「我らーがさァとのー、うつくゥしきみどーりーぃぃぃ、うたーえ永久ぁの豊穣をぉお」
「え、何、デジャブなんだけど」
「ああ めーちゃん。いや何、リンとレンが二人で歌えるような歌教えろって言うから、合唱の基本である校歌を教えてあげようとだね」
「はーい いい子だからおねーさんと一緒に今時の歌をお勉強しましょうねー」
「駄目!?」
 
* *
 
リンとレンがやってきてから二週間がたった。 一応リンとレンの新しい所有者として登録し、ついでに歌うこと以外の機能を取っ払ったカイトとメイコの新規登録も済ませた。何日間かは警察だとか国だとかから不正ボーカロイドの件やカイトとメイコのマスターが殺されている件について聞かれるのではないかと、電話に出るのも恐ろしい状態が続いていたが、一週間経ってもそういった電話はないので、ここ最近になってようやく普通の日常を送れる程度の余裕を取り戻した。
 
カイトとメイコは兄貴分姉貴分として大層リンとレンを可愛がり、リンとレンもまた二人を慕っているようで、やはりボーカロイドたちには彼らにしかわからない絆があるのだなと感動しながらも少し寂しい思いがあった。 ―――友人。最初に彼らに要求した、私と彼らの関係。 家族にはなれない、中途半端な間柄。
 
「…はふう。 ほんッと季節の変わり目って嫌だわ、滅入る。無駄に滅入る」
「アイス一口あげようか?」
「アイス一口で回復するなら最初から滅入らねえよ。 てか一口かよ全部寄越せ。 っていうか、おまッ、このアイスハーゲンダッツじゃねえの!? なんつー高いもの買ってんの!? それ一個でスーパーカップ三つ買えるじゃないバカイト逃げンなてめぇ!」
 
踵を返して逃げようとしたカイトのマフラーを引っつかみ、襟首掴んで前後に揺する。それでもカイトはアイスを手放すことなく「だって美味しいんだもん、だって美味しいんだもん!」と子供のように半泣きで叫ぶ。 …買ってしまったものは仕方が無いがどうにも腹が立って、カイトの持っていたスプーンを奪い取り、普段なら買う事の無い高価なアイスをスプーン山盛りすくって口に放り込んだ。 半分になったアイスを見て嘆くカイトの前で口をもごもごさせながら「ふははははは」と不明瞭な勝利の笑い。
 
口の中一杯に広がる、解けるような甘さに酔いしれながら、冷えた口元を拭ってレンの方を見やる。 メイコが覚えたての流行のポップを教えるのを、リンと一緒に楽しそうに聞いている。 …邪魔をしては悪いだろうか。私の方はいつでも頼める用事だし。なんて思っていたらレンの方が私の視線に気づき、笑顔を浮かべて寄ってきた。
 
「何、常磐さん」
「え。 …い、いや、後でいいわ。めーちゃんに校歌以外のモン教わっておいで」
「いいよ、後でリンに聞くから。オレに用事でしょ」
 
子供らしい口調は、カイトやメイコと同じように「マスターというよりも友人として接してくれ」と言った後からするようになったものだ。 下手に敬語を使われるより、こっちの方が断然接しやすい。 最初こそ「友人」という扱いに戸惑っていたようだが、カイトやメイコの態度を見つつ、それから慣れも手伝って、今では遠慮のない自然な接し方になった。 金髪碧眼の少年に慕われるのっていいなあ清水谷じゃないけどときめくなあなんて下心をひとまず心の隅に押しやり、「じゃあ、」と返事をする。
 
「仕事でさ。先に出来てるメロディに歌詞つけなきゃならないんだけど、いまいちピンとこなくて。 歌うのが丁度レンくらいの年の男の子集団だから、ちょっと協力してもらいたいなー、と」
 
