タグ「鏡音リン」のついた投稿作品一覧(39)
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この作品は、以前書いた、カフェの話の番外編的な話です。
一連のカフェを舞台にした話を読んでいないと、ちょっと分かりにくいかもしれません。
それでも良いよ。または、読んだことあるよ。という方は前のバージョンからどうぞ。
Cafe・トリックオアトリート
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「ねえ、レンはあげはの事をどう思う?」
昼間の話。梅酒造りの最中に横でとぽとぽと焼酎を瓶に注いでいるレンにリンがそう訊ねてみたら、レンは手を止めないままで嫌そうに顔をしかめていた。
「なんだよ。だからそのネタはもう飽きた。」
そうため息交じりの言葉に、ネタじゃなくて。とリンは苦笑しながら言った。...梅酒の造りかた・10
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酔っ払ってソファに寝かされたあげはは赤い顔で、うう。とうなっている。あついのか気持ち悪いのか、だるそうに目を閉じていた。
いつかと同じだな。とリンはその様子を録音室の大きな画面からレンと一緒に並んで眺めていた。あげはの様子を見るために、家に戻ってこない双子のために、とおやつと飲み物が先ほどメイコ...梅酒の造りかた・9
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しばらくしてタロウが、なにやら布にくるまれたものを抱え小さなグラスをその手に持って、画面の前に戻ってきた。
「むかしにばあちゃんが漬けた梅酒だよ。」
そう言ってタロウは包みを解いた。
小さめの広口瓶には琥珀色の液体が入っていた。そしてその底には緑色だったはずの梅が濃い琥珀色に染まり、柔らかそう...梅酒の造りかた・8
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梅酒の瓶を台所の作業台の下にしまい、梅酒造りはあと3ヶ月待つばかりとなった。一息つこうと大人組がお茶の用意を始め、リンとレンが画面を元の録音室に戻していると、ただいまあ。と聞きなれた声が外からかかった。
だれだろう。とリンはスリープモードにしてあったパソコンを起動させた。ヴン、と電気が通る音が耳...梅酒の造りかた・7
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おしゃべりをしながら手を動かしていると、気がついた頃には作業は終わっているもので。ころん。と最後の一つのへたを取り、リンは、うん。と大きく伸びをした。ずっと同じ姿勢で作業をしていたためか、肩の辺りが重い。こきこきと首を鳴らしていると、みんなお疲れ様。と掃除を終えたカイトが台所にやってきた。
「もう...梅酒の造りかた・6
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「その、あげはちゃんにからんできた子って、男の子?」
くすくすと笑いながらマスターがそう言った。その言葉に、あげはが、こくん。と頷いた。
「そう、男の子です。」
そうあげはが言うと、マスターの笑みが深くなった。
「きっとその子はあげはちゃんが好きなのよ。」
そう面白がるようにマスターは言う。しかし、...梅酒の造りかた・5
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程なくして作業に慣れてくると、この単調作業の合間を縫っておしゃべりの花が咲き始めた。最近の天気の話であったり、体調の話であったり、ピアノの調律の話であったり。取り留めなく話は小さく大きく咲いてゆく。皆で話すこともあれば、隣同士でぼそぼそと小さく盛り上がったりもした。
リンががくぽと、その髪の毛は...梅酒の造りかた・4
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「梅酒を造ってみたいって言ったのはリンだろ。」
一気にやる気がうせて作業速度が遅くなったリンに、危なっかしい手つきでへたを取りながらレンがとげとげしい口調で言った。その言葉に、なによう。とリンは言い返した。
「レンだって、おれもやってみたい。って言ったくせに。」
「そりゃあだってさ、そんな3ヶ月もか...梅酒の造りかた・3
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ほんのりと黄みがかった緑色の梅の実と、鉱石のような透明な氷砂糖と普通の砂糖、焼酎。それに大きな瓶。それらが画面の向こうの、磨き上げられた古いテーブルの上に並んでいた。そして同じものがリン達のいるキッチンの作業台の上にも用意されている。
いつもの大きなパソコンにノート型のパソコンを繋げてマスターは...梅酒の造りかた・2
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梅酒の造り方。
