ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてPの「野良犬疾走日和」を、
なんとコラボで書けることになった。「野良犬疾走日和」をモチーフにしていますが、
ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてP本人とはまったく関係ございません。
パラレル設定・カイメイ風味です、苦手な方は注意!

コラボ相手はかの心情描写の魔術師、+KKさんです!

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【独自解釈】 野良犬疾走日和 【紅猫編#20】



 気づいたら、婚姻の式の日になっていた。
 一般に「人生の門出」とか「新しい生活のはじまりの日」と呼ばれるその儀式の日は、ほんとうに唐突に、私のもとへとやってきたようだった。鏡の中にうつる、背筋の伸びた茶っ毛の女の子は、今日、べつの家に嫁ぐのだという。それには家同士の利権や権威がおおいに絡んでいて、とくに望んだ相手でもないのだが、女の子にとって拒否権のない婚姻だった。
「いわれるまで気付かなかったわ」
「何をです?」
「今日が結婚式の日だったのね」
 ぜんぶが他人事のようだ。今になっても、まったく実感なんてわかない。
 正直にそう言うと、女中の女の子は、鏡越しにすこしだけこまった顔をした。
「めいこお嬢様、冗談でも神威さまやお父上の前では……」
「いやね、さすがの私もそこまで言わないわよ」
「もう……めいこお嬢様はどこまで本気かわからないことをなさるから」
 あら、私はいつでも本気でしか動いていないのに、ご挨拶だこと。そう思いながら、髪飾りを整えてもらう。いつかるかさんが土産だといってくれた髪飾りは、この日のためにとっておいた。大きな牡丹の花を象った髪飾りは、はじめてつけたのがうそのように、鏡の中の私にしっくりとなじんでいた。
「……お嬢様、神社に行くまでは、お行儀よくしていて下さいね。あとは、なすがまま、なされるがままです」
 神社に行くまで――つまり、婚姻の儀が行われるまで、ということだろう。
 たしかに、婚姻が成立してしまったら、あとはなすがまま、なされるがままにするしかない。尤も、今までもなすがまま、なされるがままにしか、生きられなかったけれど。
 不意に目元をちらつくあの青をむりやり振り払うように、私は、階下から私を呼ぶ声に従い部屋を出た。

 玄関に出ると、仲人のひとがいるはず――だったのだが、そこに佇んでいたのは、2週間ぶりに会うるかさんと、その旦那様だった。どういうことだろう、と、両親を見遣る。
「頼んでいた仲人の方が急病でね。かわりに巡音の若旦那夫妻にお願いすることにしたのだよ」
「いや、咲音のお嬢さんには、うちのるかがいつも懇意にしていただいているからね。このくらいはお安いご用だ」
 婚姻の儀の当日に、それまでのもろもろを取り仕切っていた仲人が変わるなんて、そうそうない事態だが、るかさんもるかさんの旦那様も、動じた風はない。
「きちんと式次第の要項はいただきましたの、安心してくださいな、めいこ」
 やわらかに微笑むるかさんの表情を見ていると、なんとなくそうなのかと安心してしまう。そんなふうに思わせてしまうところが、るかさんの凄いところだと思う。
「ですが、手違いで衣装が神社に運ばれたままなんですの。そこで、どうせなら神社で着替えをしましょう、と、話していたところなのよ」
「白無垢で街中を歩くことはできないが……めいこ嬢はそれでもよろしいかな?」
「構いません」
 というか、願ったりかなったりだ。いくら神社が目と鼻の先だからといって、あんなに目立つ衣装を着て、近所をねり歩く気にはなれなかった。母が少し不満そうな顔をしていたが(きっと、いいところに嫁入りする娘を近所に自慢したいのだろう)、仲人役を引き受けてくれたるかさん夫婦に意見する気はないようで、私は、予定よりもだいぶ早く家を出て神社に向かうことになった。

