『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:8


「なぁ、ちょっとグミ変じゃなかったか? 」
手元のMPウォークマンをいじりながら櫂人は話題を振った。
「久美? い、やぁ~・・・そんな風には思わなかったけど。どうかしたの? 」
「いや、思い違いならいんだけど。何かぎくしゃくしてた感じがしたからさ。おい、留佳」
「何さ」
「おまえは何か気付いた事無かったか? 」
「あぁ、あるぞ。それがどうかしたか? 」
さすがにこれには櫂人も芽衣子も言葉を失った。
「・・・お前な、気付いてたんならせめて何か気にしてやれよ」
「そうよ留佳。さすがにちょっと可哀想になってきたわ」
「何を言うんだっ。あの少し困った感じのはにかみ具合が絶妙すぎていじり倒し甲斐があったから聴かなかっただけだよ。聴いたら余計に困る顔もそりゃ見たいが」
「そうだな、すまない、俺が間違っていた。お前はもう何もしてやってくれるな」
留佳曰く、いつもの様に抱きついた時の感じがいつもと微妙に反応が違っていたらしい。そんな僅差で人の機微が解るのは留佳くらいのものである。護身術に長けていれば人心把握の能力でも身に付くのだろうかと芽衣子は変な方向に考えを巡らせていた。
「話を変えよう。この間言っていた件はどうなったんだ」
「あーあれか。決まったぞ」
「・・・それ何で部室で言わないんだよ」
「聴かれなかったし忘れてた」
「アンタよくそれで部長なんて務まるわね」
「私以上の適任者が何処にいる」
少なくとも確実に他にいると2人の表情がそれを物語っていた。
「取り敢えずは解ったから、後で詳しい概要をメールしてくれ。・・・これは忘れるなよ」
「ハイハイ」
そうしているうちに留佳が乗るバス停までやってきた。ちょうどタイミング良くバスがやってきたので2人はそこで分かれた。留佳が乗るバスを見送ってから再び道を歩き始める。
「ん、メール? 」
「あぁ、駄目押しのな」
そう言って櫂人は留佳にさっきの件のメールを送ると携帯を鞄にしまった。
「そういえば夏休みどうするの? 寮も3年には受験対策で置いてもらえるのが通例だけど」
「一度戻るよ。学校見学もしたいしね」
「行きたいとこ決まってんの? 」
「大体は。でもまだそこまで詳しく決めてる訳でもねぇよ。メイは? 」
「ん~・・・、焦っているんだけどね。早く決めなきゃって、でもそんな焦って決めてもアレでしょう? 決めかねてるとこ」
「まぁそれもそうだよな」
寮生の2人はこれからの進路の話をし始めた。櫂人はやはり今まで培った音楽方面での道を模索していて、芽衣子は櫂人に比べ特にこれといったものが無く悩んでいるといったところだ。
「この間街で声かけられたやつ、あれはどうすんだよ」
「あぁモデルの話? 何かうま過ぎな話って裏がありそうで怖いんだもん、名刺は貰ったけど」
「その手の道行くってんだったら俺知り合い居るからそっち方面で振ってもいいけど」
櫂人が顔を出していたジャズバーは色んな人間がやってきていたため、櫂人の人脈はそれなりにかなり広い。実際に小遣い稼ぎに櫂人自身もそういうバイトを引き受けた事が在るくらいだ。
「い、や・・・今はまだいいや。よく解んないし」
「やって決めてみるっていうのも手ではあるよ。後々にしてチャンスなんていつ来るか解るもんじゃないしな。まぁ無理は言わないから一つとして考えてみたら? 」
「解ったわ、有難う櫂人」
「それはひとまずとして・・・取り敢えずは留佳の言ってた件をどうにかすべきだよなぁ」
「あーあれね。人見知りの激しい拍が聴いたら青ざめるわよぉ、きっと」
「だろうな」
思わず笑いが零れた。それをタイミングとして一瞬間が流れる。歩き続けながら芽衣子がふと、
「・・・そういえば、櫂人って久美の事だけグミって呼ぶわよねぇ」
「双子がまぁ騒がしく仲の良さを吠えてるからなぁ。気付けば移った。むしろ俺はお前達の方が意外だよ、特に留佳なんかよろこんで呼びそうなものを」
「留佳は真逆よ。あれは大好きだったり親しい人であればある程名前で呼ぶのよ。綽名とかはむしろ腹が立って仕方がない人につけるらしいわ、憤懣たる怒りと侮蔑を込めて」
「・・・歯に衣着せぬアイツらしいちゃらしいな」
「全くね。そういえば先生も何でワタシだけ櫂人と同じように呼ぶのかしら? 」
「・・・そう、いえば、そうだな。まぁ単純に呼びやすいとかそんな理由なんじゃないのか? 」
「かしらねぇ~」
存外鈍い2人にこの話題は堂々巡りになる以外に道はなく、そうこうしているうちに女子寮の前に着いた。
「じゃぁまた明日な」
「うん、じゃぁまたね」
櫂人はそこで分かれて女子寮から少し坂の上に離れた男子寮に向かって歩いて行った。その背を見送りながら芽衣子は一人溜息を吐いた。
―――アイツにそう呼ばれるのはワタシだけだと思ってたのにな
櫂人が久美を”グミ“と呼ぶ。何て無い事ではあるけれど、芽衣子にはその些細な事がとても気になって仕方がなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーー

