…?あれ?」
「弾が出ない?」
「ハク、どういう事だよ!」
「さっきまでのテトは死んだ。今から新しいテトだ。誰の下でもギルドのトップでも無いギルド、『ピースフリー』の一員。皆平等のな…」
「ハク…。でも一体どうして?」
「さっきまで命について説いてた者が簡単に人の命を奪う訳ないじゃないですか?だからわざと残り一発だったリボルバーを床に撃って渡したんですよ」
「そう…。ハクに助けられちゃったね。ありがとう…」
「テトさん…」
「ルコ、リツ、僕は敬語で呼ばれる身分じゃないよ…。皆と同じさ」
ゆっくりと立ち上がるテトはルコの差し伸べる手を取り、涙を拭ってルコやリツに笑いかけた。
「て、テト…?何か言いづらいな。やっぱり今まで通りに行きます」
「ちょっ…ちょっと。止めてくれないか」
「身分は一緒になっても私はテト様を尊敬していますから今まで通りで行きますわ。それに敬語は年上を敬いながら話す言葉ですわ」
「そういう事です。テトさん、また俺達でギルドをやり直しましょう」
「あぁ…。ありがとう」
「ハク、さっきネルとは家族みたいな事言ってたけど、本当なのか?」
「ネルはあの大戦で両親を亡くしたらしくて、孤児だった所をアタシが引き取ったんです。寒い雪の中で路地裏で凍えてる彼女を放っておけなくて…」
「だから賞金稼ぎしてたの?」
「確かにそれもありますけど、アタシの稼いだお金は孤児院に寄付しています。家ではネルを見るのが精一杯ですので、少しでも孤児院のタシになれば良いのだけれど…」
「ハク姉、凄い!尊敬するわ」
「ありがとう、でもあの子ったら孤児だった時から人見知りだったんですよ。この仕事があの子の初の仕事なの、だから心配で心配で…」
「なんかお姉さんって言うかお母さんみたいだね」
「ハク、貴女は本当に優しいのね。私と言い、ネルと言い、いったいどれだけの人を助けたら気が済むの?」
ルカは少し嫌味な言い方をするとハクはアハハと笑って少し沈黙が続いた。
その沈黙を切り裂くように勢いよく扉が開き、傷だらけの女の子が息を切らしながら入って来た。
その姿を見るとハクは一目散に駆け寄った。
「ね、ネルっ?貴女いったいどうしたの?」
駆け寄るハクとテト達。ハクはネルを椅子に座らして水を差し出した。
ネルは水を一気に飲むと慌てた様子で状況を伝える。
「ネル、落ち着いて。深呼吸してからゆっくり喋ってごらん?」
「ね、義姉さん…大変だよ。神威が…神威が戦争を起こそうとしている」
「いったいどういう事?」
「テトさん。詳しくは解らないですけど、神威は復讐の為に、そして世界をまた壊すつもりなんです!」
「いったい何の為に?」
「復讐はたぶんアタシにだと思います…」
「ハクに復讐だとしても何も大規模な事しなくても良いじゃねえか!」
「もう、大切な人を失いたくないわ。ハクもこの世界も守ってみせるわ!」
「カイト、皆、神威を撃退するぞ。激しい戦いになるかもしれないがやってくれるか?」
カイトは親指を立てて頷いた。
「当たり前だ!これ以上犠牲を増やさない為にも、そしてハクを守るために戦うよ。な、皆?」
頷く仲間たち。
「えぇ、当たり前じゃない。理不尽な理由で血が流れるのはゴメンだわ」
「皆、待って。神威を撃退するのは正直無理だと思う」
「ネル、どういう意味?」
「義姉さん、デル義兄さんが相手側に居ても戦えますか?」
「っ!兄さんが?兄さんは二年前に死んだはずよ?」
「神威本人も死んだはずだよね?でも死んだはずの人間が敵側にいるのよ!理由は解らないけど…」
「ネル?他にはどんな人が居たの?」
「ディーバ姫?どうして此処に?」
「そんな事はどうでもいいわ。目立つ人物は他に誰か居たの?」
「私が得た情報では…義兄さん、拳聖メイコ、王都グローリーの親衛隊隊長だった氷山キヨテルが居ました。でもいずれも亡くなった人ばかりで皆記憶が無いようです」
その言葉に過剰に反応するカイト。
「記憶が無い…。俺と同じ?」
「カイトの記憶の手がかりが掴めるかもしれないね」
「それと、もうひとつ情報があるの。神威は密かに巨大な兵器を作ってるようで、開発者はあのグミ博士…」
その名前を聞くとルコは壁を強く殴りだした。
「神威め!絶対俺達を挑発してやがる!よりによって皆の縁者ばかり仲間にしやがって!」
「落ち着け、ルコ。なぁ?ネル、兵器が開発するまで奴は動かないと思うか?」
「動かないと言う保障はないですが、たぶん兵器が開発次第、一気に攻めてくると思う」
