aotenjouの投稿作品一覧
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(おーい)
そこからボールを落としてよ
誰があんなところに
ボールを蹴り上げてしまつたんだらうつて
屋上はプールみたいに水が溜まつてゐた
屋上ぢやないひさしの上だ
3階の特別教室の窓側からだけ見えるんだよ
水が流れなくてボールが拾へないんだ
ずつと水が流れないよね
排水口がないのかな...ボールは落ちてくる
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一番弟子には鉄の剣
二番弟子には木の剣を
三番弟子には紙の剣
師匠は授けた
嫌はれてゐるのか
えこひいきなのか
何の謎かけなのか
いぶかしがる兄弟子たち
迷つたらだめ
即答しろ...紙の剣
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馬車道通りといふのなら馬車よここへやつて来て
しつかりぼくをひいてくれ跡形ものこさずに
土や水や空気にぼくの体をとけ込ませ
ここに生れてこられるその日を待ちたい
馬車道通りには今日も顔がない
馬車道通りには今日も顔がない
馬車道通りには今日も顔がない
馬車道通りといふのなら馬車よここへやつて来て
し...馬車道通り
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人気のない惑星で石だけが動いてゐる
歩行者用の信号もまだ働き続けてゐる
みんな風になりたがり
ここには誰もゐなくなつてしまつたよ
石を一つ動かしてはまた戻し
身軽になれない
街はタイルの模様
長い工事の途中
風はそれをなぞり
長い散歩に出た...風の墓標
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鉄兜のひさしを伝つて滴り落ちる雨粒越しに
スタジアムのナイター照明が虹のカーテンを作り出してゐる
避難訓練の集合位置を括りつけた金網は
ぼくの触れることのできる世界との境界だ
植物みたいに人間がびつしりとグラウンドに生え
根を張つたやうに長靴の裏をぴつたりと揃へてゐる
背番号を持つた木は小さな穴で呼...雨三景
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人は僕の詩を
せせこましいと言ふ
それに何が言ひたいのか
よくわからないと言ふ
米を箸ではさんでどうしたとか
足の裏が地面から離れてどうしたとか
天丼の丼のふちがどうしたとか
そんなことばつかり出て...竜の雲
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小さく折りたたんだ紙に
銀行の口座番号を控へておいて
いつでも取り出せるやうに
財布の中に入れておくんだ
お金は全然貯まらないけど
何でもいいから役に立ちたい
そんなことをしてゐたら
君のお金がなくなつてしまふよ
到底手に入れられない宝物を欲しがる君は
ああ現代のかぐや姫ですか...かぐや姫
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人の背丈ほどに積み重ねられた
文字の書いてある紙に火がつけられた
窓の外には緑の木々が揺れてゐるけれど
ここでは燃えかすが風に吹かれることもない
こんなものは必要のないものだと
お菓子のやうな本に書いてあるらしい
栄養が一杯で身体にいいと言はれても
何の味もしない食べ物や温泉みたいだ
燃やされてしま...炎上 (別Ver. 01)
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人の背丈ほどに積み重ねられた
文字の書いてある紙に火がつけられた
窓の外には緑の木々が揺れてゐるけれど
ここでは燃えかすが風に吹かれることもない
こんなものは必要のないものだと
お菓子のやうな本に書いてあるらしい
栄養いつぱいで身体にいいと言はれても
何の味もしない食べ物や温泉みたいだ
燃やされてし...炎上
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みんなの時が止まつた日
遠巻きにする人垣の中に
あなたは入つてゐなかつた
必ずゐると思つたのに
200キロも歩いてやつてきたのは
何かを良くも悪くもしたいからではなく
ましてや好きとか嫌ひとか伝へたいからでもなく
ただひと言言ひたいことがあつたから
都の南西にあつた
をじさん夫婦がやつてゐる...告白
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紙を一枚ください
ここには幟が立つてゐて
西側から来る車がよく見えない
気を付けてと書いて歩くから
旗竿は地面にしつかり突き刺さり
抜いてみたら深い穴ができてゐた
時代装束の行列が昼寝をしてゐるみたいだ
これから関ヶ原へ行つてみよう
繰り返しても全然飽きないやうな
昔の歌を教へてもらつたよ...紙を一枚ください (Ver.01)
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紙を一枚ください
ここには幟が立つてゐて
西側から来る車がよく見えない
気を付けてと書いて歩くから
旗竿は地面にしつかり突き刺さり
抜いてみたら深い穴ができてゐた
時代装束の行列が昼寝をしてゐるみたいだ
これから関ヶ原へ行つてみよう
誰かに道を聞かうよ
そしてことづかつてはくれないか...紙を一枚ください
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水草はどこからが太陽なんだらう
自動車のタイヤに細かく切つてもらつたのか
洗つてないカーテンの剣に遊ばれてゐるだけなのか
木曜にやつてきてはまた日曜へと去つていく
擦り切れた影の一本一本に過ぎないのか
椅子があるのになぜ誰も座らないんだらう
空に浮かんでゐる引き出しは磁石でバランスをとつてゐるのか
...水草はどこからが太陽なんだろう
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肩にのせた段ボール
太陽の坂道
ガムテープを転がして
行き先を決める
あのころを知る者は
ただ一人
また今日旅立つ
最後の世代
あてのない旅に酔ふ
浮かれた流行り風邪ももうゐない 今...最後の世代
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公園の砂場の砂をカバン一杯につめて
夜明けが来る前に長い旅に出かけよう
町をひとつ過ぎたら砂粒を一つ捨てよう
次の町に着いたらまた砂粒を一つ
長いたたかい
沙漠の砂をカバン一杯につめて
ロケットに乗つて宇宙旅行に出かけよう