自分で口ずさんで確認してみても、そこはやはり年齢と性別、更には微妙な音痴という壁があるので、どうもしっくりくるような歌詞が出来てこないのだ。 レンに歌ってもらえたなら、少しはいいアイディアが浮かぶやもしれない。 レンは気前よく承諾し、私から楽譜を受け取った。 …ふと気がつくと、歌の練習をしていたメイコとリン、アイスを貪っていたカイト(…はアイスを食う手は止めずに) が、私とレンの側に来てじいっと様子を見つめていた。 …考えたらこういうことを頼むのは初めてやもしれない。家にボーカロイドがいるのに。
 
「…え、えーと。 んじゃ、よろしく、レン」
「ん、頑張る」
 
言って。 リンとよく似た、けれどやはり少年のものである歌声がゆっくりと室内に響き渡る。 あまり納得していない歌詞が、つりあわないくらい美しい歌声が楽譜に忠実にメロディを奏でる。 最初は大まかにざっと確認だけするつもりだったというのにうっかり最後まで聞き入ってしまって、レンが歌を止め「どう?」と首を傾げるまで身動き一つとれなかった。
 
「………。ボーカロイドって細かい調整が必要、って聞いてたけど。 全然じゃん。いらないじゃん、普通にそのままでいいと思うけど」
「細かいところ、だよ。例えば息継ぎのタイミングだとか、歌い方の抑揚だとか明瞭不明瞭のメリハリだとか。 それにオレとリンは打ち込みのままの歌い方がより自然になるよう改良されてるし」
 
なるほど。人らしい歌い方というのは、何も完璧さが全てではないのか。 多少裏返ったりだとか微妙なコブシだったりとか、息を吸う際の一瞬の緊張感や期待感だとか、人間には色々個性が出てくるものだから、そういう欠けた何かがないと逆に人間味が失せるということか。
 
「…でも聞いててイマイチはっきりしなかった悪い場所がわかった。なるほどあのへん歌詞変えよう。 で、悪いけど、もっかい歌ってもらって構わない?」
「何度でも」
 
にか、と、どこか誇らしげに笑ったレンの表情は、今まで見たことも無いような子供らしい無邪気さを持っていて、つられて笑い返してしまう。 …本当に、ボーカロイドというのは何故にこうも人間らしいのだろうか。 いつか清水谷のように間違った感情を押し付けてしまいかねない錯覚に、今はまだ、目を瞑って真っ直ぐに愛す事だけを考えた。
 
 
 
 
To Be Next .

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

天使は歌わない 24

こんにちは、雨鳴です。
うってかわってのほほん系。
次回からラストへ向けて編です。
どうでもいいですがこの話を書き始めて以来レンが可愛くてしゃーないようになってしまいました…どうしてくれよう。

今まで投稿した話をまとめた倉庫です。
内容はピアプロさんにアップしたものとほとんど同じです。
随時更新しますので、どうぞご利用ください。
http://www.geocities.jp/yoruko930/angel/index.html

読んでいただいてありがとうございました!

閲覧数:562

投稿日:2009/08/16 15:22:58

文字数:2,497文字

カテゴリ:小説

  • コメント3

  • 関連動画0

  • 雨鳴

    雨鳴

    その他

    こんにちは、雨鳴です。
    読んでいただいてありがとうございます!

    ここ最近シリアスシリアスだったのでのんびりさせてみました。
    書いてるほうものんびりに餓えていたので大満足です(笑)
    カイトはたしかにもさもさアイス食べていれば幸せなような…!

    2009/08/18 22:49:49

  • ヘルケロ

    ヘルケロ

    ご意見・ご感想

    読むのが遅くなって済みません
    のほほんでいいです!
    たまにはのほほんもいいですね^^
    初仕事はレンですか!
    メイコとかリンがうらやましがるでしょうね(カイトは……アイスを食べてればいいようなw

    2009/08/18 21:37:05

  • ヘルケロ

    ヘルケロ

    ご意見・ご感想

    とりあえず途中感想
    最初の七行が最高です!(7行しか読んでませんwww
    まさにあの絵ですね!!!

    2009/08/18 21:20:04

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