非日常は、案外すぐ傍に

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「すまない、迷惑をかけた」
 学園長が失踪してから十日経ったある日。失踪した本人である学園長は、突然帰ってきた。現在は学園長室にいる。
「何も言わずに、十日間もどこに行ってたんですか!」
「いつものことですが、そろそろいい加減にしてくださいよ……」
 今ここには、七人の人間がいる。
 静かに椅子に座っている学園長。ため息をついている始音先生。腕を組み、背中を壁に預けている神威先生。古い一冊の本を手に持つリンさん。不機嫌そうなレン君。不安そうなメイコ。そして、私だ。
「……そろそろ、話さなければいけないと思っていた」
「え?」
「私の過去だ。皆、気になっているだろう」
 確かに、学園長にはいろいろ謎がある。まず、彼女は『天才』と呼ばれる人間だ。それに、現在の年齢は二十一歳と聞いた。学校という組織のトップに収まるにはあまりにも若すぎる。あと神出鬼没。
「一応、ここにいる皆には、今から話す……」
 そして突然だった。唐突に何かを始める人間なのだ、彼女は。



 何年も前の話。
 とある学校で起きた、とある事件がある。その出来事は、八人の生徒を犠牲にし、その学校を廃校に追いやった。事件の名は……『音無事件』。
 事件の二年後、一人の母親が生まれたばかりの赤子を捨てた。捨てられた赤子は、とある研究所に拾われ、育てられた。その赤子が、私だった。
 成長した私は、他人よりもたくさんのことが理解できる力を持っていた。周りの大人は私を『天才』と呼んだ。そして、実験台にされた。そう、彼等の人形にされたのだ。

 十五歳のある日、私は『知りたくなかったこと』を知った。過去に起きた『音無事件』の真実を知った。その犠牲者の中には、この研究所で実験台にされた二人の少女もいた。
 一人は天才。全てを『完璧』にこなした少女。あだ名は「ミク」。
 一人は凡人。周りの期待に応えられなかった少女。あだ名は「グミ」。
 「ミク」は普通に憧れ、「グミ」は天才に憧れた。二人は仲が良くて、星に願った。でも……殺された。この研究所に、この組織に。
 私は、その二人の少女みたいに殺されてしまうのではないか……そう考えると、とても怖かった。もう、育ててもらった恩さえ感じなかった。私は、逃げ出した。

 今までまともに暮らせなかったけど、ようやく『自由』を手にした。とりあえず一年間は大学で過ごし、教師になる道を選んだ。でも、どういう訳か教師が全員いなくなった学校に、学園長として放り込まれた。面倒な案件に割り振られたのは、いわゆる厄介払いだったのだろうか。それがここ、『緩香(ゆるか)学園』である。
 そして私はいろいろなことをやって、この学校を建て直した。しばらくは追手も来なかったし、いろいろやりたかったこともできた。
 そして、様々な真実も知った。この学園は、『音無事件』で廃校した中学校の、その後の姿ということも。私が来たことにより、この学園は“異常”と呼ばれる教師達を隔離するための場所になったということも。



