レイジの投稿作品一覧
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第四章 ガクポの反乱 パート2
それから四日程度の時間が過ぎた、四月二十四日、太陽が中天からほんの少し西へと傾いた昼過ぎに、リリィはいつまでも果てなく続く林道をただ一人、パール湖へと向けて北上していた。汗ばむ程度の陽気ではあるが、日光を遮る木立のおかげで、寧ろ心地の良い涼しさを味わうことが出来る。...ハーツストーリー 62
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第四章 ガクポの反乱 パート1
本来であるならば、時系列に沿った論述の行い方が最も理解し易く、優れている手法であることは十分に理解しながら、それでもここで私はこの文章をお読みいただく全ての人に対する謝罪を込めて、そのカレンダーを二週間余り、巻き戻すことを要請しなければならない。後世にルワールの戦い...ハーツストーリー 61
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革命の闘士
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第三章 決起 パート20
終わった。
大きな打撃を受けながら、それでも最低限の秩序を保ったままで撤退してゆく帝国軍の様子を眺めながら、リンはそう考えて徒労にも似た溜息を一つ漏らした。顔の辺りが気色悪い。自慢の髪も妙にごわごわとした感覚があるところから察するだけでも、自分が大量の返り血を浴びている...ハーツストーリー 60
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第三章 決起 パート19
よかった、間に合った。
先頭を走るウェッジに遅れまいと騎馬を操作するリンは、既に本隊との乱戦が開始されている前方の様子を見て安堵するようにそう呟いた。まだ、本隊は突破されていない。
「覚悟は、ついているか?」
振り返りながら、ウェッジがリンに向かってそう言った。速い...ハーツストーリー 59
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第三章 決起 パート18
火砲を失ったことが、或いは良い効果を生むかも知れぬ。
多少目減りしたものの、それでもほぼ全軍が生存している状況にある帝国軍を率いるハンザは、明らかにその行軍速度を上げた部隊の様子を眺めながらそのように考えた。先程川向こうからの砲撃により損傷したカノン砲は全て街道に放置し...ハーツストーリー 58
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第三章 決起 パート17
多分、このあたりだと思うけれど。
密かにルワール城を抜け出してたった一騎で農道を走り続けていたセリスは、ルワール城から無断で拝借してきた周辺地図と周りの景色を見比べながらそのように考えて一度馬の歩みを止めた。先程から砲撃が続いているところを見ると、もう既に戦は始まっ...ハーツストーリー 57
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第三章 決起 パート16
雷雲が一度に訪れたかのような、大気を揺るがす爆発音が響いた。それと同時に、数十メートルの上空にまで砂埃が巻き起こる。だが、その成分は砂ばかりではなかった。赤く染まる肉体の破片と交じり合って、砕け散った鉄片もまた空中を乱舞している。唐突に前方の火砲隊を襲った爆発の意味をハン...ハーツストーリー 56
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第三章 決起 パート15
どうもまだ、慣れないな。
帝国軍迎撃の為にルワール城を出立したアレクは、歓呼の声で見送りに訪れた群衆の姿を眺めながらどうしてもそのようなことを考えた。成り行きで国民党党首という立場を拝命することになったとはいえ、これまでは基本的に影役として活躍していた自分がこのような大...ハーツストーリー 55
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第三章 決起 パート14
髪形を変えたリンが作戦本部となった応接間にその姿を現した時、その場に集合していた一同は揃って感嘆の声を上げることになった。まるで生まれ変わったようなリンのその姿に、リンとレンは双子という事実を改めて認識した同席者に対して、リンは一言目に、こう宣言した。
「帝国軍と戦いま...ハーツストーリー 54
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第三章 決起 パート13
「リン、どうしたの?」
応接間を出て、揺れる両脚を引きずるように歩き出したリンに向かって声をかけた人物がいる。厨房で昼食の手伝いをしていたハクであった。
「ん・・なんでもない・・。」
力なく、リンはハクに向かってそう答えた。
「なんでも無くはないわ、リン。とても疲...ハーツストーリー 53
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第三章 決起 パート12
だが、リンにとって思考できる時間は二週間と与えられていなかった。いつまで経っても法案に対する返答を寄越さないロックバードに対して、帝国が痺れを切らせたのである。そもそも、帝国が元黄の国の軍事大臣を務めていたロックバードに対して臣下としての信頼を寄せていたかというと、決して...ハーツストーリー 52
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第三章 決起 パート11
「キヨテル殿は、なんと?」
キヨテルが退出した後にルワール城の玄関ロビーへと姿を現したアレクは、リンに対して一言目にそう訊ねた。
「協力は惜しまない、とのことよ。」
無事に面会を終えて安堵した様子で、リンはそう答える。
「これから、如何致しますか?」
アレクの問...ハーツストーリー 51
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皇帝カイト
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第三章 決起 パート10
「国民が代表者を選択する、というのですか。」
全てを語り終えたとき、アレクは話の内容を整理するように、落ち着いた口調でそう言った。そのアレクに向かってリンは力強く頷く。
「確かに面白い考えです。権力の主体は国王ではなく、国民にあるということでしょうか。」
「国民の権...ハーツストーリー 50
