《――――――ギャギャギャギャギャギャッ!!!》





悲鳴のような摩擦音を立てながら、ネルフォンバイクがルカ達の元へと突っ込んできた。

停止すると共にネルがバイクの上から飛び降り、駆け寄ってくる。


「お待たせー!! ……ってあれ、ミクがぶっ倒れてると思って救急修理セット持ってきたのに……ってあれれれ!? ルカさん!? 元に戻っちゃったの!?」

「ダメなの!?」

「あ、いや駄目じゃないけど……まぁいいや、その辺の事情はあとで聞くわ。……メイコさん、ハクは?」

「さっきカイトが呼んだわ。でもおそらく……ゆっくり歩いてくるでしょうね。あの子体力消耗しちゃうとダメだから」

「そうね……仕方ない、先に始めちゃうか!!」


そう言うとしゃがみこんで、背中に背負ったバッグからパソコンを取り出した。

起動すると同時に、大地に金色の波導が広がっていく。


これが彼女の切り札―――――戦闘力を持たないネルは、その超常的な技術を以て作り上げたこの切り札で、皆の補佐役として―――――ヴォカロ町の裏方として戦うのだ。


その名も―――――――――――――――





『ネルネル・ネルネ・ネットワークっ……起動!!!』





パソコン下で金色の光が弾けたかと思うと―――――そこを中心に金色の線が伸び始めた。

金色の線は途中途中で大きな点を形成し、それを介して網の目のように繋がっていく。

やがてバトルフィールドのみならず―――――ヴォカロ町全体で、金色の光が迸り始めた。


「……よっし!! これでヴォカロ町のどこであっても、皆の戦闘力が向上するようになったわ!!」

「ありがとネル……!! これであの不届き者どもを殴り飛ばせるっ!!」


ルカの言葉にほんの少し顔を赤らめたネル。ふと我に返ったように立ち上がり、メイコに駆け寄った。


「それとメイコさん……これ!」

「え?」


ネルから受け取った包みを開いてみると―――――


「……これは!!」


それは―――――真っ赤な色をしたスタンドマイク。それもただの赤ではない―――――全てを焼き尽くしてしまいそうな焔を思い起こさせる紅だ。施された炎のような装飾も相俟って、まるでそこに燃え上がる炎の塊があるかのようだ。


「メイコさんの前歯の金属を溶かしこんだ上で再形成した、新しいスタンドマイクよ……!! 紅いボディはメイコさんのバイオメタルが生み出した天然の色……!! まさに燃え上がる闘志を表したかのような色が、勝手に浮き出てきたの!! こいつならどんなに反動を喰らっても打ち負けはしないわ……それどころかさらに鍛え上げられて強い音波を撃ち出す砲台となってくれる……!! 命名……『メテオスタンド』ってところかしら?」


メテオスタンド。隕石のように巨大な力。

はやる心を抑えながら、メイコはメテオスタンドを手に取った。


『―――――――――――――――――っ!!』


途端に全身の枷が外れたかのような高揚感がメイコを包んだ。

体中から湧き上がる力。今なら―――――誰にも負ける気がしない。


「……サンキュ、ネル!!」

「ん!」


嬉しそうにネルが笑った。


と、その時。


「メイコ姐!! あれ……船から何か降りてくるよ!!」

「何ですって?」


メイコが振り向くと―――――『破壊者』の艦艇のハッチが開き、そこから何か人影が降りてきていた。

奴等自ら決闘に来るのか。それとも何か新しいロボットでも開発したのか。



だが―――――降りてきた敵の姿を見て、全員の表情が驚愕に包まれた。



『なっ!!!?』



緑の髪。赤いゴーグル。アイドル風の衣装。





降りてきたのは―――――グミと全く同じ姿をした、少女ロボットだった。





「あ……あたし!?」

「そんな……どうして!?」


ミク達が混乱していると―――――さらに船の数か所でハッチが開いた。


次いでそこから降りてきたのは――――――――――がくぽ。いや、正確には『神威がくぽと全く同じ姿をした何者か』と言うべきか。

更に巨大な刀を背負いながら地上に降りてきた者がいた。―――――リリィと全く同じ姿、同じ大鉾を持った敵だ。

ひゅ、ひゅんと風を切ってルカ達の背後を取った小さな影。その姿はいろはと瓜二つだった。

唖然として周りを見るルカ達の頭上で、今度は緑色の光が次々に輝いた。

見上げると―――――巨大なドラゴンが何頭も飛来している。多少大きさは小さいものの―――――それはリュウトの『火竜変化音波』使用時の姿と同じだった。


「な……なんてこと……!!?」


ルカが呆然とつぶやく。



いつの間にか7人の周りは――――――――――数千体の『VOCALOID』で包囲されていた。


「どうして……がくぽやリリィがこんなにいるのよ!?」

「……そりゃあ……作ったんでしょうよ……でも問題はそれ『自体』じゃない……!!」


そう。大量の『VOCALOID』。別にVOCALOIDは唯一無二の存在であるわけではないのだから、作ってしまいさえすればその疑問は解決できる。


真の問題は……『いったいどうやってこれだけのボーカロイドをこの短期間で作り上げたのか』と言うことだ。


「……くっ、田山ぁっ!!? 答えなさい!! これは一体どういうことっ!!?」


ルカが声を荒げて空に向かって叫ぶと、《ブツン》とマイクの入る音がして船から声が響いてきた。


《どうした巡音ルカ、VOCALOIDが数多くいるのが不思議か?》

「そんなことじゃない……バイオメカは長期間の『熟成』が必要なはずよ!! それを経なければ実用には適さない……事実私達では40年、グミちゃん達でも10年近い期間を要したと聞いた!! その『熟成』を経ずして、いったいどうやってこれだけの数を作り上げたの!?」