 神社に向かう道中、先に立って歩くのはるかさんの旦那様だ。横にはるかさんがついてくれて、両親も後ろからついてきているはずだ。陽ざしの中、道行く人は慌ただしげだ。……いや、それ以上に気になるのは、その人の多さだ。ふだんなら人通りもあまりない神社への道すがら、今日はやけに人の通りが多い気がする。
 やがて、その理由がはっきりしてきた。道の半分弱の幅を取って、大きな車が2台ほど停まっている。そして、その道のもう半分を埋めるほどの人だかりで、大きな集団ができている。
「あの人たち、なんなのかしら。邪魔ねえ」
 後ろから、母の呆れた声が聞こえたが、私たちのほとんどはそれを無視した。
 その集団によくよく近づいてみると、その人たちの視線は、一様に車の方へとあつまっている。そうして私も車の方へと目を向けると、いつかの芝居で見たような奇妙な格好をしたひとたちが、芸を披露しているところだった。
「道端で、なにをやっているのかしら」
「まあ、めずらしい。どこかの興業団みたいですわね?」
「そうみたいだのう。いずれにせよ、すこしどいてもらわないと進めんなあ」
 るかさん夫婦が、私の母の刺々しい雰囲気を打ち消すように、のんびりした口調で話している。
 路上での興業――つまり、大道芸、というやつなのだろう。本や新聞などで見聞きしたことはあれど、生で見るのは初めてだ。このあたりには芝居小屋や舞台小屋が多いので、わざわざ路上で興業しようと思う人も少ない。必然的にこの手の芸事は外で見られないのだ。外国のきらきらした楽器、聴いたことのない音楽。物珍しい要素ばかりのなか、とくに際立っているのは、おもに3人。
 ひとりは、薄い菜の花色の髪をした、細身の女性。曲芸の演目にでてくるような赤と黄色の縞模様の、大きな球に乗っている。球に乗って自在にそこらを歩き回ったり、おもむろに球の上に座ったかと思うと、優雅にお茶なんか飲んでいたりする。その度に揺れる髪の毛が細くて長くて、日の光に透けてしまうのではないだろうかと思うほどだったが、まったくはかない印象を受けないのは、目の覚めるような碧眼のせいだろうか。
 もうひとりは、やや大柄で、目鼻立ちのくっきりした男性だ。鳶色の短髪に、鳶色の瞳をもったそのひとは、色とりどりの小さな球を、お手玉のようにして宙に放り投げているのだが、その数がまったくお手玉とは比較にならないほど多い。10個くらいを一度に操っているのじゃないだろうか。尤も、数が多すぎて数えられないけれど。
 そして、3人目。こちらは、いかにもという風な道化師だ。仮面をつけているので、男性か女性か判別できない。水色と白の縦縞帽子と水色の襟巻、それに白い衣装がなんとも滑稽だ。青い靴のつま先に青いぼんぼりがついていて、とても可愛らしい印象を受けるのだが、つま先が反っているせいで歩きづらそうだ。じっさい、私がきちんと彼らを観察しはじめてから、3度は転んでいる(それでも衣装が汚れていないあたり、もしかしてわざとやっているのかもしれない)。
「――まったく、朝からなんて迷惑なことでしょうね」
「まあまあ奥様、わたくしたちもそれほど急ぐわけではないのですし、ちょっとだけでも見て行きませんこと? 芸が終われば人もはけますでしょうし」
 相も変わらず穏やかなるかさんに諭されて、母はそれ以上の言を控えた。
 そのとき、人だかりのなかから、声があがった。
「さぁさ、皆様お立会い! 私どもは海の向こうから来た道化師、クラウン!」
「……くらうん?」
「ピエロのことを、外国ではクラウンと呼ぶのですよ、めいこ」
 尤も、ピエロとクラウンも微妙に意味合いは異なるのですけれど、と呟くるかさんは、やはり博識だと思う。
「何やっとんのや新入りぃぃ!」
 それまでの過程を殆どきいていなかったので、突然の怒号に驚いたのだが、件の道化師が慌てて立ちあがって敬礼しているところをみると、どうやらすでに芸ははじまっているらしい。芸というか、漫才……だろうか。菜の花色の女性は、独特な訛りと巧みな話術で、観客の笑いをとっている。その女性の足許から、墨色の犬が赤い球を鼻先に載せたまま、ちょこちょこと歩いてきている。あの犬も興業団の一員なのだろうか。
「最初にお見せするんは、ジャックの物体消失マジック。さぁ、とくとご覧あれ!」
 ジャックと呼ばれた鳶色の男性がすっと前に出て、両手をこちらに向け、裏表とひらひらさせている。そして、右手に拳をつくったかとおもうと、その拳の中から布を取り出した。これには、みんな驚きを隠せず、どよめきと歓声をあげた(驚いたことに、あれだけぴりぴりしていた母までも、芸に見いっている)。そして、先ほどの墨色の犬の鼻先から赤い球を受け取って、その球の上に布をふわりとかぶせる。
「3」
 立てられた左手の指が、ひとつ折れる。
「2」
 声をださない男性の代わりに、女性がさもたのしそうに声を上げる。
「1」
 観客の期待も最高潮――そのとき、

