野郎。」
みのり「まあまあ、とにかく、新キャラクター登場です!銀髪青眼の青年カイル♪」
満「カイル=カイトと考えてくれて構わないが、銀髪なのには理由がある。」
みのり「大体想像付くんじゃないのかなぁ?」
満「かもな。とにかく、次回にも期待してみてくれ。」
みのり「ということで、宜しくお願いします☆」
コメント1
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キノシタ
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ファントムP
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ご意見・ご感想
紗央
ご意見・ご感想
カイルww
かっけぇぇwww
変換ミスすれば蚊居るww
・・・すいません、、
メイさんの全てがツボなんですがどうしましょう・・。
萌えが足りない?
メイさんやリーンがでてるだけで立派な萌えだ^p^((
・・・すいません><
2010/07/11 18:57:40
レイジ
ちょwww蚊居るwww
そうだよな、蚊が五月蝿い季節になったもんな・・って違う^^;
メイちゃんツボですか。
メイちゃん・・(ト○ロの女の子見たいだ。)
結構自己妄想には限界があるのですよ・・。いや、他の作品からの萌え補給って重要だわ^^;
ということで、続きもお楽しみに☆
2010/07/11 19:18:36