生体金属『バイオメタル』を使用した『バイオメカ』の最大の特徴は、通常のメカにはない高い柔軟性だ。滑らかな機動を可能にさせるその柔軟性を手に入れるには、『熟成』と呼ばれる期間を経てバイオメタル自体の柔軟性を高める必要がある。この『熟成』を経ない場合バイオメタルは普通の金属よりも強い摩擦を持ちひどく脆い代物となりロクな使い物にならない。

つまりその熟成期間がなければバイオメカは決してまともに起動できないのだが―――――この熟成期間にひどく時間がかかる。単純なメカでも3か月、精巧な人間型ロボットともなれば10年単位で熟成しなければならないのだ。

しかし―――――周りにいるこのVOCALOID達。数千ものVOCALOIDを製作するには、相当な時間が必要なはずだった。


《くくく……そうかそうか、そういえば貴様らはそんな遅れた常識の下作られたのだったな》

「なんですって……!?」


田山の醜い笑い声が響いた。





《教えてやろう……こいつらこそは我々の研究の集大成!! 『量産型VOCALOID』よ!!!》





『量産型……ですって!!?』


耳に入ってきた言葉が信じられず、思わず鸚鵡返しに言葉を発するルカ。


《人間型ロボットのバイオメカの熟成になぜ10年単位の時間がかかるか教えてやろう。最新の研究では、『高い知能、高度な感情を持たせようとすると、その知能と感情を全身のメカに馴染ませるために長期間の熟成が必要となる』という報告が数多くあるのだ。そこでだ……我々はその報告が正しいものか判断するために――――――》




《ボーカロイドのAIから『知能』と『感情』を消し去り、『戦闘本能』のみをインプットさせたのだ》




『なぁっ!!!!?』


全員から驚愕の声が上がる。感情を消し去る。人間に近づいた人間型ロボットにとって、それがどれほど恐ろしい事か。彼女たちはよくわかっていた。


《実験は成功だった……! 試作した『量産型』の神威がくぽは、僅か1か月と言う短い熟成期間にも拘らず、完璧な挙動を示したのだ!! その技術を応用して作成したのがこいつらだ……作成期間は従来の120分の1にも拘らず性能は全く変わらない!! ……どうしたそんな顔をして。元々感情を持っていなかったVOCALOIDだ、感情を奪うことに何か問題があるのか?》

「ふ……っざけるな!! 私達はただのロボットじゃない!! 歌を……想いを伝えるために生まれてきたのよ!! 感情を持たないVOCALOIDが、VOCALOIDと言えるとでも―――――」


「ルカさん、落ち着いて。奴らの言うことにも一理あるよ」

「ネルっ!!?」


怒りが頂点に達したルカに、ネルが意外な言葉をかけた。


「もともとVOCALOIDはただのPCソフト。あたし達に感情を吹き込むのはあくまで作り手。あたし達が感情を持つ必要性は本来存在しないのよ」

「なっ……!?」


絶句するルカと、低く響く醜い笑い声。


だが――――――――――そこでネルの目つきが鋭く変わった。


「だけどそれはあくまで作り手が感情を吹き込む気持ちがある時のみ!! 感情を吹き込む気もない奴等に感情を奪う権利などない……!! 何より……あたしのマスターの作った人工知能を……愚弄してんじゃないわよっっっっ!!!!!!!」


咆えたネルがエンターキーを力強く叩くと同時に、船の真下にある金色の縁から、一条の光線が迸った。

船のバリアにぶち当たり、スパークを放つ。


《フン!! ほざくがいいさ!! ……さぁ、行け量産型!! 奴等を根絶やしにしてしまうがいいっっ!!!》


田山の言葉が引き金になるかのように―――――それまで棒立ちだった『量産型VOCALOID』が瞬時に臨戦態勢をとった。

それと同時に、ルカ達も構えを取る。










地獄のような戦いの――――――――――幕開けとなった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

SOUND WARS!! Ⅱ~量産されたDIVA《戦闘員》~

最初の敵は―――――かつての強敵たち。
こんにちはTurndogです。

一度はグミを殺したがくぽ。
マスターノートを破り捨てる寸前まで皆を追い詰めたリリィ。
散々引っ掻き回してくれたいろは。
町をも焼き尽くさんばかりの勢いで暴れたリュウト。
そしてここまでずっと共に戦ってきてくれた―――――グミ。

それらの『量産型』が、最初の敵。
皆の胸中や、如何に。

―――――もしくは、目覚めた力を振るえるその瞬間を、うずうずしながら待ってるかもしれませんねww
主に赤い人とか。


因みにネルちゃんはこういう裏方に徹した時最強の力を発揮します。
わかりやすい例えで行くと、ポケモンセンターを背負って戦ってるポケモントレーナーに等しい←
腕が肩から千切れ飛んだぐらいの損傷であれば、三秒で治せますからね(チート乙

閲覧数:204

投稿日:2014/12/12 21:52:58

文字数:4,103文字

カテゴリ:小説

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