ベランダに干された洗濯物が風に吹かれ、空からは暖かい陽射しが降り注いでいた。
そんな静かな空間に、台所から聞こえてくる物音がやけに響くように聞こえる。


「ん~…うん、バッチリ♪」


味見を終えたリンは、鍋にかけていた火を止めてそれに蓋をした。
使った道具類は既に洗われているため、周りの汚れを拭き取るだけで片付けを終える。

掃除に洗濯、夕飯の準備も済ましたリンにとっては、暇な時間ができた。
少なくとも、五時過ぎまでは一人の時間である。


「…暇だなぁ」


どことなく、リンは寂しそうに呟く。
リンにとって愛しい彼が帰ってくるまでの時間は、とてつもなく長いものだから。

暫くすると、静寂を打ち消すようにインターホンが鳴り響く。
誰だろうと思いつつ玄関まで行き、ドアを開けば見慣れた来訪者がそこにはいた。


「リンちゃん、遊びにきたよ!」

「ミクちゃん!それにテトさんも!」

「久しぶりね、リンちゃん」


ミクとテトは、笑顔でリンに挨拶をする。
時間をもて余していたリンにとっては、嬉しい客人だった。


「立ち話もなんだし、早くあがって」


笑顔でそう促すリンの言葉に、「お邪魔します」と返して二人は家に入った。















「…で、二人して今日はどうしたの?」


リンは自らが用意した麦茶を一口飲んで、突然の訪問の意図を尋ねた。
ミクは持っていた鞄から一枚のCDを取り出し、それを差し出しながら答える。


「はい、借りてたCD。そろそろ返さなきゃと思ってね」


リンがそれを受け取るのを見ながら、ミクの隣に座っているテトが口を開く。


「私は用事を済ました後にミクちゃんと会って、そのまま一緒に来たってわけ」

そう言った後に、テトはコップを口に運ぶ。


「でもホント、久しぶだよね。テトさんとは、一ヶ月ぶり…になるかな?」

「…うん、それくらいになるね」


久々に会えたのがよほど嬉しかったのか、リンは嬉しそうな顔している。
その笑顔を見ていたテトも、つられて自然と笑みを浮かべていた。


「私とは一緒に買い物したよね…確か、先週だっけ?」

「うん土曜日のお昼から、洋服買いに行ったんだよね」

「あの時は、レンくんが色々ごねてたっけ」


「そうだったね」と、リンの口から小さく笑い声が漏れる。
その時の我儘を言う子供のような彼を思い出し、リンは笑いながらもどこか愛しく思えて。


「そのレンくんは、今日もお仕事?」


二人の話を聞いていたテトが、笑うリンに尋ねた。


「うん。早ければ、六時までには帰ってくると思う」

そう答えて時計を見れば、針は三時二十分を示している。
レンが帰ってくるまで約ニ時間もあることに、静かに溜め息を漏らす。


「待ち遠しいね、リンちゃん」


「…え?な、何が?」


笑いながらそう言ったミクに、リンは慌てて聞き返す。
ミクは顔をニヤニヤさせながら、言葉を向ける。


「だって顔に書いてるよ?『早く帰ってこないかな』、って」

「そ、そんな事ないもん!」


リンは僅かに顔を赤くさせながら、ミクの言葉を否定した。
そんなリンに、今度はテトから言葉を掛けられる。


「まあ、もどかしいって顔はしてるよね」

「もうっ!テトさんまで!!」


そうやってますます顔を赤くさせるリンの様子を、ミクとテトは楽しんで見ている様だった。
リン自身はからかわれている事に、ふてくされた顔をする。

しかしミク達が言ったように、リンは何処と無く落ち着かない様子だ。
その目線は時折時計に向けられ、時間を気にしているのが分かる。

そんなリンの行動が可愛くて、ミクの顔は緩みっぱなしだ。
自らもけしかけたとはいえ、テトはミクに呆れつつリンに提案した。


「電話してみたら?今の時間なら、休憩してるだろうし」

「え、でも…」


確かに今の時間なら、レンは休憩を取っているはずである。
しかしテト達を放って、リンがそれを出来るわけがなかった。


「私達の事は気にしなくていいよ、適当に寛いでいるから」

「そうそう。人の好意は、素直に受け取らないとね」

テトとミクは微笑みながら、リンに言う。
リンは少しだけ迷って、二人の優しさに甘える事にした。


「…ありがとう。じゃあ、ちょっと掛けてくるね」


片手で謝罪の意を示し、小走りでキッチンの奥へと行った。
そんなリンを見ながら、ミクがぽつりと呟く。


「…幸せそう。ホント、羨ましいなぁ…」


その発言を聞いたテトは、確認の意味を込めて尋ねる。


「どっちが?」

「もちろん、レンくんが」


その質問に対して、ミクは当たり前の様に即答する。
そんな彼女に、テトは苦笑するしかなかった。















