第一章 ミルドガルド2010 パート13
「ハクリ、こっちよ!」
それから半時間ほどが経過した後、リーンとメイ、そしてカイルはセントパウロ大学の正門でハクリと待ち合わせることになった。学内には待ち合わせに適した場所が他にもあるが、入学したばかりの新入生にも分かりやすい場所を、ということでメイが提案したのである。その間にも大勢の学生がメイの姿を見つけて立ち止り、好奇に満ちた瞳でメイに向かって嘆息を吐きながら、手にした携帯電話でメイの姿を撮影し始めている。そのメイを守る様な位置でカイルが立っている所を見ると、どうやらカイルはメイのボディーガードという役割を演じているらしい。確かに、他の同年代の青年に比べて体格の良いカイルは武道にも通じている様な気配がある。少しだけ緊迫した気配を感じながら、リーンは先程のリーン自身と同じように両手にサークル関係のビラを抱えたハクリに向かって手を振った。
「もう、大変だったわ。」
ハクリはリーンに向かって苦笑しながらそう告げると、ようやく落ち着いた様子でビラをハンドバックに押し込んだ。一気に容量が増えたハンドバックのチャックを無理矢理に閉めたハクリは、続けてリーンの背後に控える様に立つメイとカイルに向かって丁寧なお辞儀をすると、こう告げる。
「はじめまして、メイ先輩、カイル先輩。リーンの幼馴染のハクリと申します。」
その言葉に、リーンはそうか、そう言えばこの二人はあたしの先輩か、と考えた。芸能人としてのメイの側面ばかり気にしていた為、その事実を失念していたのである。
「はじめまして、ハクリ。綺麗な髪ね。」
メイは先程リーンに見せたような優しげな表情で微笑むと、ハクリに向かってそう言った。その言葉にハクリは嬉しそうな笑顔を見せると、続けてこう言った。
「お会いできて嬉しいです。」
この様な時、リーンはハクリの胆力にほとほと感心してしまう。ミルドガルド共和国に誇るトップアイドルを目の前に、一歩も引ける気配すら見せない。いつもはリーンがハクリを引っ張る様な姿が多いが、或いはあたしがハクリに身を任せているのだろうか、とも考えてしまう。
「それじゃ、行くか。二人とも昼飯はまだだろう?」
所定の挨拶が終わったことを確認してから、カイルは全員に向かってそう言った。その言葉に、リーンとハクリは同じタイミングで頷く。その様子に僅かに目元を緩めたカイルは、続けてこう言った。
「なら、ついて来てくれ。安くて旨い定食屋があるから。」
その言葉が終わると、カイルはメイを促す様に目配せをしてから歩き出した。その間にも二人の距離が崩れることはない。考えてみれば、メイも世界一の実力を誇る剣士である。素人にも分かる完璧な間合いを目の当たりにして、二人とも信じられないくらいに強いのだろうか、とリーンは考えてからメイとカイルにはぐれないように歩き出した。その隣をハクリが歩く。面白いようについてきたギャラリーを一瞥したカイルは、続けてメイに向かってこう言った。
「どうする、メイ。」
その言葉に、ん、と頷きながら人差し指を形の整った下唇に当てたメイは、カイルに向かってこう言った。
「リーンとハクリがついて来られないでしょう。」
その言葉に、カイルは小さく肩をすくめてから、こう言った。
「五月蝿くなるが。」
「仕方ないわ。」
一体、二人は何をしようと考えたのだろうか、とリーンは考えてみたが、どうにも思い浮かばない。或いは所謂尾行を撒く、という行為でもするつもりだろうか、と考えたリーンに対して、ハクリが小声でこう尋ねて来た。
「一体、どうしてメイ先輩と一緒になったの?」
「カイル先輩に声をかけられて。」
リーンのその言葉に、そう、とハクリが呟くように言った時、先頭を歩いていたカイルがおもむろに立ち止り、リーンとハクリに振り返った。
「ここだ。」