その頃、未来と拍は降りる駅が違う双子と分かれて街に出ていた。
「なぁーんか面白そうな展開がしてきてるんだよねぇ~」
「未来ちゃん、また何か企んでるんでしょう」
「もぉーぅ、人聞き悪い事言わないでよぅ。ちょっとした好奇心です、コ・ウ・キ・シ・ン☆ 」
「はいはい。それで、何のCD探すんだっけ? 」
「うん、Jack Radics の『No Matter』ってやつ。櫂人先輩に頼まれててさ」
「今度の部活のやつかな? 」
「さぁ? 『It's in her kiss』ってやつもあればって言ってた」
「まぁもしそれなら探せばウチにあるかも知れないし、今日無かったら自分も探してみるよ」
「まじで! サーンキュー、拍ぅ!! 」
そして2人はお目当てのCD屋に来ると手分けして目的のディスクを探し始めた。30分くらいして検索機や店員に聴いてインポート盤の『Love & Laughter』というアルバムの中にその曲を見つけた。ワールド音楽にカテゴリされていて、ジャンルはレゲェ。独自のミクスチャーで個を確立した彼の音楽はのちにオブザイヤーに選ばれるまでになった。人との関わり合いの中から生まれた音楽といった面が強く出ているアーティストとも言える。
「お金は? 」
「一応預かってんだ。ついでに余ったお金でアイスの一本くらいなら買ってもいいって言われたからダッツ買おう、ダッツ! 」
「いや、それ買ったらお釣り全部無くなっちゃうんじゃ・・・」
「1つならどれでも大丈夫だってぇ、同じアイスなんだし」
1つと1本じゃ大分違うんじゃないかと思う拍だが、鼻唄気分の未来に何を言っても無駄だろうと悟り、レジに行く未来の背を見送った。
CD屋を出てコンビニに寄ると、未来は迷わずダッツのシチリアレモンを手に取った。期間限定でTSUTAYAポイントが30P加算されるかららしい。拍は遠慮して自分でガリガリ君のカフェオレ味を購入した。それを見て未来が、
「一緒におつかい行ったんだから拍の分も買っとかないとおかしいでしょ! 」
そう言って勝手にダッツとは別にガリガリ君のグレープフルーツ味も買い込んでいた。食べるのは勿論未来である。
「未来ちゃん、こういう時は遠慮ないよね」
「だって折角の好意じゃん、無下にしたら損だって☆ 」
拍は未来に連れられて買い物に付き合っただけだったので、さすがに櫂人に申し訳ない気持ちになる。明日学校で会ったらまずは説明しようと拍は思った。
「そういや今日櫂人先輩、久美ちゃんと何か話してたけど」
「良く見てるねぇ」
「まぁねぇ~♪ 端から見ればバレバレなのにねぇー。久美ちゃんの好きな人」
「まぁ・・・さすがに自分も見てて気付いちゃった」
「あの様子だと留佳先輩と双子も気付いてると思うわよ。あと芽衣子先輩もねぇ・・・」
「・・・何、その面白そうなことが起きそうだなぁみたいな感じ」
「いやいやぁ~あっはっはっはっ、何でも無いよ~・・・」
「この間写真持って行った時も先生に何か変な事言ってたでしょ。飄々としてるけど先生一瞬固まった感じがしたんだけど・・・」
「拍も良く見てるわよね」
「そりゃぁ年中『ネタは無いかーーーっ』って取り立てて来る変な友人がいますから」
「言ってくれるわねぇ。それならあの時の・・・1年の最初の頃にあった、アレは確か・・・」
「~~~っみ、く、ちゃ。それはやっぱ止めといた方がいいと思うな☆ 」
「分ってるわよ冗談よ。私だって言っちゃいけないものくらい解りますよーだ」
「はぁ・・・。取り敢えずそれで友達無くさないようにね・・・」
「大丈夫よ。私だって1人は嫌だもん」
基本的に憎めない性格をしている未来ではある。でなければ情報など集まるはずも無い。そういった点では拍は素直に未来の性格を羨ましく思っていた。
「ま、取り敢えず目下の面白情報は岳歩先生と櫂人先輩に絞るかなぁ♪ 」
「それはまた何で? 」
「いやぁ、はったりって時には必要な手練手管だと思ってるんだけど、ちょっと思い当たる事があってね。本当にそうかどうか先生にカマかけてみたら釣れちゃった☆ 櫂人先輩は挟まれてどうなるかなぁ~ってところかな」
「程々にね」
「あいさっ! 」
再び駅に着く頃にはアイスを食べ終わり、2人は連れ立って駅のホームへと消えて行った。

to be continued...

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • オリジナルライセンス

『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:8

原案者:七指P 様
お預かりした設定を元に書かせて頂いております。
拙いながらではありますが、楽しんで頂けたなら幸いです

毎回画面に向かいこと3時間
大体待ち受け画面程度であれば簡単なイラストですら3時間
どうであれ何故かそれで1つ出来ちゃう不思議
今回は部活動よりもその帰りに焦点を当ててみる
それぞれの胸の内(というなの腹の探り合い)みたいな感じ(笑
本当は今回メインに入る前のとこ書こうと思っていたのに、気付けば未来・拍パートが増えた不思議(本当は書く予定一切無かった
ちなみに中に使われているアイスの銘柄とポイント云々は完全に個人の修正と好みからきてます!
・・・カフェオレ味、本当に美味しかったんだよ(グレフルは微妙だった
シチリアレモンは(高いから)いつか食べれるといいなぁ・・・

今度の話がメインの序盤(?)になる予定
どれだけ長引かせるつもりだ貴様って感じだよね本当
書き始めたら何故にこうなるのか

7/24に一度あげて、確認したら
・・・最後がないいぃぃ!?
あげ直し

閲覧数:115

投稿日:2012/08/06 00:40:28

文字数:3,902文字

カテゴリ:小説

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