梅を洗ってその水気をよくふき取る。
へたを楊枝などで取る。
殺菌した大きな瓶に梅と氷砂糖を交互に入れていく。
焼酎を注いでふたを閉めて冷暗所にて保存。
「これで3ヵ月後くらいには梅酒が出来上がります。」
そう画面の向こうでマスターが厳かに告げた。リンは、そんな3ヶ月だなんて...Master 梅酒の造りかた・1
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「わたしが、あげはの名を呼ぶよ。」
いい事を思いついたような調子で明るいリンの声が、不意にパソコンの中から響いてきた。
「あげはのママが呼べないんだったら、わたしがあげはの事を呼ぶ。それじゃあ駄目?」
そう朗らかに言う。この状況下では能天気に思えるほど明るいその声に、ふらりと立ち上がってあげはは、パ...たとえば、の話・16
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ふざけんな。と低い声が響いた。
誰の声か。と驚き、あげはがその声の主に目をやると、そう言ったのはタロウだった。今まで少し離れた場所で見守っていたはずのタロウが低い声で悔しげに表情をゆがませて、あげはの母親を睨みつけていた。
「ふざけんな。あんたの娘は、あんたの傍にいたいって、言ってたんだ。自分が...たとえば、の話・15
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タロウとともにおばあさんの家に戻ると、おばあさんと母親と共に、きちんとした感じの妙齢の女の人があげはを待っていた。
あ、この人はじどうそうだんじょの人だ。そう、あげははひと目で気がついた。この女の人とは面識はないけれど、同じ雰囲気の人には何度も会っていたから分かる。いろいろと話をして、これが一番...たとえば、の話・14
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まだわたしが物心つくかつかないかの頃、気がついたらパパがいなくなっていた。単純に仕事で遠くに行ってしまったのか、何かがあって死んでしまったのか、ママと離れることに決めたのか。理由は知らない。ママは教えてくれなかったから。
そしてママはわたしのことをパパの名前で呼ぶようになった。
草一、傍にいて...たとえば、の話・13
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「私、本当は、あんたのこと羨ましかったんだよ。レンに可愛い。なんて言われて、凄く羨ましかった。なのに、なんでそんな不細工な顔してるわけ。こんなの、腹がたつし、凄く悔しい。」
「え、嘘だ。」
吃驚した勢いで、嘘だ。とつぶやいてしまったあげはにリンが、嘘じゃない。と更に声を荒げた。
「こんなことで嘘つく...たとえば、の話・12
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俺はばあちゃんの孫ね。と歌を歌っていた男の人、タロウは笑顔でそう言った。
「ばあちゃんに頼まれたんだ。あげはちゃんって女の子を探せって。だけど俺、君の顔知らないだろ?一応リンを連れてきたけれど、ひとりひとり確認するのは面倒だなって思ってさ、歌ってみた。」
そう朗らかに言うタロウに、あげはは、別に...たとえば、の話・11
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ぼんやりとした面持ちで、あげはは駅前のロータリに設置されていたベンチに座っていた。夜の闇迫るこの時間、公園などに一人でいるのは奇妙に目立つ。その点、駅前ならば丁度ラッシュの時間でもあるからあまり目立たずにすむ。そう考えての行動だったが、どうやら正解だったようだ。
仕事が終わった学校帰り今暇これか...たとえば、の話・10
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「ママ。おかえり。」
息苦しさを覚えながらも、あげはがなんとかそう言うと、母親はただいま。と微笑んであげはの横に立ち、こんにちは。とおばあさんに挨拶をした。
「ええと、草一が何か、、、。」
迷惑でもかけただろうか、と心配そうに眉をひそめる母親に、おばあさんが、違いますよ。と穏やかに首を振った。
「お...たとえば、の話・9
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リンやレンの歌だけでなく、ミクの歌や彼らの姉であるメイコの歌を聴いたり、兄のカイトの今練習中だという曲を聴かせてもらったりしているうちに、時が過ぎ、ふと見上げた空には東から夕闇が迫っていた。
楽しい時間は長ければ長いだけ、終わってしまう瞬間が寂しい。もう家に帰らなくてはいけない時間を示す時計を見...たとえば、の話・8