そう言ってカイルは顎をしゃくって見せた。店の名前は太陽亭という名前らしい。カイルが告げた安い定食屋というイメージとは異なり、少し値の張る、お洒落なカフェスタイルの店であった。その扉を遠慮なく開いたメイは、直後に店内に起こった悲鳴に近い歓声に対しても気にすることなく平然と店内へと進入して行った。その様子を呆れたように眺めていたカイルは、もう一度リーンとハクリの背後に群がるギャラリーを一瞥してから、こう言った。
「やれやれ、今日の太陽亭は大忙しだな。」
その言葉を終えると、カイルはリーンとハクリを促す様に右手で店内を指し示した。どうやらレディファーストという概念を持つ青年らしい、と考え、素直にリーンとハリは店内へと進入する。早速とばかりに窓際の席に腰を落としているメイがリーンとハクリの姿を見つけると手招きして迎え入れた。店内は窓と照明を上手く利用した、解放感のある明るい店で、テーブルと椅子は白系統の爽やかな色に統一されている。ポイントポイントで赤色を配色している所がセンスの見せどころ、と言ったところか。
「じゃあ、何を食べる?」
全員が席についたところで、メイは笑顔でそう言った。その間にも携帯カメラが撮影を続行している音が響く。
「好きな物を頼んでくれ。今日は御馳走するから。」
続けて、カイルはそう言った。一応の遠慮の態度を見せてみたものの、ここは素直に御馳走になろう、とリーンは考え、トマトクリームのパスタを注文する。やがて全員が注文を終えると、早速とばかりにメイが口を開いた。
「さっき、リーンには言ったけど。」
その一言で、リーンとハクリは同時に身を乗り出した。メイの言葉は何故かいつも心地がいい。それは彼女の声質のせいなのか、彼女が醸し出している雰囲気によるものなのかは分からなかったが。
「私とカイルで、歴史探究会というサークルを結成しているの。」
メイがそう告げた時、すかさずカイルがこう言った。
「『歴史研究会』だ、メイ。」
「そうだっけ?」
「お前が決めたんだろ。」
呆れたようにカイルはそう言った。どうやら、ネーミングに関しては随分と適当らしい。非公式のサークルである以上、名称にこだわる必要性はないと言えば無いが。それはメイも同じらしく、酷く軽い調子で言葉を続けた。
「じゃあ、歴史研究会でいいわ。とにかく、あたしはどうしても研究したいテーマがあって、このサークルを結成したの。」
「それが、レンですか?」
リーンのその質問に対して、メイは一つ頷くと、こう答えた。
「ミルドガルド市民革命の主導者。戦いの主導者というだけでなく、レンは思想的な主導者でもあったみたいね。初代大統領のメイコはどちらかというと戦が専門だったみたいだし、その夫だったアレクは思想的には先駆的な考え方を持っていた様子だけど、その元となる発想はレンから得たらしいわ。」
「でも、どうしてあたしがレンの子孫だと思ったのですか?」
リーンは改めてそう訊ねた。金髪蒼眼が黄の国の王族の特徴であったらしいことは分かった。だが、レンは王族と言う噂はあっても、事実として認められている内容でなないはずだと考えたのである。そのリーンの言葉に真剣な瞳で頷いたメイは、同じく真剣な口調でこう言った。
「公式にはレンが黄の国の王族だとする資料は残っていないわ。でもあたしの家にある文献に、こんな文章が残っていたの。メイコ直筆と言われている日記よ。どうやら黄の国が滅亡した時につけた日記らしいわ。こんな文章よ。」
そこでメイコは一旦言葉を区切ると、続けてこう言った。
「『あの子は、まだ生きている。』」
「『あの子?』」
それは一体誰を指すのだろうか、とリーンは考えた。そうして首をかしげたリーンに向かって、メイコが更に言葉を続ける。
「この日記は、リン女王が処刑されたその日に書かれたものよ。元々黄の国の騎士団長だったメイコにしてみれば、自らの手で起こした反乱とはいえ複雑な想いがあったと思うの。そして私は、あの子とはレンのことだと考えている。」
「レン、ですか?リン女王の召使である?」