「緊急召集だ、全員会議室に行くぞ!ルコとリツは他の国やギルドと連携を取れ!急げ!このままだと《1stBrake》…いや、《2ndBrake》になるよ」
「カイト、私達も会議室に行こう」
「あぁ」
「会議室は階段を上がって突き当たりにありますわ。先に行っててください」
「解った」
会議室に着くと誰も居ない、カイト達が一番乗りのようだ。
「テトさん達が来るまで私達も待ってようか」
「あぁ」
「カイトさん、さっきから様子がおかしいですよ?どうかしましたか?」
「ネル、さっき死んだはずの人間が蘇ってるって言ったよな?」
「言ったけどそれがどうかしたの?」
「しかも全員記憶が無いんだろ?」
「そうだけど、いったいどうしたのよ?」
ネルもカイトの異変に気付いた。
カイトは深いため息をついて重い口を開いた。
「俺も本当は死んでるんじゃないかって思っちまって…」
「カイト!冗談は止めてよ。カイトはカイトでしょ?死んでるかもなんて縁起でもないこと言わないで!」
「そうですわ。何も気にする事はありませんわ」
「でもよ…。生き返ったあいつらを倒したらどうなるんだ?消えちまうのか?」
「それは解らないですけど…。元々死んでるんだからそれが普通なんじゃないんですか?」
「私もそう思う。そりゃ義兄さんの格好してたら少し躊躇うけどさ、あれは人形みたいなものだから多少は気が楽かな」
「カイトは自分が消えそうで怖いの?」
震えるような声でカイトは小さくうんと答えた。
その後に震える脚をバンと叩き、言った。
「それもあるよ。でも1番怖いのは記憶が戻る事なんだ」
「記憶が戻るのは嬉しい事じゃあないの?」
「前はそう思ってた。でもミク達に出会ってから俺は色んな事を知った。この生活に慣れてしまったせいで、記憶が戻った時にまたお前らと一緒に居られるかどうか…」
「カイト…」
「カイトさん。アタシ達がどんな人だろうと関係ないって言ったのはカイトさんじゃないですか?その言葉そっくりそのまま返しますよ」
「そうだよ。どんなカイトでも私は受け入れるわ。だってカイトはカイトでしょ?」
「そんなに不安なら私達の…仲間の証を作ったらどうかしら?」
「仲間の証…」
「でも、仲間の証って何するの?」
「お揃いのが良いな」
「アタシもミクちゃんと一緒で何かお揃いのが良いです」」
「となると…。キーホルダーみたいなのはどう?私達のシンボルみたいなキーホルダーを身につけるってのは良い考えだと思うわ」
「私達のシンボル…?うーん」
皆が考える最中に急に後ろから声がした。
「僕達のギルドマークを使ったら?」
「うおっ。テト?いつの間に?」
「普通に入って来たけど、皆気づいてなかったんだよ!」
「悪ぃ悪ぃ、全然きづいてなかったわ」
謝るカイトの肩をポンと叩きルコとリツが入ってきた。
「テトさん、それじゃカイト達をギルドに入れるんですか?」
「私達は別に構わないけど、カイト君達がどう思うかですわ」
「確かに俺達に居場所はねぇし、拠点となる場所も欲しいよな?でも、ギルドと言ってもあまり何する場所か解んねぇんだけどな」
「テトさん。アタシ達がギルドに加入した場合、仕事とかはどうなります?」
「基本は自由にしてくれたら良いよ。僕達も新しくやり直そうって決めたばかりだからギルドの基本的な仕事を除けば強制的にする事はないよ」
「皆はどう思う?やっぱり入った方が良いと思うか?」
「私はカイトが決める事に文句は言わないよ。少なくとも私はね」
「私達のリーダーはカイトですもの。カイトに着いていくわ」
「私は元々此処の人間だけど、カイトなら大歓迎だよ」
「アタシもカイト君が決める事に文句はないです。此処に居る人達は皆カイト君を信用していますから」
「皆…」
「そうだね。やり直すに良い機会だしカイトが入るならリーダーはカイトで良いと思うよ」
「テトさんが不向きって訳じゃないが、俺もカイトなら文句はねぇ」
「私もルコと同じですわ」
「アハハ…。そこまで言われたら入るしかねぇな。よし!皆、新生『ピースフリー』の誕生だ!」
「おー」
カイトの掛け声で全員が天に向かって腕をかざした。
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また、彼女も僕らを愛してはいけなかった。
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