「……」
 いろいろな意味で衝撃的だった。あと、ちょっと意味不明。間の説明がところどころ抜け落ちているような感覚を受けた。
「えーと……つまり、どういうことですかね?」
 メイコが口を開く。
「つまり、私は逃げてきたからここにいる、ということだ」
「じゃあ、この間失踪したのは?」
「うん。追手が来たんだよね。一回国外に逃げたんだけど、もー大変でさ」
「それで、追手は?」
「ああ、海で魚の餌にしてきた」
 いろんな意味で怖い。多分、最後のは冗談ですよね? そんなの、任侠モノでしか聞かないセリフだと思っていたよ。
「学園長、一ついいですか?」
「ほい」
「右手首の傷は、どこで……?」
「ああ、逃げ出したときに、あっちの人間にね。こう、スパーってやられて、うわーってなって、ドーンでパーンでギャーンになって大変だったのよ」
 鏡音さんの問いに、学園長が答える。でも、つまりどういうことですか。ギャーンってなんですか。言ってることはよくわかりませんけど、そのとき右手が使えなくなったから今左利きなんですか。
「その通りだよ?」
「心を読まないでくださいよ!」
 でも、これで一つわかったことがある。生まれ変わりは、学園長ではないということだ。
 とうことは……消去法で考えて、七不思議の真相の一つは、神威先生にあるってこと?
「これまでの話……他には、誰か知っていたんですか?」
「初音先生と緑川さんだ」
「……グミが、知っていた………?」
 神威先生は、先ほどから何か考え込んでいる。確か、『音無事件』という単語にも反応していた。何か気になるのかな?
「まあ、とりあえずこれで以上だ。何か、質問は?」
「……学園長。後で、もう少し詳しく話を聞かせていただいてもいいですか」
 神威先生が、いつもより少し低い声で言った。
「俺と『音無事件』には、きっと深いかかわりがある。それに……多分俺にはもう、ほとんど時間が残されていないんです」
「……わかった。じゃあ、皆が出た後で」
 今日の神威先生は、いつもと様子が違う。何があったんだろう。そして、「ほとんど時間が残されていない」というのは……?



 数日後、複雑な心境の中、二日間に渡る学園祭が始まった。一日目は、ライブだ。
「……結局、いつもの服でやるんですか?」
「そっちのほうがいいでしょ」
 何か衣装があったほうがいいという案も出たけど、結局全員いつもの服でやることになった。もちろん私たち生徒は制服だ。
「とりあえず緊張してくるよね」
「とりあえずって何だよ」
「一曲目は、レン君だったよね」
「そうだねえ」
 レン君は、この状況なのに落ち着いていた。凄いな。
「まあ……これまでがんばってきたんだ。この学園祭、成功させるぞ!」
『『はい!』』
 落ち着かない心のまま、ステージの幕が上げられた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【がくルカ】memory【18】

2012/12/05 投稿
「過去」


改稿しましたが内容はあまり変わっていません。

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投稿日:2022/01/10 02:12:17

文字数:2,463文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

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  • Tea Cat

    Tea Cat

    ご意見・ご感想

    memory! memory!
    失礼しました、茶猫です☆
    『音を失った少女に』関連キーワードが…
    おお…とうとう学園の名前が明らかに…
    この学園天才が多すぎる…ぅぅぅ
    ねえその頭脳ちょーだい
    もしくはがっくんとカイトに現代国語と社会を教えてほしいよ!

    一時間後

    一般的な中学生にはりかいできないよ!(何があった

    ゆかりさん、私も全てを擬音で表現するよ☆
    次も楽しみに待ってます!

    2012/12/06 20:05:26

    • ゆるりー

      ゆるりー

      落ち着けw

      関連ワードも伏線もたくさん入れた話ですw
      明らかにしちゃったぜ!←
      何気に天才多いよね。
      頭脳が羨ましい!
      激しく同意!

      その一時間で何があったんだ!?www

      ……実は私も←
      ……うん、頑張る。

      2012/12/06 21:32:38

  • Turndog~ターンドッグ~

    Turndog~ターンドッグ~

    ご意見・ご感想

    わ……若い……!!
    あれ、初音先生いくつだっけ?20だっけ?
    学園長一つしか変わらんとか何事!?
    それって『異常』じゃなくて『超常』って言わない!?
    とんでもねえこの学園…きっと正式名称は『公立』とか『私立』じゃなくて
    『超常緩香学園』とか言うんだろうな。

    結論。
    過去がわかっても結局謎な人たちばかりw
    とりあえず擬音ですべてを表現するのは常人がついていけませんよ学園長。
    あとカイト兄さんは忘れてても問題ない。
    きっと大罪人にいろいろやられて疲れてるんd(おい

    2012/12/05 23:33:24

    • ゆるりー

      ゆるりー

      ※これまでで登場しているキャラ(教師)は全員20代前半です。
      ※しかもゆかりさんは16で教師になってます。

      一応、設定では私立ですw

      ほぼ全員が謎ですw
      ちなみに私が疑音で全てを表現するような人です←

      きっとカイト兄さんは疲れてます。
      肩こりしてそうです。

      2012/12/06 02:02:05

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