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第三章 決起 パート9
あたし、どうしたら良いのだろう。
眠れない身体を弄ぶようにベッドに仰向けになったまま、リンはそのように考えた。カーテンを閉め切っているから、リンの私室は視界が全く届かない暗闇に包まれている。天井を見上げているというよりは、まるで闇の中に一縷の光を捜し求めるかのようにリンは...ハーツストーリー 49
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第三章 決起 パート8
ルワール城の玄関までキヨテルとユキを見送ったリンは、最後まで大きな手を振りながら別れを惜しむユキの姿が街中へと消えてゆく様を見届けると、疲れを感じる重たい溜息をその場に漏らした。今更、あたしに何が出来るのだろう、と考える。もうあたしは黄の国の女王ではない。それどころか、公式...ハーツストーリー 48
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第三章 決起 パート7
リンがキヨテルとユキを伴ってルワール城へと戻ったのは、それから一時間程度が経過した頃合であった。通されたのはルワール城の二階中央にある応接間である。今でこそ応接間として利用されてはいるが、かつて黄の国に滅ぼされたルワール王国が存在していた頃は謁見室として設計された部屋であっ...ハーツストーリー 47
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第三章 決起 パート6
「いちご・・。」
寂しそうにユキがそう言った。キヨテルが予想したとおり、この時期には苺を収穫できない。一応市場を、ルワール城の関係者を探すという目的も持って一回りしてみたが、結局のところ生の苺を手に入れることは出来なかったのである。そのユキの手には、止む無く購入した苺ジャ...ハーツストーリー 46
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第三章 決起 パート5
「キヨテル、退屈だよう。」
幼い少女が、椅子に座ったまま、地面に届かない足のやり場に困るようにぱたぱたとその足を揺らしていた。ユキである。そのユキにテーブルを挟んで向かい合っていたキヨテルは、やれやれ、という様子で作業の手を止めると、ユキに向かってこう言った。
「少し我...ハーツストーリー 45
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贖罪の女王
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第三章 決起 パート4
リンとセリス、そしてアレクがルワール城に戻った時、城内が上に下にという大騒ぎに包まれていることに三人は気が付いた。一体何事だろう、と瞳をぱちくりとさせたリンの目の前を、ミレアが猛烈な勢いで駆けて行こうとしていた。その勢いで、真っ白なエプロンの端がぱたぱたと揺れている。温水だ...ハーツストーリー 44
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第三章 決起 パート3
木材が触れ合う、小気味の良い音が深く積もった雪原の中に響き渡った。ルワールの街から少し離れた、春を迎えると小麦畑と変化する場所で二人の少女が剣を振るい合っていた。その二人から少し離れた場所では、夕日のような赤い髪を持つ、体格の良い細身の男性が二人を見守るように腕を組みながら...ハーツストーリー 43
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第三章 決起 パート2
「それで、ガクポ殿とのコンタクトはどうするの?」
キヨテルに向かって、リリィがそう訊ねた。居場所を掴めたとして、今この場にいる三人の中にガクポと面識のある人物は存在していない。誰かがガクポとの橋渡しを行う必要があった。
「リリィにお願いしたい。」
少しの間を置いて、キ...ハーツストーリー 42
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第三章 決起 パート1
カイト皇帝がルーシア王国から命からがら撤退した1805年十二月の後半、港町ルータオを訪れた二人の人物が存在した。その前に、この時点でのルーシアの状況を簡潔に整理しておかなければならない。難航した帝国によるルーシア遠征とは異なり、ルータオ占領作戦は赤騎士団からの痛恨の損害を受...ハーツストーリー 41
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第二章 ルーシア遠征 パート17
一方、本陣で全軍の指揮を執っていたカイト皇帝もまた、恨めしい表情で天空から舞い降りる冬を告げる使者の様子を眺めていた。夢でも幻でもない、身体だけではなく心をも凍えさそうとばかりに降りしきる初雪はその濃さを時間の経過と共に増していった。
なぜだ。
カイトは自...ハーツストーリー 40
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第二章 ルーシア遠征 パート16
サンクブルグ侵攻作戦と名付けられた、帝国軍による遠征作戦はそれからおよそ一週間後、八月二日に開始された。その準備に一週間程度の時間を必要とした理由には諸説あるが、最大の理由はサンクブルグに関する知識的な問題であった。当初から最終目的地を王都ルーシアと定めていたミル...ハーツストーリー 39
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バニカ=コンチータ
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第二章 ルーシア遠征 パート15
「イングーシめ、我らをあくまでも愚弄するか!」
カイト皇帝の怒声が王都・・いや、既に旧王都となったルーシア王宮の一室で鳴り響いたのは七月二十五日午後の出来事であった。ルーシア王国による遷都宣言を受け、普段は冷静を保つカイト皇帝ですらも平静を保つことが出来なかった...ハーツストーリー 38
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第二章 ルーシア遠征 パート14
「皇妃様!」
それから暫く経過した頃、自身の名を呼ぶ一人の男性の声を耳にしてアクが振り返ると、火に怯える馬を叱咤しながら火炎の中を駆け抜けていたのだろう、額を熱風による汗に濡らしたテューリンゲンの姿がそこにはあった。
「どうしたの?」
テューリンゲンの様子を見...ハーツストーリー 37