結末はどうなるの?
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「さあ今日も頑張ろう!」
初音先生がにこやかな笑顔で告げる。対するメンバーは、皆微妙な顔をしていた。
今日は学園祭二日目、最終日である。昨日はライブだったが、今日は演劇である。ずっとステージにいる気がするけど、私に休みはないのか?
「……で、なんで私はこれなんですか?」
私が今着ているのは、薄い水色のドレス。実際はドレスじゃない。ほとんどワンピースみたいなもの。髪は神威先生がくれたヘアゴムでポニーテールに結ぶ。ゴムの上から赤いリボンを、髪飾り的な意味で軽く結んである。ようするに、お嬢様。
「あら、結構似合ってるわよ?」
「本番で初めて着るのもどうかな……」
「じゃあ、俺はどうすりゃいいんだ」
神威先生を見ると、彼はいつもの白衣ではない。正反対の黒。執事服を着ています。もちろん、レン君が用意した衣装です。なんということでしょう。いろいろと心臓に悪いではありませんか。
「せ、先生、それ……」
「ん? あぁ、どうだ? 変か?」
「い、いえ。とても、お似合いです」
「そうか、それはよかった」
神威先生はそう言うと、何を思ったのか、ニヤリと笑って私に右手を差し出した。
「そんな顔をしていたら、楽しくありませんよ? どうせなら笑顔で最高の舞台にしましょう、お嬢様?」
いきなり何を言うんだ、この人は。
「まだ本番じゃないですよー……」
「今から役に入ってたほうが、何かと都合がいいんでな」
「都合って」
今回の劇は、執事とお嬢様の恋愛が中心らしいけど、そんなに恋愛要素あったかな。
初音先生は、赤いドレス(もどき。そんなにフリルとかついてない)を着ている。ワイングラスでも持てば、どこかの国の貴族のパーティーにでも参加してそうだ。ちなみにそんな彼女は、神威先生を見てぼーっとしている。
「初音先生。駄目ですよ? 今回はルカちゃんがパートナーなんですから」
「わ、わかってるわ緑川さん。でもね、ほら。イケメンがここに……うふふのふ……」
あ、なんかもう初音先生ノックアウトされてる。メイド服のグミちゃんは相変わらずにこにこしている。確かに、ここにはイケメンがいるけどさ。執事服着た人とか、ね。それさっきも言ったね。
「あ、もうそろそろ始まるんじゃない?」
「そうだね。まぁ、頑張っていきましょうか?」
そして、開演のブザーが鳴った。
*
『Future』。閉ざされた世界で生きることを余儀なくされた孤独なお嬢様が、一人の執事から愛を教わる話。
二学年がメインの公演は、尺の問題がそんなに長くないため、そこまでセリフを覚えるのが難しかったわけではない。
それでも、緊張しすぎて、本番中の詳しいことはあまり覚えてない。でも、セリフを間違えたりはしていないと思う。まぁ、覚えているところは、結構印象的なところなんだけどね。
「……寂しい景色ね」
多分今は、私が一人バルコニーで佇む場面。設定が貴族のお屋敷だから、結構豪華っぽいつくりになっている。レン君これ作るの大変だったろうな。
「……どうされました? 宴はまだ、終わってはいませんよ」
あ、あのセリフだ。私がすっごく戸惑ったあのセリフだ。
「何故、ここにいらっしゃるのです?」
「……パーティーなんて、ただの情報交換会。貴族達の世間についての悪口ばかりよ。だから、私はパーティーが嫌いなのよ」
「だからここに? こんな、風が冷たく当たる場所に」
「そうよ。それに、お母様は私のことを道具として見ている。私なんかが楽しめるわけないのよ……」
セリフが長い。普段自分の言葉を自分の意思で話すのとは違って、噛まずに言えただけ奇跡なんだけど。ちなみに、「お母様」の役は初音先生であるー。よくあんな役やれるなあ、初音先生は。
「主役が楽しまないでどうするのです?」
「主役? 確かに表向きは、この宴は私が主役よ。でも本当の主役は、私じゃないわ」