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留守にしていて締め切っていた部屋の空気を入れ替えるべく、おばあさんが窓を開けていく。それをあげはも手伝っていると、ブン。と鈍い電子音が響き、勝手にパソコンが起動した。
「おかえりー、マスター。」
驚くあげはの目の前でパソコンの中、画面の向こう側に長い髪を二つに結った、あげはよりも年上の可愛らしい女...たとえば、の話・7
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数日後の帰り道、あげははいつもの通学路を歩いていた。太陽の光が日に日に強くなって袖から伸びた肌を焼く。かたかたとランドセルの中で筆箱の揺れる音が、歩くスピードと同調して響く。
角を曲がってすぐ塀からはみ出た庭木がつくる木陰に差し掛かったとき、あげはは、つと迷うように歩を緩めた。かたかた、かたん。...たとえば、の話・6
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誰もいない家に、おばあさんは心配して一緒にいようか。と言ってくれたが、あげはは今度も、大丈夫です。と首を横に振り、ひとり、母親が帰るのを待った。どんなに優しい人であってもむしろ優しいひとこそ、かかわりあってはいけない気がした。
家にたどり着いてほっとしたのだろうか。急激に体温が上がるのを感じた。...たとえば、の話・5
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その言葉に少女が頷くと、おばあさんは微笑みながらそっと少女の手をとり背中を支え、再びソファに座らせてくれた。
そのさらりとしわだらけのあたたかな指先が心地よい。導かれるままに古いソファに腰を下ろすと、じんわりと発熱からくるだるさが少女を襲ってきた。自分が思っている以上に体は辛いみたいだ。と背もた...たとえば、の話・4
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少女が目を覚ますと知らない天井が目に入った。
茶色い木の天井。肌に触れるのはさらさらと少し硬い、洗い立てのタオルケットの感触。頭の下にはふかふかのクッション、寝かされていたのは布張りのソファ。そこは見知らぬ古い家だった。古いピアノ。あめ色に磨きこまれた板張りの床、使い込まれて少し毛足の短い敷物。...たとえば、の話・3
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その日、朝起きたときのだるさは風邪の前兆だったようで、ずっと少女を蝕み続た。結局三時限目の終わり、熱を出してしまい、少女は学校を早退した。
のろのろと、いつもだったら自分と同じ年頃の子供でごった返している、けれど今は人気のない昼前の通学路を少女は一人きりで歩いていた。初夏の、澄み切った濃い青空に...たとえば、の話・2
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たとえば、もしものはなし。
今、自分のいる場所とは異なる、この地球上に存在しないかもしれない、別の次元の場所では、わたしはただ一人きりで生きているかもしれない。
まだ子供だけど大人のように、誰の手も借りずに一人きりであちこちを放浪しているのだ。自分ひとりで生きていけるのだから、きっと人を傷つけ...Master・たとえば、の話・1
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―R・ある眠っていたロボットの話―
記録の蓄積、整理。ヒトの頭脳はこの作業をしているとき、夢を見ているのだという。では、今、この瞬間、ワタシが視ているものはユメというべきものなのだろうか。
白く靄のかかった空間の中で、リンは幾多も積みあがっている引き出し中から近くにあった一つに手を触れた。瞬間、...―R・ある眠っていたロボットの話―~ココロ~
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お昼は予想通りの繁盛を見せて、森はスタッフの女の子と一緒にひたすら食事を作るべく、フライパンを振りサラダを盛り付けて包丁でカットする。ホールも鳥海だけでなくアルバイトのミクがやってきて、いそがしくも楽しく働いた。
お昼の喧騒が一段楽した頃、近所の和菓子屋さんの双子がやっ てきた。今度こそ食事を食...ロータス・イーター 2
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外に出ると、オレンジ色の夕焼けが西の空を染め上げていた。反対側の東の空は既に暗く藍色の夜空へ塗り替えられている。路面に面した店はオレンジ色の灯りを点けて、夜に向けてざわざわと活気を見せている。人々がにぎやかに交差する通りを二人は並んで家に向かって歩いていた。
「それにしても良かったな。店長が良い人...鏡音和菓子店・4~下剋上(完)~
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