レンが黄の国最後の女王リンの召使だったという記録はリーン自身も確認している。そのレンはやはり、市民革命の首謀者であるレンと同一人物であるのだろうか。そう考えての質問に対して、メイは一つ頷くと、こう言った。
「メイコの日記に、それよりも古い文献には召使であったレンについての記載もあるわ。どうやら、リン女王とそっくりな、金髪蒼眼の男性だったらしいの。一体その当時の黄の国の王家に何があったのかは分からない。でも、私は珍しい金髪蒼眼という特徴から、レンは黄の国の王族の関係者であったのだろうと推測したの。でも、そこから先が分からないわ。レンが黄の国滅亡後に何をしていたのかは一切の文献が残されていないの。そして、数年後に、まるで予告もなく、唐突に市民革命の主導者となって、そしてミルドガルド帝国を滅ぼした。」
メイがそう告げた時、メイの隣の席に腰かけていたカイルの表情が僅かに曇ったことをリーンは偶然にも眼の端で捕えた。一体、どうしてそんな表情をしたのだろう、とリーンは一瞬考える。その思考はしかし、再び語り始めたメイの言葉に紛れてリーンの記憶の中から霧散してしまったが。
「そしてその後、レンは忽然と姿を消してしまったの。どれほどの文献を探しても何も得られないわ。でも、レンが民主主義と言う思想をミルドガルド大陸に持ち込んだことだけは間違いの無い事実。だから、私は知りたいの。レンが、どこに行ったのか。」
それは偶然だろうか、とリーンは考えた。ほんの半月ほど前に、あたしはハクリに向かって、レンには秘密がある、と主張したばかりではなかったか。あたしの夢に出てくるレン。彼は召使の様な格好をしていた。あれは単純な、あたしの空想が生み出した架空のストーリーなのだろうか。それとも、あたしは実はメイが勘違いしたように黄の国の王族の血筋が流れていて、その血があたしにあの夢を見させてたのか。そう考えて、リーンは自分自身の掌をなんとなく眺めた。あたしはどこから来たのだろうか。その根源的な疑問を知りたい。リーンは強くそう思ったのである。そして、次の瞬間は口に出していた。
「メイ先輩、あたしも知りたいです。レンが、何者だったのか。」
それはもしかしたら、可能性は低いだろうけれど、自身の血脈を探求する旅になるかもしれない。そう考えると、鼓動が高鳴って仕方がなかった。市民革命の時期にルータオに唐突に訪れたというあたしとハクリのご先祖様。ご先祖様は、一体どこから来たのだろうか。それを、求めることが出来るかも知れない。リーンはそう考え、そして熱い眼差しをメイに向かって送ったのである。その瞳に、嬉しそうに微笑んだメイは、凛とした声でこう言った。
「手伝って、くれるかな?」
その言葉を受けて、リーンはハクリの姿を視界に収めた。それに対してハクリは小さく頷く。リーンに任せるわ、という合図だった。なら、もう決まりだ。リーンはそう考えて、メイと、そしてカイルに向かってこう言った。
「是非、手伝わせて下さい。」
それに対して、メイとカイルは安堵した様な表情を見せた。そしてこの出会いがきっかけとなり、リーンは歴史学者としての一歩を踏み出すことになったのであるが、その事実に気が付くのは当面先の話であった。とにかく、この会話からリーンとハクリはメイが主催する歴史研究会に所属することになったのである。
小説版 South North Story ⑭
みのり「第十四弾です☆」
満「今日はここまでだな。投稿回数が少なくて済まん。」
みのり「選挙速報見てたからね。」
満「どうやらレイジが望んでいた結果になりそうだ。」
みのり「そうね。これで日本が変わるといいけど。」
満「それは全員で動かすものさ。政治家だけに任せるものじゃない。」
みのり「そうだね。」
満「ということで、まあ、歴史ミステリー見たいな感じになってきているが、続きも楽しみにしていてくれ。」
みのり「そうだね!では来週も宜しく☆人気のカイメイは来週爆発させる・・かも?お楽しみに!」
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