「……まったく。お嬢様はどうして笑顔を見せてくださらないのか。……何か、理由でもあるのでしょうか」
「あら、気になる? でもね、私は道具として育った。ずっとこの屋敷に閉じ込められていて……退屈よ?」
無表情な私とは対照的に、少し笑みを浮かべている神威先生。そういう役なんだけど、なんで私無表情なのよ。彼に笑ってと言われたらそうしたくなる人間ですよ、私は。
とりあえず今の心境。セリフが長いよ。私演劇素人だよ、リンさん張り切りすぎでしょ。どうしてこんなに長いセリフを考えたの。
「そうですね……ならば、お嬢様。僕と一緒に来ませんか」
本番前やあの時のように、彼は私に右手を差し伸べた。声はあの時のように、普段私達が聞くことはない、甘い声。一度聞いているセリフなのに、やっぱり私の鼓動は速くなる。緊張しているからか? それとも。
「あなたと?」
「はい。と言っても、今夜だけですが」
「いいの? 私が外に出るということは、お母様を裏切るということになるわよ?」
「別に構いませんよ。それに、僕はこの屋敷の使用人ではなく、お嬢様、貴方にお仕えする執事です」
「私の味方なのね、あなたは。……本当にいいの?」
「えぇ、覚悟はもうできていますから」
彼は台本通りのセリフを言って、台本通りに動く。それは私も、この劇にいる全員がそうだ。でも、なんでなんだろう。
「それに、あなたの望みは“ここにいること”じゃない。外の世界を、見たいのでしょう」
今まで見たどんな彼よりも、悲しそうに見えたんだ。
*
劇は順調だった。
「ねぇ、歌っててもいいのかな?」
「どうぞ。お好きなだけ」
月の見える花畑。そのシーンで私は、歌を歌う。
「 ねぇ、勇気を出して進めば 違う景色が見えるよね …」
弾けるようにじゃない、ここにいる皆を包み込むような感じで歌う。歌い方という演技に気をつけ、会場全体へ歌という魔法を。『Singer』取得者である私にできること。
「 そこで君が見た景色は、 きっと僕の望むもの …」
『未来への翼』。曲はバラードで、昨日のライブで私が歌った。
未来への翼、か。もしその翼が私にあったら、きっと迷いなく進めるだろう。これから待ち受ける試練も、全て悔いが残らないように、翼で飛び越える。遥か遠い未来にある希望に向かって。そんな歌だと、私は思う。
劇だから、少し口ずさむだけの歌。少し短めで、サビだけ。
ふと神威先生のほうに目を向けると、彼は天井を見ていた。私も歌うのをやめて、上を見る。
「……ッ!?」
異常事態、一言で言えばそれだった。その瞬間から、やけにゆっくり時間が流れる。思考だけが、加速する。
……何かが、天井から落ちてくる。しかも、私の真上に――
――嘘、でしょ?
「危ない!」
誰かの声が聞こえた気がする。逃げなきゃ、避けなきゃ。そう思っても、どんなに強く祈っても、私の身体は意思に反して、少しも動いてはくれなかった。
【がくルカ】memory【20】
2013/01/22 投稿
「舞台」
改稿しましたが、内容はそんなに変わってません。
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劇中劇:Future 1 https://piapro.jp/t/qYrl
コメント3
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ブクマつながり
もっと見るねぇ、信じてもいい?
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「――ッ」
ちょっと待ってよ、嘘でしょ? こんなの、理解できないよ。だって、だって。こんなの、台本にはなかったはずで。
突然、天井から、何かが落ちてきた。あれは何? 何か黒くて硬い物。もし当たれば、絶対に怪我をする。擦り傷とか切り傷とか、そういう軽い...【がくルカ】memory【21】
ゆるりー
どういうこと?
