朝からキッチンがにぎやかだ。


伸びやかな高音に、室内だからか控えめなビブラート。
メイコの気軽な歌声を、近くで聞けるこのリビングはどんなスタジオよりも贅沢な場所かもしれない。

選曲はバラバラで、最新曲が続いたと思ったら随分と懐かしいものを歌ったりもしていた。
中には俺とのデュエットもある。もちろんある。
そこはやはり応えねば、とは思うのだけれど。
メイコがそれを自然に口ずさむのが嬉しいやらむず痒いやらで、なんてことない顔で一緒に歌うのに苦労する。ああもう。
赤いエプロンで楽しそうにキッチンで歌うメイコ、それだけで俺の朝は最高で最強に幸せ。
そこにデュエットまでトッピングされたら、もう、なんだ。
この幸福を何に感謝したらいいんだ。まったく、朝からにぎやかだ。


そして部屋全部に広がる甘い甘い香り。メイコ自身から香ってくるような、蠱惑の芳香だがさすがにそれはない。
これはメイコの手元でとろけるチョコレートの匂いだった。


いっぱいお祝いしてもらったから。
彼女はそう言って、朝からチョコレートを溶かしている。


先日の誕生日。
仕事先で出会う人、出会う人とにかくみんなから祝いの品を送られていた。
たまたま、本当に、仕事でたまたま、一緒にいた俺が驚くほどで、もちろんそれだけ大量の贈り物をメイコ1人で持ちきれるわけもなく。
自然、俺が抱えて歩くことになった。

面白くない、と思ったのも事実だ。
だって送り主の大半は野郎。でれっとした顔して、半年前から選んであったとか何とか言って、何だよ香水って。メイコはな、何も付けなくても最高の匂いがするだろうが。
まあまあね、その匂いは俺が独占しちゃってますからね。そこは申し訳ないけどね。

それにしても予感的中だった。こんな日に1人で歩かせるわけにはいかなかった。


だけど、どんなプレゼントにもメイコは心から喜び、微笑み、言うんだ。嬉しいって。
メイコが嬉しいなら、俺も嬉しい。彼女が笑うと自然と俺の顔も緩む。いつだってそうなんだ。
そういうバッチ回路でもあるんじゃないかと疑ったこともあった。


そして。
山と積まれた贈り物に対して、メイコはお返しがしたいと、けなげに腕をまくった。
それが今朝のこの情景に繋がる。

「ね、カイト味見してー」


メイコが彼女らしいシンプルなエプロンを翻して、こちらにとろけたチョコを運んできた。
そして自然な動作で、スプーンをこちらに差し出す。
あの、めーちゃんそれ、所謂「あーん」なんですけれども。

どっちを味見して欲しいの?なんてアホなお約束は、メイコには通じないし、通じたところでぶっ飛ばされるだけなので、とりあえず我慢。

黙ってスプーンに口を付けた。
暖かいカカオの味、それから、


「…ブフッ…!!」

「えっ」

「…ッ、ちょ、げほっ、め、ちゃん…」

「え、なに?どうしたの?」

「なに、いれたの」

「何って、ああ、ラム?」


ああ、どうりで。
この焼けるような刺激はラム酒の王道、バカルディのものだね。
チョコレートの甘さを完全に駆逐し、喉に直接突き刺さる乱暴な酒気にくらくらするよ。
いやいやいやいや。


「…どんだけいれたの」

「そこそこ、適当に」


きょとんとしたメイコの目。
いくら酒好きとはいえ、これは。
というか、お菓子に入れるラム酒って何かそれ用のがあったよなあ。
ガチのラム酒をストレートで、そこそこ適当に、入れるべきでないことくらいは俺にもわかった。


「えー?」

言うが早いか、メイコがスプーンに残ったチョコレートをぺろりと舐めた。
さすがに自分で食べたら気がつくか。


「…こんなもんじゃない?」

えええええ。

「めーちゃん、舌やられてるからそれ。酒飲み過ぎて麻痺しちゃってるんじゃないの?」

「なによう、だって何も味しないとつまんないから」

「ミクやリンレンには早いって!」

「あの子たちのには入れないわよ」

「他の野郎ども酔わせてどーすんの!!」

「…は?」


しまった。間違えた。

これは、完全に言わなくていい一言だった。
喉の火照りのせいだと思いたい。。

こんな、余裕のなくてみっともないヤキモチ、カッコ悪すぎる。
あああ、耳が熱い。ラムのせいだ。こんなチョコ作るメイコのせいだ。


「……」


やばい。沈黙が痛い。

俺はごまかすように、メイコが抱えるボウルを取り上げた。
中には黒々としたチョコレート、たっぷりラム酒入り。


メイコの誕生日をたくさんの人が祝ってくれた。
それにちゃんと応えようとするメイコ。
どちらも、とても素敵な光景なんだ。
だけど嬉しい気持ちと、勝手な嫉妬がぐるぐると回る。

ああ、そう。ちょうどこんな感じ。
手元のチョコレートをスプーンでくるりと混ぜる。
甘いチョコレートに、苦い酒。今の俺は酒がちょっと多い。

…バカか。
何がメイコのせいだよ。違うよ。わかってるよ。
俺が、バカなだけだよ。


「…カイト?」


遠慮がちにかけられた声に、腹の底あたりがざわついた。
ごめんね、めーちゃん。

ライセンス

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  • この作品を改変しないで下さい

ラムひとしずく(カイメイ小説)

めーちゃんチョコが予想以上に美味しくて、いろいろ妄想してるうちにカイトさんがどんどん酔っぱらいました。
2ページ、前バージョンで続きです

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閲覧数:761

投稿日:2012/11/24 17:11:54

文字数:2,117文字

カテゴリ:小説

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