全員ギルドに着くとカイト達はテトの案内で食堂に向かう。
食堂に入るとそこには豪華な料理がたくさん並んでいた。
「さぁ、皆遠慮はいらないよ。好きなだけ食べてくれ今日は僕が久しぶりに腕を振るったからね。味は保障するよ」
「いっただっきまーす」
真っ先に料理に飛びつくカイト。
「美味しそうな料理だね。ねぇカイト?カイ…えっ?早っ!もうそんなに食べたの…?」
「ミクも早く食べないと無くなるぜ」
「そうね…。じゃあ私もいただきます」
「アタシ達もいただきましょうか、ルカ」
「そうね。いただくわ」
「じゃあ僕達も食べようか」
「そうですね。テトさんの手料理を食べれるのもあまりない機会ですからね」
「いつも、私やルコが作っていますからね。テト様は料理の腕は抜群なのに面倒臭がりですから困った物ですよ…」
そう言いながらリツは椅子に腰を掛けた。ルカは全員が座ってるのを確認すると、フォークを皿に置きミクに言った。
「ねぇ、ミク?私の事やハクの事何処まで知ってるの?」
「え…。何処までと言われても私はルカ姉が有名な歌姫って事しか知らないし、ハク姉も賞金稼ぎって事しか知らないよ」
焦りながら答えるミクを見てため息つくルカ。
「そう…。ミク、4年前に何があったか知ってる?」
「《1stBrake》事件…。とある実験中の事故により謎の生命体や世界が荒廃し、世界が初めて壊れた事から《1stBrake》と命名。そしてその事件で人類史上最大の大戦が起きた事くらいしか…」
「あら?けっこう詳しいのね。そしたら話しが早いわ。その大戦で『漆黒の魔団』の神威を討ち取り戦争を終結させたのは誰か知ってる?」
「確か、『純白の騎士団』の隊長。ハク・ヴァレンタインじゃなかった?」
「ミク、今から言うことは信じられないかも知れないけどちゃんと聞くのよ?」
「……はい」
ミクは重い空気を感じ取ったのか、静かにうなずいた。周りのみんなも同じように手を止め話を聞く。
「アタシは本当は弱音ハクじゃなくて、本名ハク・ヴァレンタインなんです」
「その名前って、ハク隊長と同じ?」
「また隊長って呼ばれるのは何か変な感じですけど、アタシはそのハク・ヴァレンタインなんです」
「ハク姉が…、あの隊長?」
「黙っててゴメンなさい。隠すつもりは無かったんですけど、皆に言うと今までの関係が壊れそうで…」
その言葉を聞くとカイトは箸を机にバンと置き、ハクに真剣な顔で答えた。
「ハク、俺達がそれぐらいで態度を変えると思うか?ハクはハク、俺達の大切な仲間だ!仲間を信じろよ」
「アハハ…。その言葉ルカにもさっき言われました」
「ハク姉…。泣かないで」
「はい」
ハクは服の袖で涙を拭うとニッコリと笑ってミクに言った
「ミクちゃん、あの時王都グローリーで何があったか知ってる?」
「確か…王宮に敵が攻めてきて、親衛隊が命と引き換えに王女様や王様を逃がした。でも、王様の遺体は見つかったが王女様の遺体は見つからなかったっていう都市伝説的なのがあったような…」
「大体は合ってるわ。確かに王様は神威によって殺された。でも、王女は殺されなかったの」
「なんで?」
「実はアタシが王女様を助けたんです。城に入っていく神威を見たので追いかけていたら、神威が王女様に手をかけようとしてたので…」
「ハク姉大活躍だね」
「ありがとう。でも、表向きは私が助けた事になってるけど、本当はメイコやキヨテルさんのおかげで姫を助ける子が出来たんですよ。当の本人しか知らない事実って奴です」
「そんな事が…」
「えぇ、話を元に戻すけど。神威を追いかけ、追いつめたアタシは手に持っていたショットガンで神威の頭を撃ち抜き殺したはずでした。返り血を浴びた王女様は泣きながらアタシに縋り付いて、お礼と名前を言ってくれました」
「その名前が巡音・ルカ・ディーバ。私の名ですわ」
「ルカ姉って、王女様だったの?しかもディーバって言ったら、その大戦で人々は協力する事を覚えたので世界のお金の単位を、世界を一つにすると言う意味で変えるって事で。民衆は単位を色々考えた結果、十六歳と言う若さでその事を世界に訴え、王都グローリーを治めた王女様の名前を取ってDivaにしたって言う。あのディーバ姫?」
「そうよ。でも、今は姫じゃないわ。カイト達に会う前に死んだはずの神威に城は攻められ、私は隙を見て逃げてきたのよ。今は私の長きにわたるディーバの血族は私で最後…」