星を一つ過ぎたら砂粒を一つ捨てよう
次の星に着いたらまた砂粒を一つ
長いたた...長いたたかい
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歩いた方が早いから
風を体に当てているんだ
乗り物だらけの世界で
時間と距離を稼いでいこう
「元気を出して」「さようなら」
声の調子まで似ているんだ
失ふことはたやすいよ
手に入れてすらいない物まで
地図をたしかめたいから
爪先を影に置いて行くんだ...弦のないギターの歌
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一つめのバスにはもう乗れさうもないよ
もう間に合はないよ
ここからバス停まではまだまだ離れてゐる
まだまだ離れてゐる
ここはとても山奥でなかなかバスは来ない
だけどバスを待つ人はこんなにたくさんゐる
二つめのバスにももう乗れさうもないよ
もうすぐ出てしまふ
ここからバス停まではまだまだ離れてゐる
ま...バスを追いかけて
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茶の間の襖を開け広げ
畳に影をつけてみた
敷居を跨いだその足を
白い所に置いてみた
若者を座敷に上げて
湯呑みに番...魔術師
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歯ブラシに絵の具をつけて
金網の上でゴシゴシとこする
新聞紙の活字が縁取りされて
テレビ欄にも雪が降る
秋のカルタを作るために
画用紙に卵の殻を貼る
色とりどりの文字で書かれた
五・七・五はじつにありきたり
スプーン二本に皿と鍋
映画を二時間見続けて...スプーン2本に皿と鍋
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欠けた茶碗の中に雨
激しく降つてゐる
机の上のおかずは
キュウリの酢の物
昨日の夜の残りの
コロッケが一つ
無理して買つてきたやうな
真新しいサッカーボール
しつかり締めてなかつた
水道の蛇口から落ちる ...通信手段
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どういふ態度をとつてみせたらいいのか
握手をしようと差し出した手でジャンケンをした
チョキを出さうとしてフレミングになつてしまひ
知らないのかこれが一番強いんだつて言つてた
星が落ちた日
いつか木の上にひつかかつてしまつたボールを
取ることが出来ずにそのまま帰つてきたことがある
どういふ経緯でここま...星が落ちた日
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あれから何分間かが過ぎて束の間の空き地が生まれた
足元にゐて世界を見るにはそれはそれで恰好の場所
行進曲を止めて打ち水をすることもできるその道の脇に
草が生い茂るやうにかたくななものの声がする
まだ何も終つてないと
昨日や今日どこに人間の幸ひと呼べるものがあるだらうか
心の映像を目の前に定着してみせ...空き地
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米をはしではさんでから
口の中へ運ぶまで
空気の流れがはつきりと
動いて見えるのがわかるよ
机の上にはほこりが積もり
風に吹かれて湯呑みに入つてゐる
景色は異常にゆつくりだけど
思考は鳥のやうに速い
銅像の虎、動く
油断してゐた世界で...銅像の虎、動く
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階段のすぐ下に地下鉄の駅の入口がある
大型の台風が近付いてゐるらしい
お腹が空いてきたよ何時までの電車に乗ればいい?
何にもすることがない自由時間
お茶の缶とコーラの缶の緑と赤との間に
暗い眼をしたかぼちゃの頭がくるくると回つてゐる
まだ今日の出演者は舞台に出てこないよ
今ゆつくりとギターケースを開...自由時間
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あの日お客さんは少なかつた
役者ばかりで少なかつた
リバイバルの映画には線がいつぱい
映写機は僕の後ろでくるくる回つてた
フィルムの中に焼き付けられた未来を
僕は顔見知りの友達みたいに待つてゐた
舞台の上の退屈の国には見物人がゐない
台詞を聞きながら喋るのは言葉の...やせた鳥
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あはれなもんさ外された梯子の上で
ぎこちない物真似の小さな魚たち
でたらめさお前の居場所はここぢやないよ
どこへも行けない僕はもう呆れた
幻の演芸場に木の目印でもそつちぢやない
たどり着けさえすれば道はどれでもいいとは決して言はなかつた
アルファベットは二十六匹の蟹さ
お前の居場所はここぢやないよ
...蟹を横切って大海へ
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ツクツクボウシのにぎやかな
声に囲まれた八月が
久しぶりに聴いた歌に
緑の色を着けてる
乾き切つた洗濯物の
陰に見え隠れした笑顔は
黴と埃の臭ひの午後に
思ひ付いたラジオネームさ
緑のラジオは周波数不明の真夏の奇跡さ
夏になるとそれは聴こえてくるのさ...緑のラジオ
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天井の低い通路を
重油のやうに濁つた水が流れてくる
硝子のコップは並んでひつくり返り
日本酒のビンも浮いてゐる
水汲みに来た人たちは
割れたお椀を手に立ち尽くし
見殺しにされた難破船の
遭難信号を探してゐる
いつまでも人の記憶に残るのは
一番最後の自己紹介...水際にて(第2稿)
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天井の低い通路を
重油のやうに濁つた水が流れてくる
硝子のコップは割れてひつくり返り
日本酒のビンが浮いてゐる
水汲みに来た人たちは
割れたお椀を手に立ち尽くし
見殺しにされた難破船の
遭難信号を探してゐる
いつまでも人の記憶に残るのは
一番最初の自己紹介だけかもしれない...水際にて
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畳の縁を杖にして
街の景色が持ち上がる
電信柱を鉄棒にして
鳥や飛行機がぐるぐる回る
瓦屋根の勾配はしだいに緩くなり
洗濯物から太陽が昇る
天の川の銀河の大昔の想像図を頭に描いて
ぼくは夕暮れの切り刻まれた交差点に立つ
お腹を空かせた気のやさしいウミヘビたちを誘ふ様な
うなぎの蒲焼の匂ひがこの通りを...北極星(第2稿)