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「レンから離れて!」
何人をも従える澄んだ声が、光の溢れる庭園に響く。
幼ささえ残るその声は、今日までお気に入りの青年に向けて。
陽光に眩く輝く金色の髪を揺らし、足早に近付いてくる少女の歩みに、向かい合うように対峙していた二人が場を譲るように退いた。
割り込むようにして二人の間に立ち、リンは大きく息...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第19話】後編
azur@低空飛行中
「指輪を返してくれないかな」
そう言った男の顔には、常と変わらない穏やかな笑みが浮かんでいた。
まるで紅茶のお代わりを頼むような気軽さで、この王宮に数多ある中庭のひとつに据えられたテーブルセットに寛いだ様子で頬杖を付いたまま、彼は呼び止めた召使の少年に声を掛けた。
「何のことです」
前置きもなく告げ...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第19話】中編
azur@低空飛行中
「王女様」
呼び止める声に、リンは振り返った。
視線の先には人気のない回廊が、歪みなく続いている。
柱越しに続く内庭の方にも視線を漂わせるのだが、やはりそこにも声の主と思しき姿はおろか人影ひとつも見えなかった。
奇妙なほど静まり返った周囲に眉を潜め、視線を先に戻そうとして、リンはぴたりと足を止めた。...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第19話】前編
azur@低空飛行中
ミクの長い睫が揺れた。
ゆっくりとそれは瞬き、ゆっくりと瞼が開く。大きな瞳が光を宿し、カイトの事を見つめてきた。
「カイト。」
花のような唇が、カイトの名を呼び、白い腕がゆっくりと、カイトの頬に触れた。
まだ体温の戻らない冷たい指先がカイトの頬をなぞり、首筋を撫でる。驚いた表情のカイトにミクは...鳥篭と蔦10~カンタレラ~
sunny_m
時が、止まった気がした。
目を閉じたミクを抱き上げると、力の抜けた身体がだらりとカイトに寄りかかる。全く動くことは無く、腕の中で、象牙のようなミクの肌から徐々に熱が失われてゆくのをカイトは感じた。
死んでしまった?まさか。
致死量には達していないはず。そうカイトは思ったが、しかし毒は毒。少な...鳥篭と蔦9~カンタレラ~
sunny_m
無色透明の液体が入った壜を目の前にかざし、カイトはそれを見つめた。
まるでシロップかなにかのようなそれは毒だった。
蓋を開け、テーブルに用意しておいたグラスに毒を数滴入れた。
致死量に満たない量の毒を、ワインに入れた。これならば、彼女は死なない。だけど、これをミクに与えれば、カイトがミクを殺...鳥篭と蔦8~カンタレラ~
sunny_m
~この作品はぬるいですが性的な表現があります。
苦手な方はご遠慮ください。~
ラストダンスを待たず、カイトは舞踏会を後にしていた。
正直、ミクが他の男と楽しくしているのをこれ以上見たくはなかったのだ。自分でそう仕向けたくせに。とカイトは自嘲した。
もう、疲れた。
部屋に戻り、着替える気...鳥篭と蔦7~カンタレラ~
sunny_m
「メイコ。」
見知ったその姿に、カイトが名を呼ぶとメイコはちらりと踊る人々に視線を向けた。
「一足遅かったわね。噂のカイトのお姫様とお話しようと思ってたのだけど。」
そうメイコは茶化すように言って、隅で控えていた召使に合図を送る。
「この二人に飲み物を。」
そう指示を出し、メイコは二人に向き直った。...鳥篭と蔦6~カンタレラ~
sunny_m
美しく着飾った貴婦人と紳士達。弦が奏でる音楽。まるで昼間のように眩く輝くシャンデリア。人々のざわめきと香水の香りが入り混じりどこか退廃した空気を醸し出していた。その中を、カイトがミクの手を引き、進む。美しいドレスに身を包んだミクは初めての場所に瞳をきらきらと輝かせた。
ミクを、舞踏会へ連れて来た...鳥篭と蔦5~カンタレラ~
sunny_m
ハツネの代わりに、何の穢れも知らない世界にミクを置こうと考えていた。実際、カイトは閉じた世界でミクを汚さず美しく育ててきた。
結果、ミクはハツネとは違う、カイトの思惑通りの無邪気な娘に成長してくれた。面立ちはハツネとそっくりなのに、ハツネとは違う。ミクはハツネのように儚げではなく、光が良く似合う...鳥篭と蔦4~カンタレラ~
sunny_m
椅子に背をもたせ掛け、カイトは本を読んでいた。開け放たれたままの窓から吹き込む風が、白いカーテンを小さく揺らす。部屋の隅に置いた蓄音機から流れるレコードの音が部屋の空気を静かに揺らしていた。
