その少年は茶色の帽子を被り、薄汚い衣を纏っていた。
半ズボンからは白く細い足が伸び、その足は立っているのもやっとと言うくらい震えている。
僕は少年をじっと見つめた。
もう、彼しか目に入らなかった。
帽子から覗く少年の顔は、蒼白もいいところだった。
今にも泣き出しそうな、不安と恐怖に彩られた顔。
僕には、この表情に見覚えがあった。
…幼い僕が、何も出来なかった非力な僕が、した顔だったから。
「…レン…レン…」
感傷に浸りかけた僕を現実に引き戻したのは、少年のか細い声だった。
聞こえたのが不思議なほどに小さな声。
それでも、僕に衝撃を与えるには十分過ぎた。
“今…確かにレンって言ったか…?”
混乱する頭の中に、ある一人の人物が浮かぶ。
それは、姉から聞いた…暴君王女の双子の弟で、召使の少年の名だった。
まさかと思い、僕は慌てて少年を見つめた。
…少年と言うには、あまりに整った可愛らしい顔。
小さな手、細い足、白い肌。
“…間違いない。
…彼じゃない、ここに居るのは彼女だ。”
隣に、片割れの死を目前に何も出来ず、立ち尽くす王女が居る。
僕が今、『ここに本物の王女が居る!
そこに居るのは双子の弟だ!』
と叫んでしまえば、隣に居る王女はたちまち捕まって、断頭台に立つことになるのだろう。
それだというのに、僕は…何もしなかった。
否、何も出来なかった。
すぐ傍に仇が居るのに、王女が憎くて仕方ないはずなのに。
僕は、何故か泣きそうになりながら立ち尽くしていた。
「レン…レン…」
隣からは相変わらず、王女の涙に濡れた声がする。
断頭台には、相変わらず顔色一つ変えない召使が居る。
「嗚呼…、そうか、そうなんだ…。」
僕は、召使を見ながら呟いた。
…レンと言う名の召使は、王女のたった一人のナイトだった。
たった一人の、かけがえのない大切な存在。
そんな彼を、王女は今、失おうとしていた。
「………………。」
ザシュッ
「レン…レンー!!!」
僕は、王女の絶叫を背中で聞いた。
気付いた時には、僕は泣きながら広場を後にしていた。
嗚呼…僕も、彼女も、なんて非力でちっぽけな存在なんだろう。
その後、“王女”は片割れの死を背負い、何処に消えたのか…。
それを、僕は知らない。
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