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「……で、どうしてこうなった」
バスから降りて最初に見たのは、初音先生が転んでいる光景だった。別に初音先生がよく転ぶのはいつものことなのだが、右足の靴が無くなっている。どういう転び方をしたんだろう。
「どうしたんですか、初音先生」
神威先生が呆れながら問い...【がくルカ】memory【12】
ゆるりー
この気持ちの正体は?
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「ルッカーーー!」
メイコが私めがけて走ってくる。私は危険を察知し、陸上選手の日本記録ぐらいはあろうメイコの突進(体感)を回避するために、真横にずれる。
そしてスピードを落としたメイコの手が、空を切る瞬間。
「え」
メイコの制服の襟を掴んで、私から...【がくルカ】memory【6】
ゆるりー
ここで何が起こる?
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「うおー、すげえ!」
クラスメイトである鏡音君――鏡音はこのクラスに二人いるので、レン君でいいだろう――が、窓を開けて叫んでいた。はっきり言うと、うるさい。でも、このバスの窓から見る景色は、本当に素晴らしいのだ。
山の新鮮な空気はとてもおいしい。景色に...【がくルカ】memory【11】
ゆるりー
理解できない何かに。
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「調子はどうですか?」
扉をノックすると返事が聞こえる。病室に入ると、中は甘い香りで満たされていた。ストレートに言えば、すごく花のにおいがする。これがスギ花粉とかだったら、一部の人は耐えられないんじゃないかな。
この部屋の主である神威先生(休業中)は...【がくルカ】memory【26】
ゆるりー
あなたにとって、彼女はどんな存在?
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「―――といって、ここは……」
二-Bの教室に響くのは、神威先生の声、チョーク、シャーペンを動かす音。いたって普通の光景だ。
私のノートは、言葉で埋め尽くされて真っ黒だ。他の教科とかもそうだけど、日本史とこの古文だけは、ノートを解読する...【がくルカ】memory【7】
ゆるりー
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ご意見・ご感想
Tea Cat
ご意見・ご感想
ルーカーさーん!!!!
ちょ、今から二次元と三次元の壁を越えて助けに行くよ!
あ、でもがっくんに助けてもらってるのを見て2828するのもいい!(ぉぃ
劇の内容が楽しみで仕方がないよ!
もっとがくルカでいちゃついてほしいよ!!
ブクマもらうZE☆にゃぁ
2013/01/27 19:52:30
ゆるりー
じげ?んの?の壁越え?て?いつ?でも?会いにい?く?♪((
www
絶賛考え中!←
頑張る…頑張るから待って…
ブクマさんくす☆
2013/01/27 23:17:45
雪りんご*イン率低下
ご意見・ご感想
劇 の 内 容 を は よ !!←
がっくんが一瞬執事通り越して王様に見えた……あ、ひげはついてないy(蹴
カ、カイメイはどうなるのだろうか……妄想膨らませたら2828が止まらなくなったんですが(ぇ
F u t u r e は y(ry
2013/01/22 22:17:02
ゆるりー
劇の内容まだしっかり 決 ま っ て な い !←
※しっかり執事。ネクタイは緩めだと個人的に嬉しい((
ひげwww
カイメイ…?どうしましょ(^p^)
どんな妄想した!?w
とりあえず頑張って書いてみる…
えっと、がくルカとカイメイとレンリンと…?(((多いよ
F u t u r e は 考 え る か ら 待 っ て t(ry
だがその前に21話な!
そして誰もルカさんの心配してくれn((((←
2013/01/23 00:10:37
すぅ
ご意見・ご感想
ああああああああああああああああ!もう!
2828が止まらない!!!!
もう声が出ません!
むしろ息もできません!!!!
ずっと悶えてました((完全に変質者ですよw
2013/01/22 19:34:03
ゆるりー
2828止まりませんか…!ありがとうございます!!
声!?いや、息はしましょうw
どうも、もう一人の変質者ゆるりーです(ドヤァ
ブクマありがとうございます!
2013/01/22 22:08:22