*















リンはキッチンの隅で、手に持った携帯電話を開く。数回操作して履歴に映し出されたのは、自分と同じ苗字と愛しい彼の名前。


「聞くだけ…何時に帰れるか、聞くだけだもん」


自分に言い聞かせる様に呟き、通話ボタンを押す。
耳を当てて聞こえてくる電子音は、浮き立つ気持ちに拍車をかける。
それが止まった後に、耳に声が入ってきた。


『もしもし、どうしたのリン?』

「あ、レン?ごめん、仕事中だった?」


そんな些細なレンの言葉を耳にしただけで、リンの心に嬉しさが溢れた。
その喜びに浸りながら、リンは返事を待つ。


『大丈夫だよ、休憩中だったし』

「良かった~。…あ、今日は早く帰れそう?」

『それも大丈夫、今日も定時で帰れるよ』


リンは期待していた答えに、自然と笑顔になる。


「じゃあ、早く帰って来てね♪今日はカレーだから………ってぁああああっ!?」

『リン!どうしたの!?』


向こう側から焦りの混じったレンの声が聞こえるが、今のリンにそれを気にしている余裕はなかった。
自分の勘違いである事を願いながら、数時間前の行動を思い出す。
そしてそれが勘違いでないと確信し、静かに呟く。


「………福神漬け、買うのわすれたぁ…」

『………』


完璧にこなしたと思っていた分、リンにこのミスは思いの外ショックだった。
しかし向こうから声がない事に疑問を抱き、リンはレンに呼び掛ける。


「………レン?どうかした?」

『いや、何でもないよ』


どこか、苦笑したような声が返ってくる。
リンはレンの反応がよく分からず、キョトンとした表情を浮かべた。


『僕が帰りながら買ってくるよ、いつものスーパーでいいよね?』

「ごめんね…あ。でも、その…」


言葉を濁すと、レンから『どうしたの?』と聞かれる。
何度か言いかけて、それを小さな声で言葉にした。


「買わなくていいから………は、早く帰って来て欲しい…かな」


それを口にしたリンは、恥ずかしさから顔を限界まで真っ赤にする。

そんな自分の様子を、向こうにバレない事を祈りながら返事を待った。


『…わかった、早く帰るよ』

「…うん。お仕事、頑張ってね♪」


『じゃあね』とレンが言い残して、通話が切られる。
リンの顔は赤いままだったが、その表情は嬉しさで頬が緩んでいた。

顔の熱が引いたのを確認して、リンはミクとテトの元へと戻る。
戻ってみると、二人は既に帰り支度をしていた。


「あれ、もう帰っちゃうの?夕飯、食べてったらいいのに…」


リンは寂しそうにそう言うが、ミクとテトは笑いながら答えた。


「いや、二人の邪魔しちゃ悪いからね」

「もうすぐ帰ってくるのが分かったなら、もう寂しくないでしょ?」


二人の言葉にリンは頭を傾げて、すぐにその意味を理解する。


「………まさか、聞こえてたの?」

「うん。だって、キッチンすぐそこだし」


恐る恐る尋ねるリンに、ミクがすぐそこに見えるキッチンを指差しながら答える。
それにテトが、付け加えるように言葉を続ける。


「リンちゃん。相変わらずレンくん絡みだと、周りが見えなくなるよね」


「じゃあ、また今度ね」と言い残して、玄関に向かう二人。
リンはそれを見送る事もできず、ただ顔を赤くしてそこに立ち尽くすしかなかった。




















(寂しい時間も、アナタの言葉一つで)



ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【新婚みね】待つ寂しさ【音坂さん】

新婚ネタ第三弾!

と言っても、前回のリン視点になります(-∀-;)
個人的には、このくらいの甘さが書きやすいかもしれません^^*


今回はミクとテトさんがゲスト、人数が多くなると難しくなってきますね(汗)


とりあえず、書いててレンを殴りたk(ry

本家様:音坂さん(http://piapro.jp/otosaka) サイト(http://nanos.jp/keyring/)
第一弾→(http://piapro.jp/content/0374gnrboodsoeiv)
第二弾→(http://piapro.jp/content/kq060fuu86dubu0e)

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投稿日:2010/10/17 12:08:13

文字数:3,445文字

カテゴリ:小説

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