「でもよ、ハクが殺したはずの神威が何で生きてんだ?不思議じゃないか?」
「確かに不審に思ったよ。でもねカイト、その事はまだ調査中なんだよ。リツの話しでは神威のボス、ルイン…。奴が何か知ってるかも知れないとの事だ」
「しかし、敵のボスであってなかなか情報が掴めない。一応あっちにスパイとして工作員を忍ばせるんだが。返事がないんだ」
「ねぇ?その工作員って。もしかして亞北ネルじゃないですか?」
「ご名答♪」
ハクに向かってウインクするテト。ハクは目の前にあったお酒を一気に飲み、口を開いた。
「ネル…連絡が取れないと思ったらそんな危ない仕事を…。テトさん、ネルを帰還させてください!あの子はまだ十七なんですよ!」
「ハク。そうしたいのは山々なんだが、何にせよ連絡が取れないからどうしようもないんだ…。スパイとばれてたら神威に殺されてるかもしれ…」
テトが喋ってる最中に急にハクはテトに向かって飛び掛かり、テトのむなぐらを掴んだ。
「いい加減にしろよ、てめぇ…。そんな危険な任務だと解っててあいつを行かしたのか?あぁ?てめぇ、ギルドのトップなんだろ?下の者はトップの言う事を聞かなきゃなんねぇんだよ!どんなに嫌な事でも!下の者がどんな気持ちだなんて最初からトップのお前には解んねぇだろ?」
ハクの突然の行動に慌てる一同。
「ハク姉…?」
「酒瓶を持ってる…?まさかハクはかなりの酒乱…?」
「貴様、テトさんに何をする!」
ハクに近づくルコを振り払い、ルコに向かってどなり散らした。
「あぁ?てめぇもテトが下した判断に納得したんだろ?どんなに危険な事かも解ってて…」
「テトさんの命令は絶対だ」
「じゃあお前はテトの言うことは何でも聞けるのかよっ!テトに死ねって言われたら死ねるのかよっ!」
「それは…」
「てめぇが任務の決定を下した時、ネルはどんな顔だったか思い出せ!ネルがいつ死ぬかも解らない所をどんな気持ちで行ったか…あんたに解んねぇのかっ?下の気持ちが解らねぇんならトップに立ってんじゃねぇよ!ネルが死んだらお前はその命の重さに耐えられんのかっ!家族に…アタシにどんな説明すんだよっ!」
「ハク、止めて!」
ハクに向かって走り出そうとしているリツを止めると、ルコはテーブルの上に置いてあった果物ナイフを自分の首元に突き付けた。
「なぁ、ハクお前は俺に死ねるかと聞いたな?俺はテトさんの為なら死ねるぜ!」
「ルコ…止めろ。僕はお前にそんな事望んでない…」
「じゃあネルに任務を受け渡したのはどうなるんだよ!ネルには遠回しに死ねって言ってるもんだろ?何でこいつには命令出来ねぇんだよ?命の重さが違うのかよっ!皆平等じゃねぇのかよっ!」
「………。確かにルコやリツはギルド結成当初からいるからその分、思い入れがある。そしてネルは雇った身だから。正直な話しルコやリツに比べて僕にとって決断しやすかった…」
その言葉に頭が来たハクはテトを力いっぱい殴った。ネルの苦しみ、残された者の思い、全てを拳に詰めてテトにぶつけた。
勢いよくテトが壁に向かって飛んでいく、先ほどと同じようにハクはテトのむなぐらを掴んだ。
「ナメた考えだな、テト。トップに立つってのはただ偉いからだけじゃない。皆に認められて初めてトップに立てるんだよ!上の立場も下の立場も全部経験してトップに立ったらな、広い範囲で皆を見れるんだよ!トップに立てば下の者の命全部背負って行かなきゃダメなんだよ…。時には厳しい決断しなきゃならない。それでもトップが涙見せちゃダメなんだよ!皆の見本にならなきゃなんねぇだよっ!」
「返す言葉がない…ハクの言うことは全部正しい…」
テトは今まで誰にも見せることの無かった涙を初めて見せた。
「僕は…今まで皆を引っ張って来たつもりだった…でも。ルコやリツだって僕だったから着いて来ただけ…。ハクの言う通り僕は上に立つ資格が無い…。もう嫌だよ…僕、死にたいよ…」
「テトさん何言ってるんですか?」
「テト様!お止めください!」
ハクは腰にさしてあったリボルバーを手に取り、床に一発撃つとテトに渡した。
「本当に死にたいならそれで頭ぶち抜いてみろ」
「貴様っ!」
「ルコ、最後の命令だ!黙って見てろ!」
「ですがっ!」
「良いから!今までありがとう。ルコ、リツ…」
テトは銃口を頭に向け、引き金を引いた。
カチッ。
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