ぱらり、とページをめくる。と、次の瞬間、紅い花弁がひらひらと頭上から本の上へ降り注いだ。本の世界に没頭し...鳥篭と蔦3~カンタレラ~
sunny_m
~この話はぬるいですが性的描写があります。
苦手な方はご遠慮ください。~
「それで、あの少女は何者なんだ?」
そう問いかけるカイトにカムイは、ある有名な貴族の娘だ。と言った。
「貴族と、その愛人との子供だ。この屋敷で愛人である母親と一緒に暮らしていたのだが、先日、母親が死んでしまって。今はあの...鳥篭と蔦2~カンタレラ~
sunny_m
~この話は、ぬるいですが性的な表現があります。
苦手な方はご遠慮ください。~
長い髪を二つに結い上げた少女は、光の中であどけなく微笑んでいた。
少女を中心に、世界が色を取り戻した。止まっていた時計が時を刻み始め、消えていた音が再び流れ始めた。
―カンタレラ―
「本当に瓜二つだろう?」
窓...鳥篭と蔦1~カンタレラ~
sunny_m
レン「ココロー。
ココロ「・・・・・・・・・・・・
レン「ココロ??
ココロ「・・・・・・・・・・・・
レン「ココロ゛ーーーーーっ!!!!!!!!!
ココロ「・・・・・・・・・・・・
レン「どうしたんだよぉ・・・・・そうだっ!
ココロの嫌いな脇をくすぐってやる・・・・
こちょこちょこちょこちょこちょ...ボカロと僕の生活。15
ココロ
「公子」
先触れもなく現れた影が、足元に膝を突く。
待ち構えていたように、カイザレも前置きを抜きに要点だけを短く尋ねた。
「戻ったか。どうだった?」
「近隣三つの村が焼き払われました。娘だけは助けられましたが、他の村人は・・・」
手短に報告するハクが、歯切れ悪く言葉を切る。
彼女は確か父親がいると言...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第18話】
azur@低空飛行中
注意:流血、吐血表現あり。ご注意ください。
華やかなドレスをまとった貴婦人としっかりと正装した紳士たちが集う祝賀パーティの席は、僕にとっても父にとっても最悪の場所だった。この権力抗争で敗れた父がパーティに参加していることは、他の政治家たちにとってもいい笑い話になっているらしい。ちらちらと視線を向け...ある毒薬にまつわる物語4
あっく
彼女と別れてから一週間がたとうとしている。あれ以来決して僕からは彼女とコンタクトをとろうとはしなかった。別れて二、三日のうちは、仲介をしてくれたメイドを経由して、彼女から手紙が届いたが、どうしても読む気にはなれず、さりとて捨ててしまうほど冷徹にもなりきれず、机の引き出しへしまいこんだまま封も開けな...
ある毒薬にまつわる物語3
あっく
屋敷へ帰った直後、待ちかねたように怒り狂った父に呼び出された。
「お前には失望した」
押し殺した声で父は言い放った。大変結構なことだ。
暗く陰気な部屋。暗色で統一された部屋。正直、彼女と数分前まであっていたことが嘘のようだ。
しかし、そんな思いにうつつを抜かしていてはさらに父の不興を買う。僕...ある毒薬にまつわる物語2
あっく
小さなカフェのテラスでカップを傾ける午後。目の前でルビーの色に輝く紅茶の香りを楽しんでいた深緑の髪の少女が顔を上げ、明るいエメラルド色の瞳を輝かせて、はにかんだ様に微笑んだ。
恐ろしいほどに整った幸福は、彼女にとってこれ以上に望むものなどないほどに満ち足りたときを与えてくれているらしい。
「大学...ある毒薬にまつわる物語1
あっく
待ちかねた勅使の帰還を告げる報告に、ミクは謁見の広間へと駆け込んだ。
いきなり飛び込んできた公女に勢いよく詰め寄られ、驚いた顔の勅使が後ずさる。
「こ、公女殿下・・・!?」
「お兄様は、何て!?」
「は、いえ、詳しくは大公閣下に・・・」
「お父様は今、臥せってるのよ!言葉なら私が伝えます!」
それこ...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第17話】後編
azur@低空飛行中
王宮へ戻ったカイザレを待ち構えていたのは、不機嫌さを隠しもしない王女の姿だった。
自室に戻る間もなく呼びつけた青年をねぎらいもせず、気に入りの長椅子に凭れた少女が、険を含んだ視線を向ける。
「随分と遠出だったようね。城下ならまだ分かるとして、辺境の村にまで何の用だったの?」
その言葉に、カイザレは訝...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第17話】前編
azur@低空飛行中
マスターとの音楽生活。第八話。
メッセージ返信・服部様へ。
服部様!毎度毎度ありがとうございます!多分三角関係が出来上がると思いますよw MEIKO→KAITO←ルカ という感じな。では第八話!