 ふわっと、身体をもちあげられる感覚。一瞬、何が起こったのかわからなかった。

 声を上げる間もなく、なにかで口を押さえられる。目を剥いてあたりを見回すが、見えたのは、さっきまで自分がいた雑踏だった。落ち着く間もなく、自分が誰かに抱えられて走っているということだけが理解できた。どんどん遠ざかる人ごみから目を逸らし、自分を抱えている何者かを視認する。
 が、男女も年齢もわからない。わかっているのは、そのひとが水色と白の縦縞帽子と水色の襟巻、白い衣装と仮面を身につけているということだけ。
 えっ、ちょっと、何、なんなの! 誰? なに? 誘拐?
 さっと血の気が引いて、その直後、怒りで頭が沸騰しそうになる。怒りにまかせて口をふさいでいる手を払い、叫ぶ。
「人攫いなんてやめた方が身のためよっ」
 それでも、道化師は無言のまま私をかついで路地を走って行く。なによ、無視しちゃって! 身体が動くに任せて喚きながら、じたばたと抵抗を繰り返す。
「ちょっとッ……聞いてんの! いい加減離しなさいってば、このバカ! っていうか、へんなとこ触ってんじゃないわよ、変態!」
 ぱし、と、その仮面に平手が当たり、勢いで仮面が剥がれる。その衝撃で、私を抱える力が抜け、同時に、道化師が何かにつまずいたように転んだ。道路に投げ出されたていの私は、それでもなんとか体勢を立て直して逃げようとした――が。

「……人攫いで悪かったね」

 すこしだけ苦笑をはらんだ穏やかな声に、思わず固まる。その仮面が剥がれた道化師の、瞳は空の青だった。
「なん……で……?」
 まぎれもなく、2週間前、私を絶対に迎えに来ると宣言したそのひとが、水色と白の縦縞帽子と水色の襟巻、白い衣装を着たまま、私と一緒に道端で転んでいた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

【独自解釈】 野良犬疾走日和 【紅猫編#20】

ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてPの「野良犬疾走日和」を、書こうとおもったら、
なんとコラボで書けることになった。コラボ相手の大物っぷりにぷるぷるしてます。

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めいこさん、攫われるの巻。

この20話、ぷけバージョンとつんバージョンがあったんですが、本稿になったのは
ぷけバージョンです。だってぷけさんの話の持っていき方がすごくよかったの……!
今回にかんしてはホントに全部おんぶにだっこでラクさせていただいた!
ぷけさんの方でアイデア出したみたいに言われてるけどそんな大層なことしてないよ!
ぷけさんあっての野良犬です。ぷけさんだいすきだ。

青犬編では、かいとくんがなにやら企んでいるようなので、こちらも是非!

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それから、
めーちゃんお誕生日おめでとおおおおおおおおお! と、生誕祭動画のエンコ待ちの
間に、こうしてうpしにきた次第です。今日だけはプレミアムが憎い。
しかしほんとめーちゃんかわいいよめーちゃん生まれてきてくれてほんとありがとう!

実はつんばるという人は、長くても13話程度までのお話しか投稿してないんですよね。
ですがほら、見てくださいよ。#20ですってよ。びっくりですよね。
それもこれもぷけさんのおかげ! ほんとありがとう生まれてきてくれてありがとう!

……というわけで、うpした動画はプロフィールの方からどうぞ(ぁ

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かいと視点の【青犬編】はぷけさんこと+KKさんが担当してらっしゃいます!
+KKさんのページはこちら⇒http://piapro.jp/slow_story

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つづくよ!

閲覧数:469

投稿日:2009/11/05 01:28:06

文字数:4,401文字

カテゴリ:小説

ブクマつながり

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