53. 悪の娘、悪の召使
「この、無礼者!」
レンは、自分の声が凛と響いたことに満足した。
「……よかった。間にあった。」
……自分が、彼女の身代わりになれる間に、この国は変化を成し遂げた。
顔はいくら似ていても、もうじきレンの声は太い男の声に変わる。
兆候は出ていた。だから、レンは出来るだけリンに協力した。黄の国の変化を急がせたのだ。
緑の国との戦争にも同意した。女王ミクも、レンが自ら手を下して殺した。
たとえばリンがただひとりきりの女王だったなら、あのような無茶な暗殺計画はとらなかっただろう。傍らに、女王そっくりのレンが居たこと。この存在は大きかった。
自分の存在がリンをあおり、ミクを殺したのだと、レンは自覚していた。
「リン。いつか君は言ったね。自分は人として『悪』を為し、この国の王として実績を残す、と」
前王夫妻を殺し、国に尽くした諸侯を殺し、他国を侵略し、自国の民を煽り。
これを『悪』といわずになんと言おう。
しかし、これもすべて、黄の国の民の幸せのためなのだ。
強くなる周りの国に取り残されないように、多少無理をしてでも全速力で追いつく必要があった。そのためには、犠牲が必要だった。それが、この国の王子と王女の自分たちだった。それだけなのだと、レンは思う。
「リン。……僕のほうこそ、勝手なことをして、ごめんね。君が『悪』となる覚悟を決めたときから、僕も『悪』になろうと決めたんだ」
レンの目が、晴れやかに澄んで中庭の4つの盛り土を見やる。
「……君が女王なら、僕も王だ。
同じ血を持つ、この国で最後の、双子の王になるのだから」
レンの目が、迫力を持って踏み込んできた兵士たちに臨む。兵士たちが、若い女王の気迫に負けてたじろぐ。
「リン。僕もきみとともに、王の道を歩んだんだよ。……許してね」
そしてレンは、口を開いた。
「王たる者を縛りあげて歩かせるなど、無礼な真似はよして頂戴。
わたくしは自分で、あなたがたの示すところまで歩きます。……さあ。どこへ行けばよろしいのです?」
戸惑う兵士たちを割って、扉から人物が現れた。
「私がご案内いたします。女王陛下」
進み出たのは、赤き鎧をまとった、すらりとした立ち姿。茶色の髪を短く刈った、メイコその人だった。
……つづく!
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ご意見・ご感想
matatab1
ご意見・ご感想
リン、レン、二人ともお飾りなんかじゃない本当の王族だよ……。そしてレン、自覚をした上で行動していたなんて、本当にリンが大切なんだなと。
悪ノだから避けられないのは分かってはいましたが、二人が別れ別れになるシーンは読んでいて辛かったです。(良い意味で)
話は変わりますが、レンは『王女の召使』として行動するときは「僕」、『ただのレン』として行動するときは「俺」、と一人称の使い分けをしていますか? (逆だったらすみません)
青の国の話を読んでいた頃から、あれ? 何かレン呼び方変わってる? と少し気になっていました。
2011/02/06 17:05:59
wanita
>matatab1さま
メッセージありがとうございます!
レンの一人称、大当たりです!!まさにそのつもりで書いていました。
レンの『俺』が出るときは、感情が高ぶりどうしようもなくなって、自分の思いを相手にぶつけるときです。
小さな頃からずっと『僕』を使っている背景もあるので、普段の生活や穏やかな会話のときは『僕』ですが、『俺』を使うときは書き手もここぞ!!と思いをぶつけています。
きっと召使生活の中で、仕事外では『俺』を使い、自由に会話している同僚たちから学んだのでしょう。レンが『俺』を使うとき、それは全ての束縛を振り切り、自分の言葉を使おうと覚悟した、彼にとっては『とっておき』の言葉です。
リンにとっての『わたくし』と『あたし』も同じイメージでした。女王として意識したら『わたくし』。気安い者に対するときや、自由に振舞っているときは『あたし』です。
今回はリンちゃんにも本音でしゃべってもらいました。レンの思わぬ行動に引きずられ、女王の仮面がひさびさに落ちています。
リンはクソマジメですが、レンは激真面目ですので、「お飾りじゃない」というメッセージを頂くとすごく喜びそうです☆これから二人を民衆の海が飲み込みますが、その波に顔を上げて向っていく王族ふたりを、最後まで傲慢で潔く書こうと思うので、今後も見守っていただけたら嬉しいです。
2011/02/06 18:00:42