ルカ視点!
「・・・・」(あの人は不思議。)『ありがとうございます。』
(私なんかに御礼を言うなんて。別...マスターとの音楽生活。第八話。
閻音 雷
「せっかく訪ねて来てくれたのに、何のおもてなしも出来なくてごめんなさい」
「構わないで良い、こちらこそ急に訪ねて失礼をしたね」
申し訳なさそうに謝るメイコに、突然の客人は笑って首を振った。
その貴族然とした振る舞いと同時に、不思議なほど拘りのない鷹揚さは、以前に押しかけた離宮で会った時と何ら変わる様...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第16話】後編
azur@低空飛行中
「公子に、伝令?」
「本国より至急の知らせを預かっております。恐れながら、殿下へのお目通りを願いたく」
謁見の広間に張り詰めた男の声が響く。
公子の故国から火急の知らせを携えてきたというその勅使を、玉座の王女は気のない様子で見やった。
当の公子は、またぞろ町や都市を見たいと言って城下に下りている。
...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第16話】前編
azur@低空飛行中
「ボカリアへ・・・?」
「――・・・父が倒れたと知らせが。容態が思わしくないそうなのです。看病に戻ることをお許しください」
母国からの知らせを携えて、玉座の前に跪いた王妃は暇の許しを願い出た。
深く顔を伏せて、王の返事を待つ。
僅かな間に痛々しいほど憔悴した姿は、彼女こそが今にも倒れそうなほどだ。
...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第15話】後編
azur@低空飛行中
深夜。控えの間で休んでいたローラは、鋭い叫びに眠りを破られた。
俄かには夢か現かわからず、暗闇で目を開いたまま、ほんの一瞬前の記憶を辿る。
高く響く、若い女の声。場所は壁をはさんで、すぐ近く。――隣の部屋にはミクがいる。
一気に繋がった思考に、彼女は跳ねるように身を起こし、主人の部屋へ通じる扉へ駆け...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第15話】前編
azur@低空飛行中
「お兄様」
軽いノックの音に続けて、少女は扉の隙間から室内を覗きこんだ。
「お忙しい?今入ったら、お邪魔かしら」
扉から半分だけ顔を出し、遠慮がちに声をかける。
その声に、調べ物のために自室に篭もっていた彼女の兄は、手にしていた書物から顔を上げた。
いつも穏やかな蒼い瞳がこちらを向く。
「そんなこと...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第14話】後編
azur@低空飛行中
開け放した窓の外、遠く教会から響く三時の鐘が、昼下がりの心地よい風と共に入ってくる。
テーブルに並ぶのは、焼き立てのタルトと砂糖漬けのオレンジピール、チョコレートにミントティー。
小さな一輪挿しに飾られた可憐なミニバラに、注がれるお茶を待つ少女の唇が綻んだ。
「狩りに?」
「そうよ、準備をしておいて...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第14話】前編
azur@低空飛行中
錆びついた門を潜った先、狭い中庭を囲んで、その小さな屋敷は建っていた。
外壁の半分を蔦が覆っている。
庭も建物も、最低限の手入れはされているようだが、どこか寂れた印象を漂わせていた。
「ここは・・・」
先を行く王女が振り返った。
「母の生家よ。私が生まれた場所でもあるわ」
「誰も住んでいないのですか...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第13話】後編
azur@低空飛行中
「街が見たい?」
怪訝な顔で王女は聞き返した。
「街って、城下のこと? そんなものを見て、何が楽しいの?」
「その土地にあった生活のための優れた工夫というのは、私の国にとっても勉強になりますから。それに、良く出来た建築や都市の景観というのは、それだけで美しいものですよ」
また訳のわからないことを言う...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第13話】前編
azur@低空飛行中